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悪魔言詞録

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183.魔神 ヴィシュヌ



 召喚主さんはこんな話を知っていますか。実はこの世界、私が見ている夢らしいんです。

 変な話に思えるかもしれませんが、こう考えるといろいろとつじつまが合うんですよ。
 まず、私の名は「どこにでも存在する者」を意味しています。この世界が私の夢の中なら、私があまねく存在していてもなんら不思議ではありません。
 また、私はこの世界を維持するのが役割なのですが、そのために「化身」となって現れるんです。世の中の不均衡を均衡にするため、都合よくどこかに都合のよい姿で出現して世界を守るんです。こんなの夢でなきゃ考えられませんよ。
 また、ストックの中でお会いしたメタトロンさんのように、私もあだ名が非常に多いのですが、それも私の自意識ゆえでしょう。他にもこの世が私の夢であることを示せる理由があるのですが、それはひとまず置いときましょう。

 話が変わりますが、私に匹敵する力を持つ神がまだ二柱もいらっしゃいます。一柱はこの世界を想像したとされる神です。彼は一線を退いてのんびりしているので、ここには現れないみたいですね。でも、もう一柱━━すでにあなたが喚び出しているシヴァ神は、破壊と再生の力でこの世界━━私の夢を壊して新たに作り直そうとするんです。

 私が自身の夢を「化身」を用いて維持する中で、彼は今の夢を破壊し、別の夢を創造しようとするのです。

 まあ、それはそれで別に構わないのですが、そうなると今、見ているこの夢はどうなってしまうのでしょう。試験前で苦労している人、成果物がもうすぐ完成する人、頑張ってここまで冒険をしてきて、コトワリをまさに今、打ち立てようとしている半分人間の悪魔。次の瞬間、彼らが違う世界にいたら、それどころか存在しなくなっていたら……。

 それが怖くて、私は夢を維持しているのです。

 世界とはこれほど危ういバランスで成り立っているものなんです。急に言われても信じられないかもしれませんが、そういうものなんですよ。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔