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悪魔言詞録

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113.外道 シャドウ



 人間ってのは、どうしたってわが身が一番かわいいのさ。

 力の強い戦士も、頭がいい天才も、その他一芸一能に秀でた者も、聖人君子だろうとも。結局、最後の最後には自分が一番になっちまう。
 強いて例外を挙げるのなら、子を思う母かもしれない。でも、それだって、もしかしたらこれから話す事象に飲み込まれちまう。人間ってのはそんなもんなのさ。

 ところで、こんな話をすると、これ見よがしに自分の命を投げ出して、何かを成し遂げた者の話をおっ始めるやつがいる。やれ、車にひかれそうな子を助けて、かわりに自分がひかれたやつの話だの、戦国時代、お屋形さまを守るために討ち死にしたやつらだの、そんな例をこれでもかと挙げて反論してくるようなタイプさ。

 でもさ、それって結局、死ぬという損害よりも利益のほうが大きいって考えた結果に過ぎねえんだよな。そこで見捨てたら、あとあと面倒になる、非難される。ならばいっそのことっていう打算が働いただろうって思うんだよ。もしかしたら子を思う母も同じような気持ちのメカニズムだろうなって思うのさ。

 少々回りくどかったが、俺が言いたいのは、人間、皆、大概は清濁を併せ持つわけで、まっさらな気持ちで自己犠牲に走れるやつなんていないってことさ。反対に、「ど」がつくほど真っ黒なやつもそうそういない。もちろん、全員の人間を見たわけじゃないけどね。

 でも、人間の中にはどうしても純白でいたいやつがいるんだよな。あと、たまにだが純黒でいたいという変わったのもいる。俺たちシャドウは、そういったやつらの前に出現して、そして警告してやるんだ。

「真っ白だったり真っ黒だったり、そんなおまえが理想とするような人間は、いやしないんだよ」

って。そう。そいつの黒い部分や白い部分である俺らが真実を伝えているのさ。


 だから、俺は人間の心理には強いが、実際の、それも悪魔との戦闘はからっきしだ。だから、ストックの中で大人しくさせてくれよな!


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔