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虹色の空

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「そうだな。早くお前らのプレーも見たいし、そうするか」
「オレも早く虹村さんとやりたいっすね」青峰が笑う。
「おいおい。オレ、今は競技でやってねーんだから、あんま期待すんなよ」
 青峰に笑みを返してから、虹村は赤司と並んで歩き出す。後ろから緑間と紫原が、その後ろから残りの四人がついてきた。
 駅前から少し歩いたところで、商店街に入る。そっちのほうが、コートがある公園へは近道だからだ。
 商店街の通路の上では、色の付いた透明な傘がいくつも風に揺られている。何か催し物でもあるのだろうか。
「アンブレラ・スカイですね」
 虹村の思考を読んだかのように、赤司が話しかけてくる。「元はヨーロッパの田舎町が数年前に始めたプロジェクトだそうですが、最近では日本各所でもこうして真似しているんです」
「へえ。アメリカじゃ見ねーけどな、こういうの」
「そうですね。そちらは日本ほど傘を活用しないからでしょうか」
「かもな。ちょっとの雨だったら、降られて濡れても、すぐに乾くし」
 虹村は色取り取りの傘の群れを仰ぎ見る。
 赤、青、黄色、緑、紫、ピンク、水色――。この場にいる後輩達の髪色と同じ色の傘をすべて見つけて、心の中で小さくガッツポーズする。ちょっとしたゲームをクリアした気分だ。
 ただ、コンクリートの地面に落ちた青い傘の影を見て、黒子はこっちかな、とも思い直した。黒子の髪色は水色なのだが、黒子といえば、かつては青峰の影だったからだ。『影』というのは緑間が言い出した表現らしいが、天才を陰でサポートする相棒くらいの意味で後輩達は使っているらしい。
 虹村は歩きながら、黒子達がいるほうを盗み見る。桃井が黒子の腕に抱き着き、黄瀬が反対側から黒子に引っ付き、青峰がその三人を見守るようにして歩いているのが見えた。何を話しているのかは聞こえないが、四人とも楽しそうに談笑しながら歩いている。
「青峰の奴、また笑えるようになったんだな」
 隣にいる赤司に聞こえるように言う。「前より人相は悪いけど」と付け足すと、赤司が小さく噴き出した。
「黒子のお陰ですよ」
 笑いを噛み殺して、赤司は答える。「勿論、桃井の功績も大きいですが」
 黒子と桃井が青峰のためにどれだけ尽力したかを、赤司は虹村に話して聞かせる。
「面倒見のいい幼馴染と友達思いの元相棒がいて、青峰は幸せだな」
 虹村が正直な感想を言うと、赤司も「同感です」と小さく頷いた。
「アメリカに行く直前まで、青峰の表情が暗いのは気になってたからな。安心したよ」
 虹村は微かに笑みを浮かべる。「あとは……、灰崎が高校で良い友達なり先輩なり出会えてりゃいいんだが」言ってから、ぼんやりと視線を遠くに投げた。思考に耽る時の癖で、つい唇を尖らせてしまう。
「良い先輩ということでしたら、灰崎には虹村さんがいるじゃありませんか」赤司が不思議そうに言う。
「つってもなぁ。オレは結局、自分が引退するまでの間にアイツの捻くれた性格直してやれなかったし。それに灰崎の奴、こっちから連絡しても一切返事寄こさねーんだ。メールは届いてるみてーだから、アドレス変えてはいねーと思うんだけど。電話には当然出ねーし……」
「それでも、灰崎が今でもバスケを続けているのは、少なからず虹村さんの影響を受けたからだと思います」
 いやにはっきりとした口調で、赤司は主張する。「自分が道を踏み外した時に、見捨てずにいてくれた先輩が一人でもいた、ということは、今でもあいつの心の支えになっているのではないでしょうか」
「道を踏み外すどころか、失敗すらしたことなさそうなオメーがそれを言ってもなあ……。説得力に欠けるっつーか」
「オレだって失敗くらいしますよ。虹村さん達が引退したあと、オレがチームを健全な状態に保てなかったことはご存じでしょう」
「そりゃそうかもしんねーけどよ。でも――」
「それどころか、オレはもう少しで、高校でも同じ過ちを繰り返すところでした」
「え。そうなのか」
 虹村は驚いて訊き返す。
「はい」
 と、赤司は答えた。
「えーっと。けど、今度はそうはならなかったんだろ?」
 虹村は赤司の横顔を窺いながら尋ねる。
 赤司が、ゆっくりと虹村のほうを見上げた。赤司の赤い瞳に黄色い傘の影が映って、一瞬、左目だけが橙色になったかのように錯覚する。
「……そうですね。チームメイトだった先輩のお陰で、なんとか」
 柔らかく微笑して、赤司は答えた。
 チームメイトと呼ぶからには、マネージャーだった先輩とは別の人なんだろう。
「そうか。赤司も、高校で良い人に出会えたんだな」
「良い人かは分かりませんが、面白い人です」
「んだ、それ。てか、先輩に対して失礼だろ、オメー」
 赤司の頭に軽く手刀を入れ、教育的指導をする。
「すみません」と、赤司はくすぐったそうに笑った。
「訂正します。オレにとっては、良い先輩です。――きっと、ほかの高校の先輩方も、みんなにとっては良い先輩なのだと思います」
 赤司は振り返り、かつてのチームメイト達の顔を眺める。話を聞いていたのか、赤司と目が合った緑間が、同意するように無言で頷いた。後ろのほうを歩いていた黒子達は、まさか話は聞こえていないだろうが、赤司の視線に気づいて距離を詰めてくる。
 その光景を微笑ましい気持ちで見守ってから、虹村は進行方向に目を戻した。
 視界の上では、後輩達のように色取り取りの傘が、空を虹色に染めている。
作品名:虹色の空 作家名:CITRON