星に願いを
「ご馳走様です」と、緑間も頭を下げた。
「おー。大学生のなけなしのアルバイト代で買ってきてやったんだ。有難く食え」
口角を上げて、清志が応える。
「食後にはスイカを出す。これは、うちの店からのサービスだ」
麺つゆや薬味、天つゆなどを配膳しながら木村が言う。
高尾は配るのを手伝いながら、「ありがとうございます!」と元気よく応えた。小口ネギやごま、ミョウガなどの薬味が盛られた薬味皿や、キュウリの漬物が入った皿などを全員の手が届きやすい場所に置く。これらの野菜はこの店で売られている物だろうから、実質これらも木村家からのサービスだろう。
「準備は整ったな。じゃあ、宮地弟。音頭を頼む」
「えっ、オレすか。大坪さんじゃなくて?」
「今の主将はお前だろう。お前に任せるよ」
「分かりました。じゃあ、改めて」裕也が言葉を区切るように、一つ咳をする。「誕生日おめでとう、緑間」
「おめでとう、真ちゃん!」
「おめでとうございます、先輩」
「おめでと」
「おめでとう」
「おめでとう、緑間」
口々に、祝いの言葉を述べる。
「ありがとうございます」
と、緑間は少し照れくさそうに応えた。その様子を高尾がからかうと、「うるさいのだよ」と軽く睨まれる。
賑やかにパーティが始まった。そうめんや天麩羅に各人の箸が伸びる。高尾は麺つゆにつけたそうめんに小口ネギをちらし、一口啜って食べた。家では食べ飽きているそうめんも、気の置けない仲間と食べると、不思議と美味しい。
「そうだ、緑間」
大坪が思いついたように言う。「今日は久々に、我が儘を三回まで許してやろう。叶えられる範囲で叶えるから、何でも言ってみてくれ」
「おお」と清志が感嘆の声を漏らした。「懐かしいな、それ。いいじゃねえか。言ってみろよ、緑間」
この場にいる全員の視線が、緑間に集まる。
緑間は少し思案するようにしてから、
「全員に対して、一回で充分です」
と答えた。
「なんだ? 言ってみろ」大坪が続きを促す。
緑間が、真摯な目で大坪を見返した。
「この後、このメンバーでバスケがしたいです」
はっきりとした声で、緑間は告げる。
一瞬の沈黙。
大坪が、清志や木村と視線を交わした。
「ここからそう遠くない公園に、バスケのコートあるぞ」
「じゃあ、昼飯のあと、そこに行くか」
「七人いるから、一人審判でスリー・オン・スリーできるな」
「それでいいか?」と、大坪が緑間に尋ねる。
「勿論です」
緑間は、真面目な顔で答えた。
「……ねえ、真ちゃん。今日のおは朝の一位って何座だった?」
緑間にだけ聞こえる声で高尾は尋ねる。
唐突な質問を受け、緑間は僅かに眉根を寄せた。
「お前のさそり座が一位なのだよ。……それがどうした」
「ああ、うん。やっぱりな」
「やっぱりとは、どういうことだ」
「いやー。早速ちょっと叶っちゃったかもな~と思って」
「……?」
疑問符を浮かべる緑間に笑顔を返し、高尾はそうめんをまた一口啜る。
――先輩達と、また一緒にバスケの試合ができますように。
そう書いた黄色の短冊は今、この店の前で風に揺られていることだろう。