悪魔言詞録
120.破壊神 セイテンタイセイ
なに、昔の武勇伝を聞かせてくれだって?
はあ……、おまえもそういう手合いかよ。もう少し尻が落ち着いたやつだと思っていたんだがなあ。だって、この国にもあの話は伝わっているんだから仕方がないだろうって? 逆に伝わっているんなら、わざわざ俺が話す必要はないだろうに。
そもそも武勇伝も何も、旅をしてる坊さんをちょっと手助けして、無事に目的地まで連れてったってだけの話なんだよ。大きい荷物を抱えて横断歩道を渡ろうとしている老人をおまえらが助けるのと何ら変わらないんだ。傍目で見ていた人の心を暖かくさせる程度の美談にはなるかもしれないが、それ以上でもそれ以下でもないんだよ、あれは。
でもこの国に伝わっている話だと、すごい強敵と戦ったり、お坊さんや他の個性的な仲間と面白いやりとりをしたり、仏さまなんて偉い方も出てきたり、とてもワクワクするストーリーになっている?
それはさ、話を書いたやつが盛ってるだけなんだよ。遠くを旅したからそれなりに苦労はあったけど、あんな戦いなんぞは全くと言っていいほどなかったよ。せいぜい戦いらしい戦いは野生の獣を狩ったことぐらいかな。それに、仲間も対して面白くもないやつらで、道中、ほんと、会話が弾まなかったわ。
ほんと、あのつまんねえ旅路をよくエンタテインメントに仕立て上げたもんだよ。そういう意味では活躍したのは俺らじゃなくて、作者だと思うよ、あの件に関しては。
なに? この国じゃさらにその話を下敷きにしたマンガが大ヒットしてる? まあ、中盤以降は関係なくなっていくけど、主人公の名前なんかはそのまんまだって?
まったく、この国のやつらは何でも魔改造しちまうなんて話は聞いていたが、他ならぬ俺自身までそんなことになっているだなんて思いもよらなかったな。でも、そんなことになっているんなら、本家本元にふさわしい活躍をしなきゃこの俺さまの名折れだ。いっちょ気合いを入れていくから、よろしく頼んだぞ。