狩沢さんと帝人のデート
ゲームセンターを出たところで意を決して狩沢さんの左手を掴む。
・・・さすがに一日中つなぎっ放しなのは返って逆効果かな・・・?
恐る恐る横目で狩沢さんを見ると
「!」
こちらを見つめ、口を右手で抑えながら、またニヤニヤと笑っている。
「みかプーも成長したねー?」
「・・・からかってますよね!?」
「ううん?感心してたの!」
半日一緒に居て分かったことがある。帝人は内心ため息をついた。
この人には敵いそうも無いや・・・。
大通りの途中で曲がり少し歩くとまた少し広い通りにぶつかる。
居酒屋など数多くの飲食店が乱立している通りだ。
その通りをまたなぞるように移動しながら更に少し細い路地に入っていく。
「ここだよ!」
狩沢さんが立ち止まったお店の看板を見上げる。焼肉店のようだ。
「焼肉ですか?」
「そう!食べ盛りには焼肉かなって思って!」
確かに帝人も焼肉は好物の一つだ。
「ここは使ってるお肉全部和牛なの。だからすごいおいしいんだよー。あんまり目立つと
こにお店無いけど。私のおすすめなんだー!」
そういいながら店内に進む狩沢さん。
「すみません、予約を入れておいた狩沢です。」
カウンターに居た店員に狩沢さんが声をかけると別の店員が現れる。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
少し驚いて狩沢さんに話しかける。
「予約入れておいてくれたんですか?」
「ん?そう。だってそれこそ満員で入れませんってなったら台無しだもんねー!」
店員に促されるまま階段を下る。地下のほうにもフロアがあるようだ。
看板を見た感じでもうすうす分かってはいたのだが内装もかなり高級感溢れる様子で
大分値段が張りそうなお店の気がする。
・・・お金足りるかな・・・?
一応夕飯を食べるということで多めには持ってきたが若干不安になってくる。
奥のほうのテーブルに着くと店員がメニューを持ってきた。
「あ、メニュー一つでいいです!」
メニューを1つ受け取ると狩沢さんはこちらにはメニューを見せないように立てたまま眺めている。
「ここはぜひ私のおすすめで食べさせたいから!みかプーにはメニュー見せないからね
ー!」
狩沢さんはそう言いながらひょこっとメニュー表から顔を出す。
「みかプーはレバ刺しとかダメ?」
「レバ刺し・・・ですか?食べたことないかも・・・。レバーは大丈夫ですけど。」
「ふむふむ。カルビ、ロース、ハラミ、あ、牛タンは?」
「あ、大丈夫です。」
「ご飯は大盛りにする?」
「あ、いえ、普通ので。」
「じゃ、まず牛タン塩で、あと上カルビと上ロースとハラミ全部2人前で。レバ刺し1人
前に・・・。」
次々と注文をしていく狩沢さん。
「・・・で、ご飯を普通のを2人前。以上で!」
しばらくして運ばれてきた焼肉に目を見張る。全て霜降りで一見していい肉だというのが
分かる。
炭火の上でまず牛タンを焼き、レモンにつけて口に運ぶ。
「・・・!すごいおいしいです。」
帝人の反応を見た狩沢さんが嬉しそうに笑う。
「でしょー!ここは本当においしいんだよー!サイモンのところでも良かったんだけどね
ー。みかプーたちとお店でよく会うし、どうせなら新しいお店教えてあげたかったからさ
ー。それになんか焼肉の気分だったの!サイモンには怒られそうだけど!」
狩沢さんがおすすめするだけあってどれも本当に美味しかった。
特にレバ刺しは今までのレバーのイメージからはまったく別物の味で
驚いていると狩沢さんも「私もはじめて食べたときそんなリアクションだったよ!」と笑
われた。
注文したものを全て食べ切る頃には帝人はすっかり満腹になってしまっていた。
「もう食べれない?お腹いっぱい?」
「はい、もう満腹です。すごい美味しかったです!」
「満足?良かった。そんなに喜んでもらえると連れてきたかいがあったよ!」
狩沢さんはそこで席を立つと手を合わせながら言う。
「ちょっとごめん!お手洗いに行って来るね!一人になっちゃうけどいい?」
「あ、はい!大丈夫です。」
手荷物を持って軽快に階段を上がっていく狩沢さんを見送るが、そこで帝人は気がつく。
あれ?ここのフロアにもトイレはあったのに。気がつかなかったのかな?
まぁ、いいか、僕も今のうちに行っておこう。
帝人は席を立つとトイレへと向かった。
・・・それにしても不思議な感じだなぁ。
洗面所で鏡を見ながら感慨にふける。今日一日があっという間に過ぎていった気がする。
こんなに美味しいお店にまで連れて来てもらっちゃって、何だか悪いような・・・。
大体、狩沢さんが何をしている人なのかも実は知らなかったり・・・。
もしアルバイトなどで生計を立てているのだとしたら今日は痛い出費なのではないだろう
か?
カラオケは2人分払おうとする狩沢さんを押しとどめて何とか割り勘にしたが・・・。
今日一日僕なんかのために付き合わせてしまったのだから・・・。
よし!夕飯の分は僕が払おう!財布の中には1万円とちょっと入ってるし!
だが、ふと思い直す。あれ・・・?そういえば僕、メニュー見てないからいくら食べたの
か分からないや・・・。
・・・カウンターで財布を先に出しておけば先に払えるはず!よし、そうしよう!
そう決心してからトイレを出て席へ戻る。
「あれ、みかプー戻ってきた。もう!帰ってきたら居ないから一瞬どうしたかなって思っ
たよ?」
「あ、すいません!僕もお手洗いに行ってて・・・!」
いつの間にかテーブルは片付けられていた。
身支度をしようと椅子に置いていたカバンを取り上げようとすると狩沢さんに制止され
る。
「あ、待って。一回座って?」
「?」
狩沢さんに促されるままに椅子に座る。まだ何かあるのだろうか?
「はい、これ。」
小さな箱を手渡される。
「?何ですかこれ?」
「開ければ分かるよ!」
何かと思い帝人が箱を開く。
中には台座に刺さった指輪が入っていた。
王冠を象った物だろうか。細かい細工の入った表面と、所々に青い色の石が入っている。
「・・・これ・・・?え?」
「お近づきの印みたいなものだよ!」
「え!こんな・・・。だってすごく高そうですよ!?」
狩沢さんはいやいやと首を振る。
「高くないって!だってこれ私が作ったんだもん。」
「え!?」
「私仲良い人には色々作ってプレゼントしたりしてるの!っていってもそれは
昨日一晩で作ったわけじゃないよ?私ジェバンニじゃないし。」
よく分からない単語が紛れるが帝人には気にしている余裕はなかった。
お近づきの印として貰うには余りにも上等なプレゼントではないだろうか?まして手作り
だなんて。
「それは元々ストックで置いといたものの中から、みかプーの印象に合わせたのを見繕っ
て持ってきたの。ほら、みかプーって名前が『竜ヶ峰帝人』ってすごい名前でしょ?竜で
王様だし!
それこそ竜の彫りが入ってるのでも良かったんだけど、ちょうどぴったり青のクラウンリ
作品名:狩沢さんと帝人のデート 作家名:えも野