悪魔言詞録
137.破壊神 ホクトセイクン
なんじゃ。わしの悩みを聞こうというのか。お主も奇特なやつじゃのう。こんな偏屈な老人の愚痴を聞こうというのじゃから。
お主は、運命を知りたいと思ったことはあるか。試験に受かるだろうかとか、この仕事は成功するだろうかとか、自分はあとどれだけ生きられるかとか、こういった未来を知りたいと思ったことは。
恐らく大抵の人間は、知りたいと思ったことがあるじゃろう。
それは別に悪いとは思わん。むしろ健全なことなのかもしれん。じゃが、そんな人間が行き着く最終地点━━死、について全てを知っているものがいるとしたら、お主はどう思う?
あらためて言う必要はないかもしれんが、わしはそのような全ての人間の死を把握している存在じゃ。しかしそれ故に、聖人のような人物が、数刻後に惨死するのを黙って見ていなければならない。反対に、むざむざ生き延びる大悪党に直接手を下すこともできないのじゃ。
そう。言うなればわしは執行をする者でしかないんじゃよ。
まあ、極々まれにそれを操作して寿命を永らえたなんて笑い話などが存在しているが、そんなことをすればしかられるのはわしじゃ。わしだってただの中間管理職に過ぎないのじゃ。
……ああ、このような話をしている間にも正しい働きをしたものがその命を落とし、汚れを知らぬ子どもたちが何も知らぬまま世を去っていく。その一方で悪党どもがのさばり、怠惰なものが無益な生をむさぼり続けている。
わしはもう、それをながめ続けることに疲れてしまったのじゃ。
初めは持ち前の厳格さでこの役割を全うできると思っておった。しかし、大量の生と死の営み、それを無感情でながめ続けるというのは到底無理な話なのだ。しかも、もうわしはこの役割を簡単に辞することもできない。
お主は悪魔じゃ。すでに人間ではない。だから、わしはそなたの寿命は知らない。そんなお主が生き延びて創造した世界で、わしはこの役目から解き放たれていればいいんじゃがのう。