悪魔言詞録
149.魔神 オーディン
召喚主よ。知識というものは、非常に大切にしたほうがいいと思うのじゃよ。
何気ない日々の生活だったり生と死をさまよう戦の最中だったり、この他にも生きていればさまざまな局面が訪れることじゃろうが、どんなときも知識を優先することが望ましい、わしはそう考えておるのじゃ。
例えば、これは失敗例なのだが、神話の主神なんぞをやって幾柱もの神々を束ねておると、まあ、面倒臭い輩もいるもんじゃ。具体的に名前は出さないでおいてやるが、お主も会ったことがあるあいつじゃよ。気持ちよく皆で酒を飲み語らう宴席に勝手に入り込み、ずうずうしく席を要求するようなやつじゃ。それで、仕方なく用意をしてやったら、今度は列席しているものどもを悪し様にののしり始めたんじゃよ。
普通、考えられるか? 飲み会━━友人が集まった場合でも、会社の同僚が集まった場合でも、接待や同窓会とかでもいい。ああ、召喚主はまだ若いからそのような経験はないのか。なら、普通に友人たちと集まって語らっているときでもよい。そんなときに呼ばれてもいないやつがやって来て、そこにいる神々の悪口を言い始めるなんて誰が予想できるというんじゃ?
だが、まあ、この一件はわしの知識の不足が原因だったんじゃ。彼奴ならこのような無礼なことをしかねない、という知識がわしの頭の中に入ってなかったんじゃな。
そういった反省も踏まえて、わしは逃げ出したそいつの行方を調べ、無事、確保に成功したんじゃ。ちゃんと知識を用いて対処すればきちんと結果は出る、ということじゃな。
なに? でも、知識を得るために片方の目を差し出したり、首つりまでするのはいささかやりすぎなんじゃないか、じゃと?
お主、真面目にわしの話を聞いとったのか? 知識の重要さを本当に理解しておるのか? 知識さえ得られれば何を引き換えにしても構わない、そういう気持ちでものごとに臨むべきじゃよ。
そう。知識さえ得られれば、死んでも構わないんじゃ。