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長き戦いの果てに…(改訂版)【7】

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15.ヘルマン



「……おい」
うつむいたヨハンが何ごとかつぶやいた。
「いつまで俺の手を握ってる、放せ」
「え…なんですって?」
初対面の人間の口から出る言葉とは思えず問い返すと、戻って来たのは更に信じがたい返事だった。
「放せと言ってるんだ、聞こえないのか?」
苛立ったようにローデリヒの手を振り解き、ローデリヒを見上げた顔は確かにヨハンだったが、表情はまるで別人のように変わっている。
「どういうことですか、これは……あなた、誰です?」
「何……?どうしちゃったのヨハン!」
フェリシアーノが怯えた声を出す。
ローデリヒの表情が険しくなった。
「フェリシアーノ、この人はヨハンではありませんよ」
「で、でも……っ」
「お気をつけなさい」
そう言ってフェリシアーノを庇うように前に出た。
「肉体は彼のものかもしれないが、しゃべっているのはまるで別人です」
「そんな……!」
先程までの少し憂いを帯びた繊細な表情はすっかり影をひそめ、その代わりに刺すような鋭い視線がこちらに向けられている。
「そこまで分かってるなら話は早い」
ヨハンだった者──が話し始めた。
「時間がない、要点だけ話す。デトモルトへ行け、ヤツはそこにいる」
「ヤツとはルートのことですか?」
「そうだ」
「なぜ彼がそんなところに?第一あなたは誰ですか、そんな言葉がにわかに信じられるとでも──」
≪ヨハン≫は一方的にローデリヒの言葉をさえぎった。
「言っただろう、時間がないんだ。私はいつまでもこの肉体にはいられない」
「そちらにも言いたいことはあるでしょうが、こちらにも言い分があります。誰とも分からない人間の言葉をどうして信じられると思うんですか」
≪ヨハン≫は、ふん、と馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「何てめんどうな、だからこんなことは嫌だと言ったんだ」
それを見たローデリヒは心に引っ掛かるものを感じた。
──この表情、しぐさ、どこかで見たような気が……
「まさか、あなた…ゲルマン──お爺様?」
今は≪ヨハン≫であるゲルマンはそっけなく答えた。
「今頃気づいたか」
「お爺様?ゲルマンってまさか、ローマ爺ちゃんの……?」
ゲルマンはフェリシアーノをにらみつけた。
「ああ、そうだ。あいつがあんまりうるさいから俺が来たんだ。そもそも俺が出るような幕じゃない。あいつだって立派な国なんだ、こんなことぐらいで死にやしない、放っておけばいいものを」
元はと言えば、ルートヴィッヒが悩む姿を見かねた彼の『兄たち』が、ちょっかいを出したのが始まりだ。
「あいつなら自力で何とかするから、余計なことはするなと言ったんだ。どの道ヤツ自身で答えを出さなければならない問題だ。あいつなら助けなど必要ないから、掻き回すんじゃないと警告までしてやったのに」
馬鹿な兄たちが弟可愛さに要らぬちょっかいを出した結果、ルートヴィッヒはかえって迷いを深めてしまったとゲルマンは言う。
「それと、デトモルトとどんな関係があるのですか」
「ヘルマンだ、例のバカでかい記念像だ。実に下らないが、ルートヴィッヒは助けを求めてそこへ向かった」
「ヘルマンって何?」
おいてきぼりになっていたフェリシアーノがようやく割り込んだ。
「古代のゲルマン人の英雄です。デトモルトには彼の巨大な記念像が立てられているんですよ。ああ、あなたにはラテン語でアルミニウスといった方が分かりやすいですか」
「アルミニウスって、あのローマ爺ちゃんを悩ませたっていう人間の」
「ああ、俺はヤツともくつわを並べて戦ったが、人間にしては中々のものだった」
ゲルマンは感慨深げにつぶやくと、それを思い出すように遠い目をした。
姿かたちはヨハンだが、表情はぞっとするほどルートヴィッヒが時々見せる顔つきにそっくりだった。ローデリヒは息を呑んでその姿を見つめた。
「ルートは……本当にあなたにそっくりだ。一族の中で彼が最もあなたの血を強く受け継いだのですね」
「だからといって、ヤツを特別扱いするつもりはないがな」
ゲルマンはそっけなく言い放ったが、涙ぐんでいるフェリシアーノを見ると、こんなことを言い出した。
「そうだお前、フェリシアーノ、ローマのヤツがお前のことを心配していたぞ」
「えっ、ローマ爺ちゃんがなんで?」
フェリシアーノは思いも寄らない展開に付いて行けず、キョトンとした。
「そもそも俺がこんなところへ顔を出すことになったのも、お前が原因だ」
ヨハンの顔をしたゲルマンがそう言って人差し指を突き付けると、フェリシアーノは訳が分からず、丸い目をますます丸くして見つめ返した。
「俺が原因?それってどういうこと?」
「お前がルートヴィッヒのことを心配して夜も眠れずにいる、だから助けてやって欲しいとローマのやつが俺に泣きついてきたんだ」

ゲルマンはここへ来る前のローマ帝国との会話を思い出していた。
『これは俺たち一族の問題だ。そもそもお前には関係ない』
『関係ないこたねーだろ、俺の孫がかわいそうだとは思わないのかよ。それにだ、そもそもの原因と言えば、お前んとこのルートヴィッヒだ。お前の孫だろ、助けてやったらどうなんだよ』
『余計な世話だ。だいたいあいつに助けなど必要ない』
『ちっ、爺孫そろって何でそうガンコなんだ、もっと素直になれよ』
『何だと?それこそ余計な世話ってものだろう』
『心配してやってるのに何だよ、その言いぐさはよぉ~!』
それからひとしきり殴り合いのケンカになったが、結局はローマ帝国に弱いゲルマンが折れることになった。それで仕方なくここへ来ることになった。
そこのところは二人だけの問題だから、いちいちこいつらに説明する必要もあるまい。

「ここへ来るのには苦労した。一旦向こうへ行ったら、簡単にこの世へ戻って来ることはできないからな。だからお前たちの身近な人間の体を借りることにした。それがこいつだ」
そう言って≪ゲルマン≫は親指を立てて自分を指差した。
上品とはいいがたい仕草にローデリヒは顔をしかめたが、懸命にも口にすることは差し控えた。
フェリシアーノは涙ぐんでいた。
「爺ちゃん、俺のことそんなに……」
「あまりヤツに心配を掛けるんじゃないぞ、フェリシアーノ。それにこの人間は、それこそ余計なことかもしれないが、望みもないのにあまり無駄な努力は──」
≪ヨハン≫が涙を溜めるとゲルマンは口をつぐんだ。
「……ふん、俺としたことが、おしゃべりが過ぎたようだ。時間がない、分かったら早くデトモルトへ行け。そしてルートヴィッヒのヤツを連れ戻せ。そうすれば俺の仕事は終わりだ」
「さっきからあなたの言ってる時間がないとはどういう事ですか?」
「俺がこの体にいられる時間はそんなに長くないということだ。どちらかといえば、こいつの身体の問題だ」
それを聞いたフェリシアーノは息を呑んだ。
「他の魂が宿っている肉体に乗り移ることはそれ自体大変だが、乗り移られる方はもっと深刻だ。肉体に重い負担が掛かるから、あまり長く続けると危険だ」
「危険って、命に関わるってこと?」
「もちろんそれもある。命は助かっても、精神にしこりを残す場合もある」
「そんな、じゃあなぜヨハンに──」
ローデリヒがさえぎるように口を開いた。