二期生の冬
「ボクは、それだけを指して言っているんじゃありませんよ」黒子が、柔らかい声で否定する。
「確かに、フルメンバーで、試合の形式でバスケをする機会となると、そうそう訪れるものではないと思います。けれど、元のメンバーのうちの何人かで集まってバスケを楽しむことは、その気になればいつだって可能だと思うんです。キセキのみんなの中には、去年卒業した先輩と時々会ってバスケをしている人もいるようですし」
「へえ、そうなんだ」
降旗の声に、黒子が「はい」と笑顔で応える。
「黄瀬君はよく笠松さん達とストバスしているそうですし、緑間君のところは時々先輩達が弟妹と後輩の様子を見に来てくれるそうですし、赤司君は事あるごとに黛さんを呼びつけてるみたいです」
「最後だけ、おかしくない!?」
後輩が先輩を呼びつけるの!? と、降旗が怯えた声で訊き返す。
アメリカにいた頃は、一つ年上の兄貴分――辰也と対等な関係でバスケをしていた火神としても、日本に帰ってきて以来、誠凛高校で日本の上下関係を叩き込まれた今となっては、納得がいかなかった。
しかし、中学時代に赤司のチームメイトだった黒子からすれば何でもないことのようで、
「まあ、赤司君ですから」
と涼しい顔で答えた。
「そうだよな。あの赤司だもんな……」
と、降旗も諦めたように呟く。
去年のウィンターカップ決勝戦で洛山の赤司と同ポジションとして対峙し、その後、黒子の誕生日パーティで赤司といくつか会話を交わした降旗にも、黒子の言葉は理解できてしまうらしい。
「あ、そっか。伊月先輩が引退しちゃったってことは、次の試合からはオレが中心になって赤司の相手しなきゃなんないんだ。少なくとも、同じPGとしては」
たった今、重大な事実に気付いたというように、降旗が動きを止める。
「赤司君だけでなく、秀徳の高尾君もですよ」
黒子が淡々とした声で言った。
「やめて、プレッシャーかけないで」
チワワのように震えながら、降旗は涙声で黒子に訴える。
「心配すんな、フリ」
火神は、降旗を元気づけるように言った。「赤司の相手ならオレもするし、高尾だって絶対に一人で対応しなきゃなんねーわけじゃねーんだ。一人で勝てなくても、チームで勝ちゃいいんだよ。な、黒子」
相棒に話を振ると、黒子は「はい」と頼もしい表情で応える。
「赤司君のいる洛山も、緑間君や高尾君のいる秀徳も、キセキの世代がいるチームはどこも強いです。けれど、誠凛のみんななら十分に彼らと渡り合えると、ボクは信じています」
力強い黒子の言葉に、降旗が勇気づけられたように頷く。河原と福田も、それに呼応した。
「だよな。キセキの奴らは確かに強いけど、うちには火神がいるし!」
「黒子もいるし」
「オレ達だって、一年の時から比べたら強くなったしな!」
にっと笑う福田に、降旗と河原も笑顔で頷く。
「まずは、次のインターハイ。今度こそ優勝しようぜ!」
火神は叫び、目の前に拳を突き出した。
「ええ。冬の大会と違って、夏はまだ優勝してませんからね。今度こそ、三度目の正直です」
黒子の拳が、火神の拳にぶつかる。次に、降旗、福田、河原の拳が。全員の拳が触れ合ったところで、五人は一斉に声を上げる。
「「「「「誠凛、ファイ! オー!」」」」」
重ね合わせた声が、火神の部屋に響き渡る。
「ワンッ!」
と、最後に2号が掛け声を添えた。