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悪魔言詞録

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114.魔王 ロキ



 おお、おまえか。久しぶりだな。

 ん? 俺に謝りたいことがあるって? ああ、オサツの件だろ。ありゃ、もういいよ。

 まあ、盗られたときは焦ったけどな。あの頃、オサツについてコソコソ嗅ぎ回っているやつがいたことは覚えていたし、盗ったのはそいつだなとすぐわかったよ。
 それに、あそこにしまっていたものは、俺だってちゃんとしたやり方で手に入れたものじゃない。具体的には言えねえが、まあ、後ろ暗い方法で手に入れたものさ。盗られたーって騒いだら、俺のほうも立場が危うくなるってもんだ。それに、悪銭身につかずの例えじゃないが、そんなもんをいつまでも自分の掌中に収めていられるなんて、露ほども思ってないんでな。

 それに、オサツはもともと人間用の通貨だろう。悪魔の俺が持っているよりは、半分人間のおまえが持っていたほうがいいもんな。何? 知人にあげちまった? それでいいんだよ。何かと交換するために使われたほうがオサツも本望さ。

 もっといえば、門番にトロールを置いといたのも、正直、警護がやや甘かった感があるな。あいつは素直でいいやつだけれども、だまされやすいから何かを守らせるにはあまり向いていないんだろうな。会うたびに何か仕事はないかなんて頼んでくるもんだから、仕方なく雇ってやったんだけど、そのへんはちょっと失敗だったかもな。

 でも、どちらにしたってもう過去の話だ。さっきの口ぶりだと、おまえももうオサツは持っていないんだろう? ならばこの話はお互い水に流して、戦いで勝利を得ることでいい結果を出そうじゃないか。おまえだってそう考えて俺を呼び出したんだろうし、この意見に相違があるはずはないよな?

 ん? 戦いに協力はしてほしいが、そこまで言い訳をするところを見ると、実はまだ根に持ってるんじゃないか。それに、あんたはうそつきらしいからそんなふうに言われてもちょっと信用できない?

 ……こりゃ、オーディンやトールの野郎よりも手ごわくて面倒だな。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔