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長き戦いの果てに…(改訂版)【3】

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「イヤだっ!俺は隊長を助ける!」
叫んで飛び出そうとするヨハンを仲間が慌てて捕まえて押さえ込んだ。
「馬鹿なことを言うな!」
「でも、副長……っ!」
「そんなに死にたいなら勝手にしろ!だが隊長がそんなことを望むとでも思うのか?」
「でもっ!隊長を置いては行けない……っ!」
「駄目だ、状況は刻一刻と悪くなってる。そんな暇はない。それに…あの出血ではもう助からん」
暴れていたヨハンが突然おとなしくなったかと思うと、意を決したような表情で副長を見た。
「俺一人で行きます、死んだら置いていって下さい」
「馬鹿なことを言うんじゃない、冷静になれヨハン!」
「俺は冷静です副長。一回だけチャンスを下さい。すぐそばに我が軍の車両がある。援護して下さい、俺が隊長をそこまで連れていきます」
「……お前一人じゃ無理だ、隊長は運べまい。俺も行くぞ」
そう宣言したのはテオドルだ。
「で、でも……!」
「でもは無しだ」
悔しいがテオの指摘は正しかった。
体格で言えば隊長は自分よりふた周りは大きい。対するヨハンは小柄で大して力自慢な方でもない。ましてや意識を失った人間を動かすのは並大抵の事ではないのだ。一方テオはと言えば、部隊でも隊長と並ぶほどの体格と膂力で有名だった。
「俺も援護するから安心しろ」
次に宣言したのはアルノーだった。テオドル、ヨハンと並ぶ隊長の子飼いの部下だ。
体育会系で見るからに軍人らしいテオドルと比べるとアルノーはあまり軍人らしくない。スマートで一見エリート官僚のようなタイプだ。そんな彼がどうしてこんな過酷な現場にいるのかと、周囲の者は常々不思議がっていた。
「部隊が退却するにも援護が必要でしょう副長。俺たちが残ります」
わずかに逡巡したものの、副長はすぐに決断を下した。
「分かった、では3人には後方支援を頼む。お前たちは隊長と一緒にあの車両で戻れ」
「イエッサー!」
テオが威勢よく敬礼をして見せた。
「お前たち……隊長を頼む、死ぬんじゃないぞ!」
「もちろんです」
アルノーが場にそぐわない冷静さで答える。口元にはかすかに微笑みすら浮かべて。
彼はいつもそうだ。……死ぬのが怖くはないのか?


* * *


ルートヴィッヒが突然ポツリと呟いた。
「……初めてアルノーを見た時、兄さんに似ていると思ったんだ」
「え……?」
何のことを言っているのか。ローデリヒは思わず問い返したが返事はなく、ルートヴィッヒは淡々と話し続けた。
「後でよく考えたら、似ている所は銀色の髪と背の高さくらいなのに、なぜそう思ったんだろうか……」
独り言が続く。
「目の色だってアルノーは深い碧色だ。暗くて深い冬の海のような碧……兄さんとは違う。なのになぜ……」
……ああ、そうか、とルートヴィッヒはひとり思う。
あの目に宿る光だ。
アルノーは少しも軍人らしくないのに、戦いを求めるあの目の光が兄さんに似ているのだ。
戦うこと以外は何もなく、死に場所を求めているようなあの光……
ルートヴィッヒはずっとそれが気になっていた。
戦争が始まる前、アルノーは戦いには縁のない静かな人生を送っていた。大学に奉職し助教授として自国の文学について学生たちを教え、休日には読書や研究に勤しむ、そんな生活だった。しかし戦争が激しくなるに連れて次第に荒れていくこの国の未来を憂い、祖国を守るために従軍したのだと言っていた。戦争が終われば再び、この国の将来を担う人間の一人になり、未来を創る青少年を導く指導者に戻るはずだった。
……だが、その未来を奪ったのは俺だ。
俺を助けるためにアルノーは死んだ。
俺は何と罪深いのだろうか。
なぜ俺は死ななかったのか
……なぜ


* * *


「では行きます!援護頼む!」
そう叫ぶとヨハンは建物から飛び出した。
「了解した!」
アルノーが応える。常々彼のことが気になっていた。本当に死ぬのが怖くない人間なんているのだろうか?
まさか。ふと頭をよぎった思いにヨハンは慄然とした。死ぬのが怖くないんじゃない、彼は死に場所を求めているのか──だが深く考える暇はなかった。
アルノーの援護射撃と同時に、ヨハンは走り出す。
テオドルもアルノーと共にしばし援護射撃をした後ヨハンの元に駆けつけた。同時に部隊が退却し始めるのを見た敵の攻撃がばらつき始める。
チャンスだ。テオドルの言う通りヨハンでは隊長を抱えきれないので、今度はヨハンが援護射撃に回った。テオドルはぐったりして動かないルートヴィッヒの体を抱えあげると、すぐ側の車両のドアを開けて押し込み、ドアを叩きつけて運転席側に回った。
「急げヨハン、出すぞ!」
「分かった!」
ヨハンが乗り込むと同時に発進させる。
「アルノーを拾っていく。援護頼む!」
「了解!」
ヨハンはアルノーを援護するべく、窓から銃を突き出して敵を撃つことに専念した。車両を先ほどの建物につけると同時にアルノーが後部座席に転がり込んだ。
「大丈夫か、アルノー!」
「何とか、な……」
「飛ばすぞ!つかまれヨハン!アルノー、隊長を頼む!」
「了解した」
後部座席から途切れ途切れにアルノーのつぶやきが聞こえる。
「隊長……良かった、まだ息がある……止血を……」
だが敵の弾を避け、追跡を振り切るためにジグザグ走行を繰り返す車内は猛烈に揺れる。タイヤが地面を噛むすさまじい音と、激しい車体の軋みにかき消されて、アルノーの声はすぐに聞こえなくなってしまった。それが最後に聞いた彼の声になった。
「……ようやく駐屯地に戻った時、アルノーは……すでに事切れていました」
息が絶えてもなおルートヴィッヒを庇うように抱きしめていたという。テオドルも到着して間もなくアルノーの後を追うように息を引き取った。
軍医が言うには二人とも無数の銃弾を受けており、それまで生きていたのが不思議な程だったと。
「これが……俺の見た全てです」


* * *


「ヨハンは……泣いていたよ、俺が無理にしゃべらせたんだ、辛かったろう……」
「それは、あなたもでしょうルート」
抑揚もなく淡々と話す声とは裏腹に、ルートヴィッヒの頬には涙が流れていた。
ローデリヒは白い指で優しく拭ってやると、冷えた頬にそっと口づけたが何の反応もなかった。苦痛と悲しみ以外は全てどこかに置き忘れてしまったように。
「俺の痛みなど、あいつらに比べたら何ほどの事もない。ヨハンは辛うじて生き残ったがアルノーとテオは死んだ。俺の為に、だ」
「ルート……」
慰める言葉も見つからず、室内には重苦しい沈黙が垂れ込めた。