悪魔言詞録
31.鬼神 タケミナカタ
ふむ。久方ぶりに諏訪の地から出ることができたわい。召喚主よ、礼を言うぞ。
……ところで、ここがトーキョーと呼ばれている地か。わしらの頃は東国の目立たない場所というイメージしかなかったんじゃが、ずいぶんとにぎやかになった上に、こんな目もくらむような高いものまで建つとはの。いや、受胎前はもっとたくさん人がいた? ふーむ。それならば、逃げ込むならこの地が良かったかもしれんな。……いや、冗談じゃよ。何? 諏訪の地もいいところだろうって? 確かに悪いところではないが、わしにとって、あそこは逃げ出した末にたどり着いた地だからの。いろいろと複雑な思いがあるんじゃ。
さて、この通りわしは腕を失っておるから、自慢の腕力は以前ほどではない。それに諏訪の地を出てしまって、今、大幅に力を失ってしまっている状態だから、使いどころは心得ておくれ。
何? 近々、ハンマーを持った西洋の雷神と戦う予定があるので、そこで存分に暴れまわってほしいと思ってる? 雷神か……。少々気が重いが、他ならぬ召喚主の命令だ。力いっぱい暴れようではないか。一応、雷神と戦った心得もそれなりにあるしのう。ん? 嫌なら無理はしなくていい? いや、腐っても、腕がなくとも、諏訪の地に封じ込められても、わしは軍事の神じゃ。戦いから逃げ出したとあっては、軍神の名折れじゃからのう。
おお、そうだ、そいつに勝負を挑む時は、上空にある球体、あれの光っていないときに挑むといいぞ。わしの体調がすこぶるいいからな。それに、わし自身は電撃を反射する。相撲対決にでもならない限り、負けることなどあるまい。仮にそうなっても、今度はつぶされる腕もないから安心じゃ。はっはっは。
さて、その雷神とやらはどこにおるんじゃ。ふむ。この異様に高いビルにいるのか。何? そのときが来たら呼び出すので、ストックにいてくれ。ああ、分かったぞ。
さあて、久方ぶりの雷神との戦いか、かつてと同じてつは踏むまいぞ。