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虹色の空

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空調が効いた電車から降りると、むわっとした空気が肌を襲う。
 蒸し暑い。ロサンゼルスに移り住んで一年以上経つ身には、東京の残暑の蒸し暑さは、懐かしくもあるが鬱陶しかった。
 ――ロスの暑さは、もっとカラッとしてんのにな。
 胸中でぼやきながら、いつもよりストバス中の水分補給はこまめにしよう、と頭の片隅で考える。
「虹村さん!」
 自分を呼ぶ声がして、虹村は顔を上げる。
 改札の向こうに目を遣ると、こちらに向かって大きく手を振っているピンク髪の美少女が目に入った。目が合ったので片手を挙げて応え、改札を通り、彼女のいるほうへ向かう。
「ご無沙汰してます、虹村さん」
 美少女――桃井が駆け寄ってきて、虹村に笑顔を向ける。
 桃井は虹村が日本の中学校に通っていた時の後輩で、バスケ部でマネージャーを務めていた少女だ。マネージャーとして有能なだけでなく、敵チームの偵察や情報分析にも長けていて、虹村を含むレギュラー陣は、公式試合で何度か彼女の能力に助けられた。
「久しぶり。てか、桃井一人か?」
 訊きながら、虹村は周囲を見渡す。
「みんな、駅前で待ってます」と桃井は答えた。「ホントは赤司君が虹村さんのお迎えに行くのがいいのかなって思ったんですけど、私じゃみんなをまとめられないので……」
「ああ。揃いも揃って面倒な奴らだからな。あいつらをまとめられるのは、オレと赤司くらいだろ」
 虹村は、自分が三年生に上がった時のレギュラー陣を思い浮かべる。
 自由奔放な青峰、堅物の緑間、やる気に欠ける紫原、時々見失うほど影が薄い黒子、礼儀知らずの黄瀬。いずれも虹村の一つ下に当たるが、この個性的なメンバーを率いることができるのは、自分以外では、早々に次期主将を任せた赤司だけだと虹村は思っている。
 ――ただ、その赤司も、灰崎に対しては匙を投げたようだがな。
 昔の自分に似ている、という理由で一番気にかけていた後輩を虹村は思い浮かべる。
 灰崎だけは、最後までほかのレギュラー陣と打ち解けることができなかった。けれど、アイツが今でも高校でバスケを続けているとは聞いたから、今はそれだけで充分だと思うことにしている。
 桃井と並んで駅構内を出て、後輩達が待つ場所へ向かう。
 ロータリー脇にたむろする学生の中に、それぞれ赤、緑、紫、青、黄色、水色の髪色をした集団がいるのが見てとれる。
(相変わらず、派手な髪色の奴ら)
 と、虹村は内心苦笑した。
 駅には結構な人がいるというのに、虹村の後輩達だけは、どこにいるのか一目瞭然だった。
「みんな~! 虹村さん来たよー!」
 桃井の声にカラフルな髪色の集団が振り返る。懐かしい面々が、ぱっと顔を明るくした。
「虹村さーん! お久しぶりっス!」
「うっす。お久しぶりです」
「お久しぶりです、虹村先輩」
「ご無沙汰しています」
「久しぶり~」
 黄瀬が大きく手を振り、青峰と黒子と緑間が軽く頭を下げ、紫原が突っ立った体勢のまま挨拶してくる。
 全員が肩にスポーツバッグを提げ、さらに緑間は狸の信楽焼、紫原はポテトチップスの袋を片手に持っていた。――いや。正確には、紫原は持っているのではなく、ギプスをした左腕に軽く乗せている。怪我の原因は、先日アメリカのストバスチームとの試合で、相手にラフプレーをされたからだ。
「お久しぶりです。虹村さん」
 赤司が歩み寄ってきて、最後に挨拶した。その片手には、ペットボトルのスポーツ飲料が数本入った袋を提げている。
「久しぶりだな、お前ら」
 虹村は後輩達の顔を見回して応える。「元気にしてたか、って訊きたいところだが……、紫原は見ての通りだよな。災難だったな、紫原。もし向こうでシルバーとかいう奴に会ったら、その怪我の礼はきっちり返しておくからな!」
 虹村は満面の笑みで紫原に伝える。紫原は、途端に表情を歪めた。
「室ちんと同じこと言わないでよ~。野蛮~」
「なんだ。タツヤも同じこと言ったのか」
 タツヤ――氷室辰也は、虹村がアメリカで出会った日本人の青年だ。虹村とは同級生で、バスケも喧嘩も強い。辰也は現在、日本に帰り、紫原のいる高校のバスケ部で活躍している。
「虹村先輩は、氷室さんとお知り合いなんですか?」
「うおっ!」突然出てきた黒子に、虹村は驚く。「相変わらず影薄いな、黒子……。近くまで来てんの分かんなかったわ。――あー、タツヤの話だったか? アイツとは、アメリカで会ったんだ。今は時々メールするくらいの仲だけど、お前の相棒の話なんかも聞いてるぞ。タツヤの弟分なんだってな」
 虹村が訊くと、黒子は「はい」と表情を変えずに答える。相変わらずの、ポーカーフェイスだ。
「お前がいる誠凛のことは、こっちで療養してる木吉からも聞いてる」
 黒子に言ってから、虹村はほかのメンバーに顔を巡らす。「けど、ほかのチームのことはあんま知らねーんだよな。青峰と桃井以外は、全員バラバラの高校に進学したんだろ? そんで、それぞれの高校から出た先輩らで結成したのが、例のStrkyだっていうじゃねえか。お前らから見て、どんな先輩なのか聞かせろよ」
 つい先日、ここにいる後輩達にタツヤの弟分など数名を加えたチームが、アメリカのストバスチーム・Jabberwockと対戦した。その試合は、Jabberwockに虚仮にされたStrky――バスケの強豪校出身の大学生で結成されたチームのリベンジ・マッチだったという話だ。虹村としては、後輩達がどんな先輩のために戦ったのか興味がある。
「めちゃくちゃキャプテンシーがあって、尊敬するセンパイっス!」
 と、まずは黄瀬が手を挙げて答えた。
「人事を尽くしている先輩です」と、緑間も簡潔に答える。
 青峰と桃井は顔を見合わせ、
「妙に人の心を読むのが得意な人……かな」
「だな」
 と頷き合ってみせた。
 紫原は興味なさげに「室ちんに聞いて~」と言ってきやがったが、赤司に窘められ、渋々「んーと。オレよりでかい奴との戦い方教えてくれた人ー」と答える。
「お前のとこにいた選手は、どんな人なんだ?」虹村は赤司に尋ねる。
 赤司は一瞬考えるようにしてから、
「選手としての彼がどういう人間か、という質問であれば、オレには答えようがありません。オレはマネージャーとしての彼しか知らないので」
 と答えた。
「マネージャー? じゃあ、赤司は一緒にプレーしたことないのか」
「はい」
「……ふうん」
 怪我でもしてたのかな、と虹村は思う。
 Strkyのほかのメンバーは、いずれも各校のスタメンだったと木吉から聞いている。そんな人達と同じチームにいるのだから、赤司がいる高校出身の選手も、スタメンではなくてもレギュラーだったのだろうと思っていた。それが、実際には選手ですらなくマネージャーだったという。恐らく、怪我が原因で、一時的にそうせざるを得なかったのではないだろうか。
「マネージャーとしては、どんな人だったんだ?」虹村は質問を変える。
「主将として言わせてもらえば、とても有能な方でしたよ」というのが、赤司の答えだった。
「ところで、そろそろバスケコートに向かいませんか。ほかに何かお聞きになりたいことがあれば、道中でオレがお話ししますから」
作品名:虹色の空 作家名:CITRON