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長き戦いの果てに…(改訂版)【0】プロローグ

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プロローグ




「お願い、ローデリヒさん!ルートを助けてあげて!俺じゃだめなんだ、だから──!」
ドアを開くなり挨拶もせず、息急ききってしゃべり出したフェリシアーノに、ローデリヒは顔をしかめた。
「どうしたんですかフェリシアーノ、何があったんですか?」
落ち着きのないのはいつものことだが、今日はどうもいつもと様子が違う。
この取り乱しようも、必死な表情も普通ではない。
「大事なことなんだ!お願い聞いてよローデリヒさん、俺じゃどうしようもないんだ!でもあなたならきっと──」
「お待ちなさい、それじゃ訳が分かりません。まずは落ち着いて、最初からお話しなさい」
ローデリヒはせき込むようにしゃべろうとするフェリシアーノをなだめて家の中に入れ、どうにか椅子に座らせた。
「少しは落ち着きましたか?フェリシアーノ」
「うん……」
座らせてお茶を飲ませると、ようやくおとなしくなった。
これでまともに話ができるかと思ったが、さっきまの興奮ぶりはどこへやら、今度は青菜に塩をかけたようにしゅんとなってしまった。
湯気の立つカップをじっと握りしめたフェリシアーノは何を考えているのか、ぼんやりしてどこか遠くを見ている。
ローデリヒはそれを見ながら、最近起こったことを思いだしていた。

共同作戦が無事に終わり、フェリシアーノがルートヴィッヒと共に遠征先から帰還したのは、まだほんの数日前の事だ。今回はかなり長い遠征だった。
 ルートヴィッヒとローデリヒが、身も心も深く結びついた特別な間柄であることは、もはや知らない者もない、いわば公然の秘密だ。帰還したら、真っ先に行きたいのは本来ローデリヒのところだろうがまだ帰ってはいない。
上司への報告を始めとした無数の面倒な事務手続きはまだしも、わざわざ付き合うこともない招待などに一つ一つ生真面目に対応しているので、それどころではないのだろう。
一方、彼と違って物事に少しも拘らないフェリシアーノが面倒な儀礼や執務をさぼっては抜け出して来るのはいつものことだし、ローデリヒもいちいち驚きはしなかった。
 もっともフェリシアーノの上司は相当カリカリ来ているだろうが、そこは自分の知ったことではない。
そう思うと、ローデリヒは思わずこみあげる笑いをこらえるのに苦労した。

 しかし今度ばかりはどうも様子が違う。
 第一、何をそんなに慌ててここに来たのか?
 それも『ルートを助けて』とは一体どういうことなのか?
 確かに、常に好んで最前線に立つルートヴィッヒが戦場で一時期突然姿を見せなくなり、良からぬ噂が流れたことはあった。 他国への影響や国民の動揺を避ける意味もあって公けにはされなかったが、彼が戦場で重傷を負い、しばらくの間極秘で入院加療していたのは事実だ。ローデリヒは独自の経路を通じてその件については情報を得ていた。
 多少は気になったものの、国自体が最後を迎えない限り国の化身が死ぬことはないし、その国の現状にもよるものの、通常、普通の人間より遙かに回復も早く、大きなダメージが残ることもまず考えられない。最悪のケースとして肉体が回復できずにスクラップになったとしても、現身はすぐに新生する。
 ルートヴィッヒが元気に凱旋帰国している事はすでに周知の事実だし、特に問題があるとも思えなかった。

「とにかく何があったのか、最初から順を追ってお話しなさい、フェリシアーノ。ルートを助けて欲しいとは、一体どういうことなんですか?」
 そう促され、フェリシアーノはようやくぽつりぽつりと話し始めたが、まるで独り言のようで、目はまだどこか遠くをさまよっているようだった。
「ダメなんだ……俺じゃあいつの力になれないんだ。あの時だってずっと近くにいたのに……友だちなのに、俺じゃ何にも……」
 その時突然ローデリヒの存在に気がついたように、フェリシアーノは彼の胸にすがりついた。
「お願い、このままじゃルートが死んじゃう!きっと死んじゃうよ!だから助けて!ローデリヒさん、あなたじゃなきゃダメなんだ!」
「落ち着きなさい、フェリシアーノ。何を言ってるんですか。私たちは国ですよ、死んだりしません」
「だって……だって!……ルートはあのままじゃ……!」
 フェリシアーノの言うことは支離滅裂で、しかも泣きじゃくるばかりで一向に埒があかない。
 辛うじて聞きだした断片的な言葉をつなぎ合わせて何とか意味を汲み取ろうとしたが、結局はそれも徒労に終わった。
 とうとうその日は何も分からないまま、泣き疲れて眠ってしまったフェリシアーノを客用寝室に運んでやるしかなかった。
 激しい戦いだったし、遠征期間も長かった。
 ルートヴィッヒが前線で重傷を負った事への恐怖もあっただろうし、フェリシアーノ自身も長期間戦場に滞在したことによりストレスが溜まっていたのだろう。今回はそれから一気に解放されたことで、一時的に錯乱状態にでもなったのではないか?
 涙に濡れた幼子の様な寝顔を見ながら、そんな風に考えてみた。
 フェリシアーノの言葉が一体何を意味しているのか、その時のローデリヒには理解のしようもなかったから。