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長き戦いの果てに…(改訂版)【7】

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「なぜ最初から、私かギルの体を使わないのですか、ただの人間よりずっと耐久力があるはずです」
「それができれば苦労はない」
理屈はともかく、元々国であった魂が、同じ国の化身の身体を借りることは難しいのだとゲルマンは説明した。
「それにこいつもなかなか素直に意識を明け渡さないから、余計な力まで使わされた」
それが原因で肉体に余分な負担を架けることになった。その為になおさら急ぐのだという。
「こいつといい、お前といい、どうしてこうも不毛な──」
「えっ──?」
フェリシアーノが聞きとがめると、ゲルマンはあわててさえぎるように続けた。
「……いや、何でもない。これで分かったろう、とにかくヤツはヘルマン像の近くにいるから、早く迎えに行ってやれ。話はそれだけだ」
「ま、待ってくださいお爺様、もしご存じであれば……教えて欲しいことがあります。ヨハンは謎の言葉を口にしていました。それが今回の件に関係があるなら、その事も解決しておきたいのです」
「謎の言葉?」
「ギルから聞きました。『俺があんな事を言わなければ』と何度も繰り返していたと」
ヨハン──ゲルマンの黒い瞳は、じっと考え込むように眼鏡の奥の紫を覗き込んだ。
「俺がこの身体にいるから、こいつのことは何でも分かると?」
「そ、それは……いや……その通りです」
少し迷った後、ローデリヒはそう答えた。
「確かにそうかもしれない。だがそれは俺の口から言うことではないだろう」
後でこいつに直接聞け──そう言いのこすと、ゲルマンは消えた。
「待って、まだ聞きたいことが」
ローデリヒは追いすがったが、黒い瞳は一瞬にして光を失い、まぶたを閉じるとヨハンはそのままベッドに倒れ込んだ。

「何だ、デトモルト?」
ギルベルトは電話口の向こうですっとんきょうな声を上げた。
「どういうことだよ、それは!まさか心配のしすぎで頭に来ちまったんじゃねぇだろうな、坊ちゃん」
「おバカなことを言わないでください!何ですか、この人は!」
病院の電話口なのも忘れ、思わず大声を出してしまった。周囲の視線が痛い。首をすくめてローデリヒは声を落とした。
「ふざけないでください、ギル。まじめな話です」
手短に事情を伝えると、いったん屋敷に戻って合流し、デトモルトに向かうことになった。
ベルリンからは直線距離でもゆうに三百キロ以上ある。そう都合よく行ける場所ではない。急いでも今日中の到着は難しいだろう。とにかく飛行機の手配をして、現地で車を雇う必要がある。
「ローデリヒさん、どうだった?」
おずおずと声をかけてきたのはフェリシアーノだ。
考えごとに集中し過ぎてすっかり忘れていた。
「ああ、すみません、あなたのことを忘れていました」
安心させようと微笑んで見せると、フェリシアーノが驚いたように目をぱちくりさせた。
「ギルとは連絡が取れました。いったん屋敷へ戻って、できる限り早い便であちらへ向かいます。そこからは車で行くことになります。あなたも一緒に行きますか?」
「おれも……行ってもいいの?」
「もちろんですよ」
口に出しては言わなかったが、フェリシアーノもその時必要になるかもしれないとローデリヒの直感が告げていた。
「ありがとう、ローデリヒさん」
「まだ礼をいうのは早いですよ、それは彼が見つかってからです」
フェリシアーノは嬉しそうに言ったが、ローデリヒは表情を引き締めた。
「ところで彼は、ヨハンはどうしました?」
「眠ってるみたい。今のところ特に問題はないって先生が言ってた」
「そうですか。今回の件は彼にはとんだとばっちりでしたが、もうお爺様が彼を悩ませることはないでしょう」
とばっちりだなんて……ヨハンはルートのことを心配してあんなになったのに──フェリシアーノはそう思ったが何も言わなかった。

ヨハンはルートに部下と上司以上の気持ちを抱いている、そのことはフェリシアーノにも分かっていた。その上、どうもギルとも何かあったらしい。聞くつもりはなかったが、彼がひどくうなされて口走ったうわごとで何となくわかってしまった。
ギルは知っててそんなことをしたんだろうか?
だとしたら酷すぎる。大好きな人の兄弟からそんな風に扱われるなんて、俺だったらどんな気がするだろう……
俺もルートのことが好きだから、何も言えないけど……ルートはローデリヒさんのものだ。元々俺やヨハンの入り込む隙なんかないって分かってる。
だから余計なことは言えないって分かってるけど、でも……
ヨハンがかわいそうだ……

「どうかしたんですか?」
ローデリヒの驚いた声でフェリシアーノは我に返った。
「そんなに彼が心配なんですか?」
自分でも気づかないうちに頬が涙で濡れていたらしい。
「これをお使いなさい」
ローデリヒはポケットからハンカチを取り出し、フェリシアーノに手渡した。
「ごめんなさい……」
「何を謝ることがあるんですか」
そう言って笑い掛けてくれる。
「う……うん」
ハンカチで涙を拭くとフェリシアーノも笑ってみせた。
「まずは一刻も早く帰ってギルと合流しないと、急ぎましょう」
「待って、ローデリヒさん。帰る前にちょっとだけヨハンの様子を見てきてもいい?」
「分かりました。今から車を呼びます、急ぐんですよ」
なぜまたと言わんばかりの顔をしたが、止められはしなかった。
「すぐ戻ってくるから!」
フェリシアーノはヨハンの病室へ急いで走っていった。

病室のドアをそっと開けると、ヨハンは眠っていた。
起こさないように気をつけながら部屋に入り、小声で話しかける。
「ヨハンのおかげでルートの居場所が分かったんだ、ありがとう。今からデトモルトに向かうんだ。会えるのはきっと明日になると思うけど」
枕元の椅子に座るとヨハンの顔をのぞき込んだ。
「俺ね、ローデリヒさんと一緒に行くよ。連れてってくれるっていうから。もうすぐ彼を連れて帰るよ。だから……早く良くなってね」
そう言って額にキスしようと顔を近づけると、ふいにヨハンが目を開けた。
「目が覚めたの?」
ヨハンが大儀そうに口を動かすのが見えたが、肝心の声が聞こえないので耳を近づけた。
「何?どうしたの?」
「……連れてって、俺も」
ヨハンはようやく掠れた声をだした。
「何言ってるんだよ、こんな身体で。無茶したら死んじゃうかもしれない、ダメだ」
「死んでも……いい」
「バカなこと言うなよ!」
「俺…は、隊長に……謝らなきゃ……俺のせいで、こ……んな……」
そこまで話しただけで、ぜいぜいと苦しそうに喉を鳴らす。
「そんなの、ルートが帰って来てからでいいだろ」
「ダメ……ダメだ、俺が行かなきゃ……」
「言ってる意味、分かんないよ!」
フェリシアーノがヒステリックに叫んだ。
「……俺が、連れて行ってやる」
掠れた声が急にしっかりしたしゃべり方に変わった。
「……えっ?」
今しがたまで弱り切っていたヨハンがむっくりと起き上がるのを見て、驚いたフェリシアーノが思わず後ずさりすると、椅子がひっくりかえって派手な音を立てた。
「な……何?まさか」
「そうだ、そのまさかだ」
ゲルマンだった。
「もう用は済んだはずだよ、何でまた出て来るんだよ!ほんとにヨハンを殺すつもり?」