誰にも君を渡さない【番外編2】〜今、ここにある幸せ〜
今、ここにある幸せ
「えっなんだって?」
「・・・・・」
「うーん」
「・・・・・」
「…分かったよ、君が望むなら…」
「・・・・・」
「ああ、良いよ。君が嬉しいと俺も嬉しいからさ」
「・・・・・」
「ふふ、俺も好きだよ」
◇◇◇
UC0093のネオ・ジオンによる叛乱の後、小惑星アクシズの投下作戦はブライト・ノア率いるロンド・ベル隊に阻止されたものの、シャア・ダイクンを支持するスペースノイドは後を経たず、その支持力と軍事力に脅威を覚えた連邦政府はネオ・ジオンに和平条約を求めた。
コロニー『スウィート・ウォーター』。ネオ・ジオンの拠点となるこのコロニーは元々は難民収容用に急遽作られたコロニーで、密閉型とオープン型を繋ぎ合わせた歪なものだ。
しかしそのコロニーをネオ・ジオンが拠点とした事で修繕や整備が進み、またシャア・ダイクンによる政策で、人々の生活水準は驚くほど向上した。
生活が豊かになれば犯罪も減り、治安も良くなる。今では女性や子供が安心して出歩けられる程になった。
そうなれば、公園や映画館そしてカフェや遊園地などの娯楽施設も充実してくる。休日ともなれば、家族連れや恋人たちでかなりの賑わいを見せていた。
そんな街の一角にあるカフェで、黒髪にサングラスをかけた長身の男と、癖のある赤茶色の髪に伊達眼鏡をかけた青年がコーヒーを片手に談笑していた。
ネオ・ジオン総帥 シャア・ダイクンと連邦軍のエースパイロット、アムロ・レイ大尉だ。
和平の条件として、ネオ・ジオンが要求したのはアムロ・レイ大尉を特使としてネオ・ジオンに駐留させる事だった。
連邦政府としては、正直扱いに困っていたニュータイプを差し出す事で和平が叶うならと、人身御供の如く喜んでその要求を受け入れたのだった。
仲間であるブライトは連邦のその対応に酷く腹を立てていたが、アムロとしてはアクシズを押していた時に起きた奇跡の中でシャアと分かり合え、今度こそその手を取っても良いと思っていたので二つ返事でその求めに応じた。
「凄い賑わいだな」
アムロが頬杖をつき、辺りを見渡しながら感嘆の声を上げる。
「そうだな、週末はいつもこんな感じだ」
少し自慢気に答えるシャアに、アムロが微笑む。
「良い街だ」
「ああ」
「それにしても、折角の休みに連れ出してしまって悪いな」
「いや、久しぶりにこうしてのんびりするのも悪くない。街の様子も見られるしな」
「ははは、今日くらいは総帥業を忘れろよ」
「そうは思うがやはりな、民衆の生活は気になる」
「良い総帥様だな」
「揶揄っているのか?」
「褒めてるんだよ」
クスクスと笑うアムロの笑顔に、肩を竦めながらも、シャアの顔に笑みが浮かぶ。
「この後はどうするんだ?」
「実は見たい映画があってさ、チケット取ってあるから飯を食ったら行こうぜ」
「映画か、久しぶりだな」
「俺も。たまにはでっかいスクリーンで観るのも悪くないと思ってさ」
「そうだな」
そんな話をしながら二人は街をぶらりと歩き、川沿いのオープンテラスでランチを食べてから映画館へ向かった。
「君が恋愛ものに興味があるとは思わなかった」
『今、ここにある幸せ』
いかにも女性が好きそうなタイトルに、シャアが意外そうにアムロを見つめる。
「え?あ、いや、一緒に仕事をしてる子に勧められたんだ。恋愛ものだけど凝った設定で面白い…らしい」
少し焦った様子のアムロに少し疑問を抱きながらも、ドリンクを片手に最後列の席に座る。
もうそろそろ上映期間が終わるのか、客はまばらで、二人の周囲には殆ど人が居なかった。
館内が暗くなり上映が始まる。
物語は、若い恋人同士の女性の方が不慮の事故で亡くなるシーンから始まる。
突然の別れに嘆き悲しむ男。
その悲しみを抱えたまま、十四年の時が過ぎる。
男は教師となり、毎日を忙しく暮らしていた。
そんなある日、男の担当するクラスに一人の女子生徒が転校してくる。年齢の割に落ち着いた雰囲気の少女に、男は少し不思議なものを感じたが、他の子供達と等しく接した。
実はこの少女、昔亡くなった恋人の生まれ変わりだった。
おまけに少女は、前世の記憶を持っていたのだ。
男のクラスに転校してきたのは全くの偶然だったが、少女は一目で男がかつての恋人だと気が付いた。
しかし、十四年の歳月はあまりにも長く、どんなに想いを寄せても、自分はまだ子供で、もしかしたら男は自分の事など忘れて家庭を持っているかもしれないと、再会できた喜びも束の間、不安ばかりが心に過ぎった。
クラスメイトにそれとなく男の事を確認し、結婚していない事は分かったが、恋人がいるかどうかまでは分からず、何かと理由を付けては男に関わり、男の事を調べた。そして、男が今でも自分を想い、独り身である事や、自分の命日には毎年墓前に花を手向けてくれている事を知り、嬉しく思う反面、涙を流す姿を見て心苦しくなった。
例え名乗り出たとしても、信じて貰える訳もなく、ましてや自分はまだ子供であり、生徒と教師だ。絶対に結ばれる事はない。
そうこうしている内に、男に想いを寄せる同僚の女教師の存在に気付く。
初めは嫉妬で心が押しつぶされそうになったが、一人で悲しむ男の姿に、段々と男の幸せを願う様になる。
自分の事は忘れて幸せになって欲しいと、そう思うようになったのだ。
過去の恋人と、自分に想いを寄せてくれる女性との間で想い悩む男に、ただの生徒としてアドバイスをしたり励ましたりした。
そして数年後、大学生となった少女は男と再会する。
なんと男は結局、同僚の女性とは結ばれず、今も亡くなった女性を想っていると言うのだ。
少女もまた男を忘れられず、ずっと想い続けていた。
生徒と教師と言う関係ではなくなり、そして大人になった少女に男はプロポーズをする。
その言葉はかつて、恋人同士だった時にその男が恋人に言った言葉だった。
なんと男は、少女がかつての恋人の生まれ変わりだと気付いていたと言うのだ。
ただ、男もまた、少女の人生に、ひと回り以上も年上の自分は相応しくないのではと思い悩み、告白出来ないでいたと言う。
しかし、少女が大人になり、自分をまだ想っていてくれる事を知って決心したのだ。
「僕と君にとって、何が正解なのかは未だに分からない。ただ、今、ここにある幸せに手を伸ばしたいと思うんだ。だから、もし君が良いと言ってくれるなら、僕の手を取ってくれないか?僕は君と、この先の人生を共に歩みたい」
男のこの言葉に、少女は大粒の涙を流しながらコクリと頷いた。
二人は長い年月を経て、ようやく結ばれる事が出来たのだ。
少女が涙を流すラストシーンで、アムロは感極まり目頭が熱くなる。
ふと隣を見れば、シャアもまた、今にも溢れ落ちそうな涙をその美しいブルーの瞳に湛えていた。
「泣くなよ」
「君こそ、泣きたいならば私の胸を貸すぞ」
ついテレもあって揶揄えば、そんな答えが返ってくる。
「俺は泣いてない」
「瞳が潤んでいるぞ」
「うるさいな」
そんなやりとりをしながらも、シートの間にある二人の手はしっかりと重なっていた。
映画館を出て、夕食をどうしようかとシャアが問えば、アムロが家に用意してあると言う。
「えっなんだって?」
「・・・・・」
「うーん」
「・・・・・」
「…分かったよ、君が望むなら…」
「・・・・・」
「ああ、良いよ。君が嬉しいと俺も嬉しいからさ」
「・・・・・」
「ふふ、俺も好きだよ」
◇◇◇
UC0093のネオ・ジオンによる叛乱の後、小惑星アクシズの投下作戦はブライト・ノア率いるロンド・ベル隊に阻止されたものの、シャア・ダイクンを支持するスペースノイドは後を経たず、その支持力と軍事力に脅威を覚えた連邦政府はネオ・ジオンに和平条約を求めた。
コロニー『スウィート・ウォーター』。ネオ・ジオンの拠点となるこのコロニーは元々は難民収容用に急遽作られたコロニーで、密閉型とオープン型を繋ぎ合わせた歪なものだ。
しかしそのコロニーをネオ・ジオンが拠点とした事で修繕や整備が進み、またシャア・ダイクンによる政策で、人々の生活水準は驚くほど向上した。
生活が豊かになれば犯罪も減り、治安も良くなる。今では女性や子供が安心して出歩けられる程になった。
そうなれば、公園や映画館そしてカフェや遊園地などの娯楽施設も充実してくる。休日ともなれば、家族連れや恋人たちでかなりの賑わいを見せていた。
そんな街の一角にあるカフェで、黒髪にサングラスをかけた長身の男と、癖のある赤茶色の髪に伊達眼鏡をかけた青年がコーヒーを片手に談笑していた。
ネオ・ジオン総帥 シャア・ダイクンと連邦軍のエースパイロット、アムロ・レイ大尉だ。
和平の条件として、ネオ・ジオンが要求したのはアムロ・レイ大尉を特使としてネオ・ジオンに駐留させる事だった。
連邦政府としては、正直扱いに困っていたニュータイプを差し出す事で和平が叶うならと、人身御供の如く喜んでその要求を受け入れたのだった。
仲間であるブライトは連邦のその対応に酷く腹を立てていたが、アムロとしてはアクシズを押していた時に起きた奇跡の中でシャアと分かり合え、今度こそその手を取っても良いと思っていたので二つ返事でその求めに応じた。
「凄い賑わいだな」
アムロが頬杖をつき、辺りを見渡しながら感嘆の声を上げる。
「そうだな、週末はいつもこんな感じだ」
少し自慢気に答えるシャアに、アムロが微笑む。
「良い街だ」
「ああ」
「それにしても、折角の休みに連れ出してしまって悪いな」
「いや、久しぶりにこうしてのんびりするのも悪くない。街の様子も見られるしな」
「ははは、今日くらいは総帥業を忘れろよ」
「そうは思うがやはりな、民衆の生活は気になる」
「良い総帥様だな」
「揶揄っているのか?」
「褒めてるんだよ」
クスクスと笑うアムロの笑顔に、肩を竦めながらも、シャアの顔に笑みが浮かぶ。
「この後はどうするんだ?」
「実は見たい映画があってさ、チケット取ってあるから飯を食ったら行こうぜ」
「映画か、久しぶりだな」
「俺も。たまにはでっかいスクリーンで観るのも悪くないと思ってさ」
「そうだな」
そんな話をしながら二人は街をぶらりと歩き、川沿いのオープンテラスでランチを食べてから映画館へ向かった。
「君が恋愛ものに興味があるとは思わなかった」
『今、ここにある幸せ』
いかにも女性が好きそうなタイトルに、シャアが意外そうにアムロを見つめる。
「え?あ、いや、一緒に仕事をしてる子に勧められたんだ。恋愛ものだけど凝った設定で面白い…らしい」
少し焦った様子のアムロに少し疑問を抱きながらも、ドリンクを片手に最後列の席に座る。
もうそろそろ上映期間が終わるのか、客はまばらで、二人の周囲には殆ど人が居なかった。
館内が暗くなり上映が始まる。
物語は、若い恋人同士の女性の方が不慮の事故で亡くなるシーンから始まる。
突然の別れに嘆き悲しむ男。
その悲しみを抱えたまま、十四年の時が過ぎる。
男は教師となり、毎日を忙しく暮らしていた。
そんなある日、男の担当するクラスに一人の女子生徒が転校してくる。年齢の割に落ち着いた雰囲気の少女に、男は少し不思議なものを感じたが、他の子供達と等しく接した。
実はこの少女、昔亡くなった恋人の生まれ変わりだった。
おまけに少女は、前世の記憶を持っていたのだ。
男のクラスに転校してきたのは全くの偶然だったが、少女は一目で男がかつての恋人だと気が付いた。
しかし、十四年の歳月はあまりにも長く、どんなに想いを寄せても、自分はまだ子供で、もしかしたら男は自分の事など忘れて家庭を持っているかもしれないと、再会できた喜びも束の間、不安ばかりが心に過ぎった。
クラスメイトにそれとなく男の事を確認し、結婚していない事は分かったが、恋人がいるかどうかまでは分からず、何かと理由を付けては男に関わり、男の事を調べた。そして、男が今でも自分を想い、独り身である事や、自分の命日には毎年墓前に花を手向けてくれている事を知り、嬉しく思う反面、涙を流す姿を見て心苦しくなった。
例え名乗り出たとしても、信じて貰える訳もなく、ましてや自分はまだ子供であり、生徒と教師だ。絶対に結ばれる事はない。
そうこうしている内に、男に想いを寄せる同僚の女教師の存在に気付く。
初めは嫉妬で心が押しつぶされそうになったが、一人で悲しむ男の姿に、段々と男の幸せを願う様になる。
自分の事は忘れて幸せになって欲しいと、そう思うようになったのだ。
過去の恋人と、自分に想いを寄せてくれる女性との間で想い悩む男に、ただの生徒としてアドバイスをしたり励ましたりした。
そして数年後、大学生となった少女は男と再会する。
なんと男は結局、同僚の女性とは結ばれず、今も亡くなった女性を想っていると言うのだ。
少女もまた男を忘れられず、ずっと想い続けていた。
生徒と教師と言う関係ではなくなり、そして大人になった少女に男はプロポーズをする。
その言葉はかつて、恋人同士だった時にその男が恋人に言った言葉だった。
なんと男は、少女がかつての恋人の生まれ変わりだと気付いていたと言うのだ。
ただ、男もまた、少女の人生に、ひと回り以上も年上の自分は相応しくないのではと思い悩み、告白出来ないでいたと言う。
しかし、少女が大人になり、自分をまだ想っていてくれる事を知って決心したのだ。
「僕と君にとって、何が正解なのかは未だに分からない。ただ、今、ここにある幸せに手を伸ばしたいと思うんだ。だから、もし君が良いと言ってくれるなら、僕の手を取ってくれないか?僕は君と、この先の人生を共に歩みたい」
男のこの言葉に、少女は大粒の涙を流しながらコクリと頷いた。
二人は長い年月を経て、ようやく結ばれる事が出来たのだ。
少女が涙を流すラストシーンで、アムロは感極まり目頭が熱くなる。
ふと隣を見れば、シャアもまた、今にも溢れ落ちそうな涙をその美しいブルーの瞳に湛えていた。
「泣くなよ」
「君こそ、泣きたいならば私の胸を貸すぞ」
ついテレもあって揶揄えば、そんな答えが返ってくる。
「俺は泣いてない」
「瞳が潤んでいるぞ」
「うるさいな」
そんなやりとりをしながらも、シートの間にある二人の手はしっかりと重なっていた。
映画館を出て、夕食をどうしようかとシャアが問えば、アムロが家に用意してあると言う。
作品名:誰にも君を渡さない【番外編2】〜今、ここにある幸せ〜 作家名:koyuho