狩沢さんと帝人のデート
ングがあったからさ・・・。」
そこで前日のメールのやり取りを思い出す。
唐突に来た「何色が好き?」という質問。あれはこういう意図があったのだ。
「まぁ、趣味が合うのかそこまでは分からないからごめんね!
一応どんな服装にも合うような大人しめのを選んだつもりなんだけど。」
「・・・ありがとうございます!すごい嬉しいです!」
ほっとしたように狩沢さんが息をつく。
「ほんと?良かったー!ハズしちゃったらどうしようかと内心ひやひやしてたの!
そのまま付けるのに抵抗あったらチェーンもあるからそれに通して首からかけてね。
それなら目立たないから学校にもつけていけるよ!」
帝人は内心とても感動していた。まさかこんなものまで用意してくれていただとは
夢にも思わなかったのだ。今日一日付き合ってもらっただけでも、帝人の方からお礼がし
たいと思っていたくらいなのだから。
・・・今日はとりあえず出来る精一杯のお礼として夕飯代は出そう。
今度は本当の本気で、デートに誘うつもりで狩沢さんにお礼をしなくっちゃ!
心の中で強く帝人が決心していると
「うん、渡すものも渡せたし、喜んでもらえたし!そろそろ出ようか!」
「あ、はい!」
席を立とうとする狩沢さんに慌てて身支度をする。
早く階上に上がって会計の用意をしないと先に払われてしまうかもしれない。
半ば駆け足で会計に向かう。
「あれ?ちょっとみかプー?」
後ろから追いかけてくる狩沢さんの声を無視しながら財布を取り出す。
「あの!ご馳走様でした!会計お願いしたいんですけど!!」
カウンターの店員に勢い良く話しかける。
「・・・お客様の席の会計でしたらもう済んでおりますが・・・。」
「え?」
「先ほどお連れの女性がお支払いになりましたよ?」
「!!」
あの時だ。お手洗いに行く振りをして会計を済ませてた・・・・?
「ふっふー甘い。甘いよー!みかプー。大人をなめちゃいけないんだよー?」
すぐ後ろから聞こえた声に振り向くと狩沢さんが不敵な笑みを浮かべている。
「カラオケの時は払ってもらっちゃったからね?今回は万全を期したの。さ、行くよ!」
腕を掴まれ外まで引っ張られる。
「いや!狩沢さん!!そんなダメですよ!!僕に払わせてくださいよ!」
「もう払っちゃったもーん。」
「今からでも出しますから!いくらだったんですか!?」
言いながらも気がつく。・・・あぁ、そうだ!値段すら分からないんだった!!
「内緒ー!」
「ちょ・・・狩沢さん!!」
ぴたっと止まると狩沢さんは帝人の顔を覗き込む。
いつの間にか腕を組まれていたことに気づいた帝人は一層混乱する。
「・・・みかプーはさ。真面目だよね。でも人との間柄って、貸し借りだけじゃないんだ
よ?相手にこうしてあげたい!って思う気持ちは無下にしちゃ駄目だと思うな?」
それまでとは少し雰囲気の違う物言いに
視線を合わせると狩沢さんはそのままじっと帝人を見つめている。
「紀田君もそうだよ?普通、ただの友達にあんなに親身になってくれないよ?
私だって、君はどう思ってるか知らないけど普通そんな軽くデートなんてしないんだ
よ?」
黙り込んだまま狩沢さんを見つめる。
「君はさ、もっと周りに頼って、甘えることを知ったらいいんじゃない?
紀田君もきっと君にそのつもりでこうやって私とデートするように言ったんだと思うん
だ。だからさ。」
わしわしと帝人の頭を撫でる。
「お姉さんの言うことは素直に聞きなさい。」
しばらく黙っていた帝人だったが照れ笑いを浮かべながらうなづく。
「はい。」
「ほら。やっぱりみかプーは素直でいい子だね!」
東口まで戻る。あたりはすっかり真っ暗になっている。
「じゃーここでお別れだね!今日はすごい楽しかったよー!」
「あの、僕もすごい楽しかったです。色々ありがとうございました。」
「うん!じゃあまたね!」
その場を離れようとする狩沢さんを呼び止める。
「狩沢さん。」
「ん?」
「また遊んでくれませんか。」
狩沢さんはにっこりと笑うと答えた。
「もちろんだよ!またメールしてね!!」
ひらひらと手を振りながら狩沢さんは離れていった。
「ぅおーーーーーい!帝人!!」
待ち合わせ場所に正臣がやってくる。すでに顔には興味津々といった様子が張り付いている。
「どーーーだった!?どーっだったんだよ昨日のデート!
俺は正直昨日の午後は、あぁまさに今ナウこの瞬間にも
帝人は狩沢さんとデートしてるんだなー!デーティングなんだなー!!って思ったら
フローリングの板の数を数えることをやめられなかったぞ!!
で実際どうだったのよお前さん!!説明プリーーーズ!!」
肩を組みいつものように捲くし立てる正臣だったが
それに対していつものように突込みがくる様子が無い。
・・・あれ?おかしいぞ。いつもならここで胸を抉るような突込みが来るはず・・・。
不審に思い帝人の顔を覗き込む。
「・・・どしたんだ?帝人。」
「・・・正臣。」
「え・・・?何?何。怖い。やめて。すごい・・・え、何その真顔。」
「・・・ありがとう。正臣・・・。」
「え、怖い!!何!?何で俺お礼言われたの!?怖い!すごく怖い!!」
その後デートの様子を説明され、プリクラや首からかけたチェーンにつけたリングを見て
正臣はひざを折り廊下に突っ伏すのだった。
作品名:狩沢さんと帝人のデート 作家名:えも野