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さみしさの後ろのほう 16~20

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20

翌日の昼休み。生徒会室に現れた思わぬ人物に俺は持っていたボールペンを落としてしまった。

「おま、なんで……?」
「なんでって今日は登校日ですよ?」
「……倒れた奴がさも当然って顔して次の日に学校来ないだろ、普通」

机の上の書類を持ち上げて読み出した帝に頭を抱えたくなった。字が乱れてますとか知るかばかぁ!
保健室に連行しようかとも思ったけれど、そんな事した所が授業が始まる前にはこいつは教室へと戻っていくのだろう。頭が痛くてしょうがない。

「それに、……約束守って貰わないと」
「約束?」

心当たりが無くて聞き返すと、もごもごと口を数度動かせた後、顔を真っ赤にさせた帝が小さな声で言った。

「え?何、もう一度」
「だか、ら!……まだ、な、なでなでして貰ってません……!」

予想外過ぎる事に何も言えなくなってしまった。言ってて恥ずかしくなったのか、帝の体はふるふると震えだした。

「か、帰ります!」
「待て、逃がすか」
「っ!」

腕を引いて引きとめる。バランスを崩した体を腕の中に閉じ込めてしまえばもう俺の勝ちに等しい。
林檎とかトマトとか、そんなものに引けを取らない程真っ赤な顔につい口角が上がる。

「放して下さい!」
「なでなで?もうしたんだけどな。帝が寝てる間に」
「!そ、それはもう良いですから、放して!」

あの後、帝の泣き方はどんどん激しくなっていった。ずっとずっと貯め込んできたのだろう。俺が出会うそのずっと前から。一度零せば次から次へと。最後は小さな子供の様に声を上げて泣いていた。
しかし、それも長くは続かず、段々と収束していった。どうしたのだろうと顔を覗き込むと、なんとあの帝が泣き疲れて眠っているんだから驚いた。
赤い目尻は痛々しかったけれど、寝顔は今まで見たどの顔より安らかで、一向に収まる気配の無い愛おしさがまた溢れた。

「可愛かったなあ」

わざとらしく感想を口に出してみる。耳を一層色付けた彼は俺の胸を必死に押して逃げようとしている。そんなの許す気も無いが。

「なあ、そんなに撫でて欲しかったのか?」
「違う!私は、ただ……」

急に声が勢いを無くす。腕の力も比例して弱くなったのを良い事に、背中を抱き寄せた。けれど抵抗は無い。
それに満足した俺は頭を撫でてやる事にした。さらさらと絡まる事を知らない髪を梳くのが俺は好きだった。それを甘んじて受けてくれるというのは、とても幸せな事だろう。

「馬鹿な人だ」

呟かれたのはそんな言葉。意地悪でも何でも無いな。ただの照れ隠し。
此処まで来るのに随分時間を掛けてしまった。すぐ傍に居た筈なのに、お互い淋しい思いをしてきたなんて、今考えるとなんて馬鹿馬鹿しい。
最初からちゃんと、向かい合えば良かった。そうしなければ、甘い言葉では満たされなくてキスでもきっとまだ足りない。全部信頼しあえるからこその幸せな事なんだろう。
不器用で素直じゃない俺達はまた擦れ違うかもしれない。けれど、もう大丈夫。

背中に腕を回して貰えるようになるまで後少し。
此処はさみしさの後ろのほう。