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長き戦いの果てに…(改訂版)【5】

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ルートヴィッヒは翌日になっても、その次の日になっても目を覚まさなかった。おとぎ話の眠り姫のように。知らないものが見れば死んだように見えたかもしれない。
医者も呼んだが原因は分からなかった。どこも悪いところがないのでは医者も手の施しようがない。肉体には何の異常もなく、ただ死んだように深い眠りについているのだ。
ローデリヒはその日からずっとルートヴィッヒのそばに付きっきりで、片時も愛する者のそばを離れようとしない。今もベッドの傍らの椅子に腰かけて手を握り、時折何かしら話しかけたりしている。残念だが、まだ返事はなかった。
ギルベルトは部屋へ戻ると、ひとり悪態を吐いた。
「お前たち、連れて行くな……ザ**ンよ、なぜ今になってあいつを連れてかなきゃならないんだ?……ブラン****ク……それとも…ブラウン****クか?……お前たちが皆であれを生み出し……この世に送り出したんじゃないか……今になって、なぜだ……」
壁面に掛けられた兄弟たちの肖像は何も語らない。
「我らがライヒ……ルートヴィッヒを……我らが願い、我らが望み、我らが希望──俺の『ドイツ』を……どうか──頼む、連れて行かないでくれ!」
血を吐くようなギルベルトの願いだった。
「たとえ出来が悪くても、俺達の大事な弟じゃないか。俺たち全てのだ──」

──心配しなくても、彼は死ぬわけじゃない

どこからか声が聞こえた──ような気がした。
「な、何だ?誰だ!」
打ちひしがれ書斎の椅子にぐったりと座りこんでいたギルベルトは、弾かれたように立ち上がるとあたりを見回したが、薄暗い部屋にはやはり誰もいない。自分一人だけだ。
「チッ!……俺もついに焼きが回ったか」
ギルベルトは舌打ちすると、再び乱暴に椅子に座りこんだ。
だが今度は肩にふわりと何かが触れたような気がして、慌ててまた周囲を見回す。
「ザ**ン、ザ**ンなのか?!ブラン****クか、どこにいる?姿を見せろ!」

──彼自身の為だ

耳元でまた声がした。だが振り向いても誰もいない。
「ふざけんな、姿を見せろ!卑怯者!」

──心配することはない、プロイセン……ギルベルト。彼はちゃんと返す、その時が来くれば、な

ギルベルトは狂ったように当たりを見回した。やはり誰もいない。声だけが聞こえる。
「『その時が来れば』だと?その時って何だ、あいつをどうするつもりだ!」
虚空に向かってギルベルトは叫んだ。

──忘れたのか?俺たちのところへ来たいと望んだのはドイツ──ルートヴィッヒ自身だ。彼自身が望んだことだ

「あいつが望んだだと?何を望んだっていうんだ!」
ギルベルトは怒りに我を忘れた。たとえ姿が見えなくても、たとえ共にライヒ──ルートヴィッヒを生んだ同じ兄弟たちであろうとも、弟に危害を加える者はすべて敵だ、例外はない。
だが彼らの答えはギルベルトを愕然とさせた。

──彼の望みはただひとつ──強くあること……そしてお前に認められることだ

「……今、何と言った?」
意味が分からない。単純にそう思い聞き返した。
「俺に認められることだと?ルートヴィッヒがか?」

──そうだ

答えはごくシンプルだった。聞き間違えようもない。

「それじゃあ、何か?俺がやつを認めてないとでもいうのか?」

──答えは……自分の胸に聞くといいだろう。彼の望みに変わりはない

「答えになってねぇだろ!ふざけんな、おい!ブラン****クッ!」
彼らはすでにその場を去ったのか、答える者はなかった。
「ブラウン****クッ!誰でもいい、聞いた事に答えろ!」
なおも追いすがろうとするギルベルトの叫びは虚しく壁に吸い込まれ、荒々しい自分の息遣いだけが静かな室内で場違いに響いた。
「何だってんだ、俺が原因だっていうのか?……ふざけんな!」
ギルベルトはマホガニーの書斎机に拳を叩きつけて叫んだ。
堅い机はびくともしなかったが、机上のインク壺が倒れた。流れたインクは床にぼとぼとと滴り落ち、豪華な絨毯に大きな黒い染みを作った。


「……」
ギルベルトが目を覚ましたのは、何十年と使い慣れた自分の寝室のベッドだった。
「ご主人様、お目覚めでございますか?」
家令のマテウスが慣れた様子で音もなくカーテンを引き開けると、眩しい朝日が目に飛び込んできた。
「何だよ……夢だったのか?チッ、馬鹿馬鹿しい──」
何て忌々しい夢なんだと悪態を吐きながらベッドを出てガウンを羽織るとスリッパを突っかけ書斎に向かう。
「何か悪い夢でもご覧になりましたか」
マテウスが主を気遣い、声を掛ける。
「大したことじゃねぇ──」
ぞんざいに答えながら書斎のドアを開いたギルベルトは息をのんだ。
デスクの上にはインク壺が転がっていた。天板の上に流れ出たインクはそこから流れ落ち、下の絨毯にも大きな黒い染みを作っている。
まさか、あれは……!
「ご主人様、昨夜零されたのでございますね。もう乾いてしまっていますが、机はすぐに掃除をさせます。絨毯の染みを取るのは難しいと思われますので、本日中に業者を呼んで新しいものに取り換えさせましょう」
家令が後ろから近づき、声を掛けた。
「本日の朝食はいかが致しましょうかご主人様、すでにご用意ができ──おや、いかがなさいましたか、ギルベルト様」
家令は返事がないのをいぶかしんだが声を掛けることは控え、沈黙して呼ばれるのを待った。
「何でだよ……!」
ギルベルトの耳には家令の声など聞こえていなかった。
喉の奥から押し殺したような唸りを漏らし、両手の関節が白くなる程、堅く拳を握り締め、抑えきれない怒りに身体を震わせる。
「どういう事だ……!」
ギルベルトは振り向きざまに叫んだ。
「マテウスッ!」
「こちらに」
主が噛みつくように叫んでも慣れているのか、家令はたじろぐことなく優雅に一礼した。
「あいつは──ルートヴィッヒはどうした!」
「昨日よりご様子にお変わりはございません。未だ深い眠りについたままでいらっしゃいます」
マテウスはまっすぐ主の目を見た。
「うなされてたとか、寝言を言ってたとか、とにかく何か変わったことはないのか?」
ギルベルトはすがるような気持ちで更に問いかけた。
家令は主を気遣い、わずかに表情を曇らせた。
「いえ…これまでと変わったご様子は何もございませんでした」
「……そうか」
吐き捨てるようにそう呟く。
荒ぶる気配は鳴りを潜めたものの、眉間に刻んだ縦皺は更に深くなった。
「あいつは……ローデリヒはどうしてる?」
「わずかに仮眠を取られましたが、その後は片時も離れずルートヴィッヒ様のお側についておられます」
「……分かった。着替えるから手伝え」
ほんの一瞬考え込む様な顔をしたが、ギルベルトはすぐにそう命じた。
「かしこまりました」
何事もなかったかのように家令が答えた。


* * *


「ルート……お願いです、目を開けてください……あなたは…どこへ行こうとしているのですか」
昏々と眠り続けるルートヴィッヒの傍らに掛けたローデリヒは、彼の手を握りながら必死で話しかける。
「まさか私一人置いて行くおつもりじゃないでしょうね……あなたは私に誓ったじゃありませんか、命ある限り離れることはないと。あれは──嘘だったんですか」