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長き戦いの果てに…(改訂版)【3】

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アルノーはヨハンを優しく諭した。
「ヨハン、君は隊長の部下だけど今日はお客として呼ばれたんだ。何も遠慮することはないんだよ」
「う…うん、そうだね」
「テオも言ってただろう、この家を初めて見たら誰でも驚くって。みんなそうさ、私だってね」
「先生が?まさか!」
「私を何者だと思ってるんだい、ヨハン」
子供のように驚いた顔をするヨハンにアルノーは苦笑した。普段は必要以上に感情を抑えて年齢より落ち着いた振る舞いをする彼が、こんな風に素直になるのはアルノーの前だけだった。
「さあ隊長をいつまでも待たせちゃいけない、早く行こう」
「うん……」
ヨハンはまだ少し怖じ気づきながらもようやく意を決し、門の奥へ足を踏み入れた。
「隊長!俺です、来ました!」
ハンスとテオドルが先に玄関に着いて大声で叫びながらノッカーを乱暴に叩きつけているのを見てヨハンは肝を冷やした。
玄関が開くと恐ろしい顔をした執事が現れるのではないか──
だが迎えてくれたのはルートヴィッヒだった。
「お前たちよく来たな、まあ入れ!」
普段見たこともないようなごきげんな笑顔だ。
「今日はこっちだ」
さっさと進むルートヴィッヒの後を付いて行くと、長い廊下の壁面には時代のかった装飾が施されている。窓枠一つ取っても見たこともないような立派な作りだ。石造りの壁にはところどころ凹みが設けられており、肖像画だの花瓶だの置物だのが飾られている。これが歴史の長い貴族の館というものなのだろうか。この古い城館で、この人はどれだけの時間を生きて来たのだろう……ヨハンはふと思った。
普通の人間なら先祖代々受け継がれてきた屋敷に住んでいる、ただの現当主だろうが隊長は違う。ドイツという国の歴史が浅いと言っても百年以上、兄でギルベルト・バイルシュミットを名乗るプロイセンに至ってはどれだけの時を生きてきたのか。
五十年以上の過去を持って歴史と称するのが一般的だが、歴史の流れに実際に身を置いて彼らは何を見聞きしてきたのか──考えただけで気が遠くなりそうだった。
「どうした?大丈夫か、ヨハン?」
アルノーの声にヨハンははっと我にかえった。いつの間にか足が止まっていたらしい。
「いや、何でもないです」
「そうかい?何だかぼうっとしてたから気分でも悪くなったのかと思って」
「そんなんじゃないんです、ただ……」
「ただ?」
遙か先を行く隊長とハンスとテオドルがこちらまで聞こえるほどの大声で談笑している姿が見える。
「隊長は俺みたいな奴にまで優しくしてくれるけど、やっぱり住む世界が違うんだと思って」
「ああ……まだそんなことを気にしてたのか」
アルノーは優しく笑った。
「そんな事って、俺には大事なことです!」
「ねえヨハン、こうは考えられないか?」
アルノーはふくれっ面のヨハンに語り掛けた。
「確かに隊長はお金持ちでこんなに立派な屋敷に住んでいるし、ある意味貴族以上に高貴で、この世界では特別な存在でもある。だけど隊長は、隊長だろう?」
「……どういう意味ですか?」
ヨハンは顔をしかめた。
「あの人も人間なんだよ。私たちと同じ、ね」
「……」
「泣いたり、笑ったり、食べて眠りもする。私たちと少しも変わらない人間だ。生きる時間の単位はちょっと違うにしてもだ」
アルノーはそう説明してくれたがその時は分かったような分からないような、もやもやした感じが残っただけだった。
後日ヨハンは否応なくその言葉の意味を理解することになる。それは皮肉にもルートヴィッヒが重傷を負い、この日を共にした3人の仲間を失った時のことだった。

4人が通されたのは広いが意外にも質素な感じの部屋だった。
質素といってもこの屋敷の中にしては、という意味だ。ハンスは別として他の3人は個人の家でこのような広い部屋を見たことがなかった。
「隊長、今日はいつもと違うっすね!どうしたんすか?」
さっそくハンスがニヤニヤしながら突っ込みを入れる。
「屋敷の中もずいぶん静かですね、まるで誰もいないみたいですが……」
アルノーも少し不思議そうだ。
「何にしても、あの小うるさいじいさんがいないのはありがたいね!」
テオドルがいきなり問題発言する。
「ゴホン!」
アルノーがテオドルを横目で睨みながら、わざとらしく咳払いする。
「あ~今日はだな、みんなに休暇を取らせたんだ。クリスマスも近い、たまには休ませてやろうと思ってな」
ルートヴィッヒが取ってつけたように説明すると、間髪入れずにテオドルの茶々が入った。
「よくあのじいさんが承知しましたね!」
「テオ、じいさんとは何だ!」
「おっと、こりゃ失礼。でもアルノーも『じいさん』で分かったってことだろ?」
アルノーが再び睨み付けても、テオドルは少しも悪びれる様子がない。
「おいお前ら、ヨハンがめんくらってるからその位にしとけよ」
ここでハンスがニヤニヤしながらなだめに入った。
「ええっ、お、俺は別にそんな……」
ヨハンが慌ててそう言うと、今度はルートヴィッヒが諌めた。
「お前たち、言いたいことは分かるが、年長者に対して『じいさん』呼ばわりは感心せんな」
「でも隊長だってそう思ってるでしょう?」
すかさずテオドルが突っ込むと、ルートヴィッヒは目を逸らしてわざとらしくオホン!と咳払いをした。
「いい加減にしないか、テオ!」
ルートヴィッヒを除く4人の中で最年長のアルノーが若者を指導する必要があると判断したらしい。
それを横目で見ながらハンスがヨハンにこっそり耳打ちする。
「じいさんってのは、ここの家令の事だよ。ほんとの名前はマテウスっていうんだが、あんまり口うるさいんでみんなじいさんって呼んでるんだ」
「家令ってなんです?」
「ん~、そうだな、まあ執事長、みたいなもんだ」
「はあ……」
やはり恐ろしい年配の執事がいるのだと思い、ヨハンはすっかり怖気づいてしまった。顔には出さないようにしたつもりだったが、ルートヴィッヒには気づかれてしまった。
「おいおい、ヨハン!来たばっかりなのにもう帰るなんて言いだすんじゃないぞ」
「ええっ?い、いや俺はそんなことは……」
慌てるヨハンに、ハンスがすかさず、
「心配するなよ。今日はいないって隊長がさっき言ったろ?」
でもいつ帰って来るか分からないじゃないか──ますます情けない顔つきになるヨハンを心配してルートヴィッヒがこんなことを言い出した。
「大丈夫だ、心配するな!この部屋なら少しぐらい騒いでも暴れても大ごとになる心配はないからな!」
「……ってことは隊長、前回は『大ごとになった』ってことですか?」
テオドルが噴き出した。あの小うるさいじいさん、こと家令マテウスに説教されるルートヴィッヒを想像したに違いない。
「何を言うか、こいつ!」
口ではそう言ったが目がわずかに泳いだのにヨハンは気が付いた。どうやら図星らしい。
前回彼らが招待されたのはヨハンが軍に来る前だった。
その時は驚くほど立派な来客用のダイニングに通されたのだが、主にテオドルが少々ビールを飲み過ぎてお世辞にも上品とは言えないような芸を披露するに至った。