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長き戦いの果てに…(改訂版)【6】

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軽く礼を述べ、病室へ案内してもらう。
失踪する恐れがある為、部屋の扉には外から鍵が掛けられ、常時見張りがつけられていた。何とも物々しい雰囲気だが、中はごく普通の病室だった。
「ヨハン君、具合はどうだい?」
「……」
医師が声を掛けたが、とろんとした顔であまり反応がない。
それを見たローデリヒが眉をひそめると、
「今は薬が効いているようだから暴れたりはしないと思いますが、何かあればすぐに呼んでください」
医師はそう言い残して、そそくさと病室を離れた。

「何なんだろうあの人、あれでも医者なの?」
フェリシアーノは不満そうだったが、ローデリヒは構わずにヨハンに声を掛けた。
「はじめまして、きみがヨハン君?私はローデリヒ・エーデルシュタイン──」
話しかけた瞬間、それまでぼんやりしていたヨハンがいきなり振り向き、ローデリヒに刺すような視線を投げかけた。
「何でここに……っ!」
両手を伸ばし、初対面のローデリヒの胸倉をつかんで呻いた。
「何で早く隊長のところへ行かない、何でこんなとこにいるんだっ──!」
この青年は会うなり、なぜ突然そんな事を言うのか?
 ローデリヒが驚いていると、フェリシアーノがあわてて止めに入った。
「やめてよヨハン、どうしちゃったのさ!」
胸元をつかんだ手を外そうとしたが、どうしても離そうとしない。
フェリシアーノがむりやり抱きすくめ、体全体で抑え込むようにするとようやく手を離したが、今度はおとなしくなったというより脱力したように見えて、フェリシアーノは不安になった。
「大丈夫、ヨハン?俺が分かる?」
フェリシアーノは恐る恐る聞いてみた。
「あ……フェリシアーノ?」
とろんとなったヨハンの目がようやく光を取り戻した。
「俺……どうしたんだ?ごめんフェリ、また…迷惑かけたのか」
「大丈夫だよ、しっかりして。でもまたってどういうこと?」
その時ようやくローデリヒの存在に気がついたように、ヨハンは視線を向けた。
「あなたは……?」
不思議そうにする様子を見て、フェリシアーノはまた不安になった。
「ヨハンどうしたのさ、しっかりしてよ!」
思わず肩をつかんで揺さぶると、ローデリヒが静かに声を掛けた。
「落ち着いて、フェリシアーノ。さっき先生から聞いたお話を忘れましたか?」
「あ……っ」
「薬の影響でしょう、恐らく。でももう落ち着いたようですから、改めて彼に紹介して頂けませんか?」
鳶色の瞳がとまどったように目まぐるしく揺れる。
「頼む、フェリシアーノ」
ヨハンの黒い瞳に見つめられ、フェリシアーノはようやく我に返った。
「あ…こ、この人はローデリヒさん、俺やルートと同じ『国』だよ。ギルの館に住んでる」
どうしていいのか迷いながら、とりあえずそう紹介する。
「もう知ってると思うけど彼はヨハン、俺の親友だよ、ローデリヒさん」
ローデリヒは優雅に一礼してみせた。
「改めて、初めましてヨハン。ローデリヒ・エーデルシュタインです」
「あなたが──」
黒い瞳が揺れて翳りを帯びた。
「はじめまして、僕はヨハン・ハイネマンです。隊長には…軍でお世話になっています」
 初めて見たローデリヒの姿にヨハンは戸惑っていた。
それは憧れの隊長ルートヴィッヒの想い人。
優雅で、まぶしくて、なんて人間離れしているのだろう……当たり前だ、そんなことは今更言うまでもない、隊長もフェリシアーノも、そしてこの人も、ただの人間じゃない。
『国』なのだ。
自分みたいな一介の人間とはそもそも格が違う。
いくら優しく手を差し伸べてくれたとしても、所詮人間ごときの手の届く存在ではなかった──そう思うとヨハンは得も言われぬ胸苦しさを覚え、言葉が出なくなった。

やがて重苦しい沈黙を破るように、フェリシアーノが口火を切った。
「……ねえヨハン、昨日俺が聞いた事をローデリヒさんにも話して欲しいんだ。ルートのこと」
ヨハンがはっとして顔を上げた。
「俺じゃどうしていいか分からないから、ローデリヒさんに相談して来てもらったんだ」
ローデリヒがすいと身を乗り出した。
「フェリシアーノから話は聞いています。私たちも彼を見つけられなくて困っているんです。何か知っているならぜひ話して欲しい」
紫の瞳が心の奥深くまで見通すかのように、黒い瞳を覗き込んだ。優雅な白い手がヨハンのタコだらけでごつごつの荒れた手をしっかりと握った。
「あ……」
黒い瞳は行き場を求めてさまよった。
「……も、もちろんです、俺にできる事なら何でも協力します。早く隊長を見つけないと……」
やっとの思いで喉から掠れた声を押し出すと、ヨハンはまた俯いた。