悪魔言詞録
148.鬼神 フトミミ
ああ、君か。久しぶりだね。
うん。そうか。君は今、自分のためのコトワリを啓くために頑張っているんだね。それで、僕を喚び出してくれたんだね。それについてはとてもうれしく思うよ。
……ただ、僕のようなものがはたして君に協力できるだろうか。
僕は、一度自分のコトワリを啓こうとして失敗し、命を失った身だ。だが、死んだとはいえ、やはり自分のコトワリをまだ胸に抱き続けている。そのようなものを宿したまま、心から君に協力できるだろうか。
マネカタたちも多数があのときに無残な目に遭ったが、まだまだ生存しているものもいるはず。私が彼らを糾合して、もう一度、立ち上がるかもしれない。君には助けてもらった恩があるし、ある程度なら協力体制を敷いてもいい。だが、少なくともあの女、あいつだけは許したくはないし、君があの女につくというのなら、最悪の場合ここでたもとを分かつことも考えなければならないだろう。
要するに、君のコトワリを啓く作業に協力しようにも、私の心にはまだまだわだかまりがあって、そう簡単に協力できないということだ。
だから、ふたつ。ふたつだけでいい。約束してほしい。まず、あの女のコトワリに同調することはないと誓ってくれ。弱い者が虐げられ、強い者がおごるだけのヨスガというコトワリ。あれだけは認められない。もう一つ。可能ならば、哀れなマネカタのことも考慮に入れたコトワリを啓いてほしい。このふたつを約束してくれるのなら、私は君に助力しよう。
敗北者のわがままであることは重々承知している。だが、こんな立場でも生きていかなければならないのだ。どんなに無力でも、無知でも、無能でも、私は全ての生を肯定したい。どんなに難しくとも、誰もが平等に生きる道を創るべきだと思っていたのだ。
当然、君の思い描く世界とは違うだろう。でも、マネカタの誇りとしてこれだけはゆずることはできないんだ。申し訳ないが、この点だけは理解してくれまいか。