長き戦いの果てに…(改訂版)【5】
「分かっていますよ、ギル。ルートにも本当は分かっているはず。彼は今やとても強く立派な国に育ちました。その事に誰にも異論はないはず。この世に彼が生まれ出たその時から、あなたが誰よりも大切に慈しみ、持てる力を全て注き込んであそこまで育て上げたのは誰でも知っています」
「……」
思いもよらない言葉に声も出ず、ギルベルトは呆然とローデリヒの話を聞いていた。
「ですが……そこには思わぬ誤算があった。いや、落とし穴というべきかもしれません」
ギルベルトの目つきが変わった。紅い瞳に再び険しい光が宿る。
「誤算?……落とし穴だと?どういう意味だ」
紅い瞳の突き付ける鋭い剣を、紫の瞳は怖じることなく受け止めた。
「彼はあまりにも完璧すぎました。私たちはみんな彼に過剰な期待を抱き、彼は完ぺきにそれに答えようとした。その結果が……これです」
紫の瞳が揺れて、涙が再び頬を伝って流れ落ちた。
「彼はずっと悩んでいたんです。誰にも言えずにずっとひとりで抱え込んで、自分一人で何とかしようとして……せっかく打ち明けてくれたのに私は力になれなかった。私も彼の力を過信したんです。これまで何があっても、何度でも彼は自分の力で立ち上がって来た。だから今回もきっと自力で乗り越えることができると思ったんです。それが……こんな結果を生んだ」
ギルベルトも返す言葉がなかった。
作品名:長き戦いの果てに…(改訂版)【5】 作家名:maki