大ちゃんの夏休み
ほな、また。
そう言い残して、今度こそ今吉は去っていく。
「はい」とだけ答えて、さつきは去っていく先輩の背中に深々と頭を下げた。
「今吉さん、髪切ったんだな」
後ろから大輝の声が聞こえて、さつきは振り返る。「大ちゃん! いつ気づいたの? 追いかけて挨拶しなくていいの?」
さつきの問いに、大輝は「あー?」と気だるげに答える。「いいよ、別に。目ぇ合ったから、それで充分だ」
「何それ、意味分かんない。ていうか、さっきの子は? もう帰ったの?」
訊きながら、さつきはバスケコートのほうを窺う。そこには、先程までいた少年の姿はなかった。
「夏休みの宿題が残ってるから、今日のところは帰るんだとよ。つーわけで、オレらも帰ろうぜ」
「そっか。……てゆうか、大ちゃんこそ、まだ夏休みの課題が残ってるんじゃない! だから、早く帰って終わらせようって話だったのに!」
さつきは当初の予定を思い出して憤慨する。
夏休み最終日の今日は、例年のごとく、さつきが大輝の課題を手伝う予定だったのだ。知らない子とストバスする時間なんてなかったのに、とさつきは大輝を止めなかったことを悔やむ。
「今から帰って、さつきの課題写せば間に合うだろ」
「何よ、それ! ちょっとは自分でやりなさいよね!」
「いいだろ、誕生日プレゼントっつうことで」
「毎年毎年、それを理由に甘えないでよ!」
「甘えてねえよ、バカ!」
ぎゃんぎゃんと言い合いをしながら、さつきと大輝は互いの家があるほうに向かって歩く。
傾き始めた太陽の光が、いつもの道を暖かく照らしていた。