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二期生の冬

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ピンポーンと、玄関でベルが鳴る。
 火を使う料理で手が離せない火神は、自分の代わりに、福田に玄関へ向かってもらった。
 ガチャリと玄関のドアが開かれる音、いくつかの会話が聞こえたあとに、降旗がリビングに顔を出す。
「お邪魔しまーす、火神。みんな、遅れてごめん」
「おう。委員会お疲れ、フリ。……って、あれ。黒子は?」
 今日の主役――降旗と同じ図書委員の黒子の姿が見えないので、火神は不思議に思って尋ねる。
「ボクはここです」
 と言って、黒子が降旗の後ろから顔を出した。
 火神はびっくりして、「うわっ」と声を上げる。
「いたのかよ、黒子! つかお前、ホント影薄いな!」
「今更ですね、火神君。いい加減、慣れてください」
「慣れたくても、慣れらんねーんだよ」
 ぶつくさ言いながら、火神は料理を再開する。
「手伝うよ」
 と言って、降旗が福田達の作業に加わった。
 黒子も作業に加わろうとしたが、
「主役は座ってろよ」
 と河原に諭され、リビングテーブルの前に一人で腰を下ろす。
 肩に掛けていたスポーツバッグを床に下ろすと、黒子はバッグの口を大きく開いた。と同時に、中から白黒の小型犬が飛び出す。バスケ部のみんなで飼っている、『テツヤ2号』だ。犬が大の苦手な火神だが、2号にはようやく少し慣れてきた。黒子が当然のように自分の部屋に犬を放っても、それが2号であればなんとか許せる。
 黒子がリビングテーブルに正対する。
 テーブルには、既にいくつかの料理が並んでいる。火神お手製の唐揚げ、カルパッチョ、サンドイッチなどなど。そこには、火神が昨年度にバイトしたピザ屋のピザもあった。
 火神はあとから出来た料理も降旗達に運んでもらい、最後に自分でパエリア鍋を運んでいって、パーティの準備を整えた。全員が席に着いて、一斉に黒子に向かってクラッカーを鳴らす。
「誕生日おめでとう、黒子!」
「おめでとう!」
「黒子、おめでとう!」
「おめでとう、黒子。さ。冷めないうちに、まずは食おうぜ」
 火神の声に頷き、河原と福田がてきぱきと各人の飲み物を用意する。
 お茶やジュースで乾杯して、五人と一匹で食事を始めた。2号の前には、火神が用意した犬用のごはんを黒子に置いてもらう。
「ほら。たくさん食えよ」
 黒子が2号の面倒を見ている間に、火神は黒子の取り皿にパエリアを取り分けてやる。日本人がよくイメージする海鮮のパエリアではなく、鶏肉や白インゲン豆がたっぷり入ったパエリアだ。
「こんなにたくさん食べられませんよ」
 山盛りのパエリアを目にした黒子は、若干不服そうな声を出した。
「そんなんだから、いつまで経っても小せえままなんだよ」
「余計なお世話です」
「いてえ!」
 黒子の手刀が火神の脇腹に深く入る。
「今のは火神が悪い」
 と、降旗が他人事ではなさそうな顔で言った。
 河原と福田が、おかしそうに笑い声を上げる。

 取り留めのない会話をしながら過ごすうちに、たくさんあったパーティ料理はすっかり空になった。
 食べ盛りの男子高校生が五人もいれば、料理の減りは早い。……とはいえ、主役の黒子の摂食量は他のメンバーよりも極端に少なかった。逆に、ダントツで食べた量が多かったのは、料理を作った火神自身だ。
「っし。じゃあ、そろそろデザート用意すっか」
 火神は立ち上がり、キッチンへと足を向ける。
 火神の声に反応した降旗、福田、河原が自発的にテーブルを片付け始めた。黒子も手伝おうと腰を浮かしかけたが、他の三人に主役は座っているよう諭され、渋々と腰を下ろす。
 キッチンに入ると、火神はパンケーキを人数分焼き始めた。最初に焼きあがったものの上にイチゴと生クリームを乗せ、バニラアイスをたっぷりと添える。完成した皿を自分の手で黒子のもとへ運ぶと、普段表情に乏しい相棒はバニラアイスを見てきらきらと目を輝かせた。
「ケーキでもよかったんだけど、そっちは家族とも食うだろうからさ。オレらと食うのは、黒子が好きそうなバニラアイスを添えられるもの……と思って、これにした」
「ありがとうございます、火神君。嬉しいです」
 気持ち弾んだ声で黒子は応える。
 火神は「おう!」と笑顔で返し、「溶けるから先に食ってろ」と言い添えて、キッチンへ戻った。他のメンバーの分のパンケーキも用意し、降旗達にリビングへ運んでもらう。
「一応、イチゴとか生クリームとか乗ってて、誕生日ケーキっぽくはなってるんだな」
 席に着いて早々、河原はパンケーキにナイフを入れる。
「去年は人数も多かったから、イチゴのショートケーキをホールで用意したんだったよな。小金井先輩が、2号にケーキ食わせようとして大変だった」
 フォーク片手に、福田がそう話した。
「そうそう」
「あれはちょっとビックリしたよなー」
「みんなで、すぐに止めたけどさ」
「うん……」
 話しているうちに、少ししんみりとした空気がリビングに漂う。
 ここにいる全員が、引退した先輩達――誠凛バスケ部を創設した一期生のことを考えているのだと、火神にも分かった。
「できれば、今年も先輩達と祝いたかったよなー、なんて」
「皆さん、受験で忙しいですから仕方ないですよ」黒子が微苦笑する。
「カント……相田先輩は早いうちに推薦合格してたけど、さすがに日向先輩も木吉先輩もいないのに、女子の相田先輩だけ呼ぶわけにはいかないしな」
「あー、もうカントクのことカントクって呼べなくなるのか」福田の言葉で気づいたように、河原が言う。「そっか。もう次の大会からは、目標達成できなかったら全裸で告白しろ、なんて言われることもなくなるんだな」
「それは正直ホッとするけどね。彼女いる土田先輩以外にはキツイもんなあ、そのペナルティ」降旗が苦笑する。
「いや、土田先輩だって全裸は嫌だろ。告んのはともかく」
 火神がすかさずツッコミを入れると、「あ、そっか」と降旗は笑って応えた。
「けど、ペナルティが無いとなると、なんだか気が緩みそうでこえーなあ。つか、単純に発破かけてくれる先輩がいなくなるのが寂しい」福田が肩を落とす。
「オレは水戸部先輩がつくる蜂蜜レモンが食えなくなるのも寂しい」
「「分かる」」
 降旗の言葉に、うんうん、と河原と福田が頷いた。
 黒子が、ふっと苦笑を漏らす。
「寂しい気持ちは分かりますが、そう落ち込まなくてもいいと思います。先輩達とは、もう同じ高校のチームメイトとしてはプレイできなくなりますが……、だからといって、もう一緒にバスケができなくなるわけではありません。もしかしたら、またどこかで一緒にプレイできる日が来るかもしれないじゃないですか」
 黒子の指摘に、降旗が「ああ……」と声を漏らす。
「黒子は、中学のチームメイトとプレイする機会に恵まれたもんな」
「でも、それってあいつらが天才だからだろ? そうでなきゃ、なかなか昔のチームメイト全員が集まって試合する機会には恵まれねーんじゃねーかな」河原がぼやくように言う。
 河原達が想起しているのは、黒子が中学のチームメイトを主体としたメンバーと共に、アメリカのストバスチームと戦った試合のことだ。ちなみに、火神もそのメンバーの一員として加わった。
作品名:二期生の冬 作家名:CITRON