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GLIM NOSTALGIA

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終幕


 咄嗟に、衝動的にロイに口づけてしまって、…その間にもエドワードは自分の突拍子のなさを自分で罵ったりしたが、やってしまったものは取り消せない。
「…何やってんだか、オレ…」
 とぼとぼと歩いていたら、向こうから誰かが走ってくるのがわかった。道を譲ろうとして、…その誰かはよほど急いでいたのだろう。エドワードと衝突してしまった。
「…つ…」
「すまない、大丈夫か?」
 え、と思ったのはその声に聞き覚えがあったからだ。
「…アダムスのおっさん…?」
 エドワードは驚いた顔をしてぶつかった相手を見返した。そこに居たのは、あの騒動で関わった狸親父だったのだ。

 …あの後、広場に集まっていた元暴徒達は解散させられた。そして、それぞれの故郷へ帰るようにといい含められた。勿論、来るのだけでも精一杯だった者もいる。そうした者はソフィアに残りたいと言い、…真摯に頭を下げた彼らを拒むことは、ソフィアの人々はなかった。
 むしろ、その安全さのせいで若者がどんどん町の外へ出て行くソフィアにしてみれば、その希望は価値のあるものだったのだとも言える。
 そしてエドワードは、結界の無効化を、ソフィアの人々から頼まれた。
 いいのか、とさすがに躊躇したエドワードに、町の人々は言った。これを残してくれたソフィアの偉大さは今でも慕わしいものだけれど、これが壁になって誤解を生むのなら、取り払って生きていく、と。人が来てくれた方が嬉しいのだと。
 だからエドワードは、「グングニル」と呼ばれていたその結界を解いた。これからは、鉄の車輪を持った車もあの町を訪れることが出来る。遠くに離れた家族が会いに来ることも容易くなるだろう。
 そういえばあの蜃気楼の塔は未だにあのままになっている。
 それもそのはず、あの塔に灯されているのは、焔の錬金術師の手になるものだ。普通の火のようにあっさり消えてしまうことはないらしい。恐らく、ロイが何か仕掛けをしたのだろうが…。
 残しておけば観光名所にもなるし、ソフィアの人々にとっては、過去の偉大な錬金術師を偲ぶよすがにもなる。だから、自然に消えるまで、あの塔はあのままでいいのだろう。ソフィアがあの塔に秘めたものは結局調べきることが出来なったが、あれは暴くものではないという思いがあった。
 これから、錬金術師ソフィアのことが色々と研究されていくだろう、エドワードはそう思っている。人体錬成のくだりは覗いて、あの日記を寄付してきたからだ。アドバンスド・セラミックに関しても、ソフィアの影響が大きいようだから、これからどんどん色んな場に彼女の功績が引き継がれていくだろう。
 何であれ、物にはあるべき場所というものがあるのだ。
 たとえばあの楽譜をフィリアとブライスに託したように。
 …あの曲は、後になって、日記を読み返したらタイトルと作られた経緯が判明した。
 どこかの国で、船長だった牧師が作った曲だという。苦難に満ちた旅を超えた時の喜びが盛り込まれていた理由が何となくわかったのと同時に、巡礼の旅を続けたソフィアがその曲を胸に残したのも道理だと思った。

「…なに、珍しいんじゃないですか? アダムス大佐ともあろうものが、髪振り乱して、慌てて」
 にやにやと突っ込んだら、それこそ珍しく、彼は嫌そうな顔をした。そしてそわそわしている。
「その、すまないが、君。私は急いでるんだ」
「そうだね、フィリアの公演はもう始まってるし」
 あの後判明したいくつかのこと。
 ロイは気付いていないし、知りもしないのだろうが、あの夜小さなバーに連れて行かれたエドワードは、フィリアの顔を見て愕然としたアダムスを見て、ひらめいたのだった。
 フィリアの母親はイーストシティに元々いたリリィ。
 あのバーはイーストシティに長いこと居を構えていて。
 アダムスの昔の恋人の名を、リリィ。
「あの後フィリアに聞いたんだ。フィリアはお母さん似なのかな、って。そしたら首捻ってたけど、そっくりだって言われる、って言ってた。そりゃあ驚くよな?」
 わかっているのだぞ、と止めを刺せば、アダムスは降参と両手を上げた。
「多分君が思っている通りだ。ああ、――そうさ、私は気付いてなかったんだ、あの町に、彼女の娘が居るなんて!」
 どうやらアダムスにとって、リリィという人は相当特別な人だったらしい。
 この調子では、ロイとブライスが共同で後見人となったあの歌姫の動向や何かをきちっきちっと調べているに違いない。食えないオヤジだと思っていたが、こうしてみると案外可愛げもあったようだ。
「…行きなよ」
 仕方がないので、エドワードは肩をすくめて苦笑すると、かつての恋人の娘の公演に急ぐ男に道を譲った。
「ああ」
 アダムスは明らかに安堵した様子で再び駆けて行く。その横顔は喜びに満ちている。
「…まったく」
 大人ってヤツは、どいつもこいつも。
 エドワードは苦笑して、また歩き始めた。子供だとも大人だともいえない、その中間に立っているエドワードは、どちらの仲間にも入りきれなくて、ただ肩を怒らせて歩くくらいしか出来なかった。


 フィリアの歌声に背中を押されるように出てきたロイは、向こうから走ってくるアダムスと会った。
 なぜ、と目を瞠るロイと、ばつが悪そうなアダムスの間に一瞬の沈黙。
 しかし、彼らは良くも悪くも大人だった。
「…失礼」
 ロイは言葉少なに断ると、外へ駆け出していった。アダムスは一瞬その背中を見送ったが、頓着することなく、ロイとは逆方向へ走り出した。

 アダムスと別れてから、ホールの敷地から駅へと向かう一本道を走りながら、ロイはエドワードの色々な表情を思い出していた。寝起きに顔をこすっていたのが可愛かったことや、抱きついたら目を白黒させていたこと。さきほどの、大人びた表情…。
「…エド」
 彼は思わず口に出して呼んでいた。
 大人だから、同じ錬金術師として彼の才能に惚れきっているから、そういう、そういうことではなくて――
 ロイは綺麗に結われていたタイを乱暴に乱した。なりふりなど構っていられない。とにかく追いつかなければ、時間が経つごとにその思いは強くなる。
 自分はいつからこんなに鈍くなったのだろうと自問してもどうしようもない。あんな顔をして、離れていかせたくなかった。本当はきっと、自分だって惹かれていた。
 後少しで駅に向かう大通り、という所で、不意にロイの勘に何かが引っかかった。それは、一見すると獣道のようなわき道だ。通ったことはないが、方角を考えるに、駅までの近道かもしれない。大通り沿いに真っ直ぐ行けばセントラルステーションだが、その道だといささか大周りなのは否めない。
 そしてあの少年はせっかちだ。
「…どっちだ…」
 わき道を進んでいたなら追いつけないかもしれない。
 だが、大通りを進んでいたなら、行き違いになってしまう。
「――金髪のチビなら細い道に行ったよ」
 と、それまで気配など欠片も感じなかったというのに、不意に背後から声がかかった。驚いてそちらを振り返れば、木の陰で、ウォッカか何か、とにかく酒を片手に星を眺めている男がいた。
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ