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長き戦いの果てに…(改訂版)【7】

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さすがのギルベルトも焦りの色を隠せないでいる。観光地とはいってもライトアップなどされているわけではない。日が落ちてひと気もなく、あたりはもう鼻をつままれても分からない真暗闇だ。地上をわずかに照らすのは、流れる雲のすき間から切れ切れに射す月の光だけ。
皆の苛立ちがピークに達しようかという頃になって、ようやくゲルマンが指示を出した。
「焦るんじゃない、あいつのいる方向はだいたい分かっている。俺が誘導するとおりに行けばいい、だが急げよ」
四人はようやく動き始めた。
しかし真っ暗な道の途中で急に、そこを左だなどと言い出されても、道がどちらに開けているのかすら、にわかには判断できない。
そのうちギルベルトの背後で短い叫びが上がって、誰か倒れるような音がした。
「大丈夫ですか、フェリシアーノ!」
振り返るとローデリヒが転んだフェリシアーノに手を貸していた。
「だ、大丈夫……ありがとう、ローデリヒさん。木の根っこにつまずいたみたい」
みんなも気をつけてね、フェリシアーノはそう言いながら立ち上がるとズボンに付いた埃をぱたぱたと払った。
いつの間にこんなところまで来たのか、気がつくとそこは鬱蒼とした森の中だった。
「おい、もっと急げ」
背中から容赦ない叱咤が飛んでくる。
「急げったって、こんな上り坂であんたを担いで、そんなに急げるわけねぇだろ、無茶いうな」
おまけに普通に歩いても足の遅い坊ちゃんに、フェリシアーノちゃんまでいるんだぞ、じじい!そう言いたいところだったが、ギルベルトはぐっとこらえて二人に声を掛けた。
「坊ちゃん、しっかりとフェリシアーノの手をつかんどけよ。フェリシアーノちゃんも、がんばってついて来るんだ、間違ってもふたりして迷子になんかなるんじゃねぇぞ!」
こんな暗い森の中で、しかも夜。辺りは一面の闇。
それなりに開発され整備された記念公園とあって、危険な動物などは今のところいないようだが、暗い夜にこんなところではぐれでもしたら、それこそ遭難しかねない。とんだ二次災害だ。ゲルマンは一体俺たちをどこに連れて行こうとしているのか。
おまけに大切な弟に危険が迫っていると言う。冗談じゃねぇ!
そんなことをつらつら考えるうちに、どうやら森に囲まれた小高い山の頂を目指していることにギルベルトは気が付いた。
「──何でもっと早くヤツの居場所を教えない、か?」
ギルベルトの背中から見透かしたような声がした。
「何だジジイ、てめぇ薄ッ気味わりィ──」
「とうとうてめぇか、お前は全く口が悪いな」
「うるせえよ、ジジイのくせに。口が悪いのは生まれつきだ」
ギルベルトは悪ぶってみせたがゲルマンは気にもかけず、静かにこう答えた。
「……俺もそこまでルートヴィッヒを追いつめるつもりはなかった。まさかこんなことになるとはな」
「追いつめるだと……」
ギルベルトはかすかに胸が疼くのを感じた。
「このくらいの試練は自力で切り抜けるだろうと踏んでいたが、当てが外れたってところだ」
「お爺さま、いったい何を言って……」
ローデリヒが、らしくもない掠れ声を出した。握った手に痛いくらい力が籠もる。フェリシアーノは思わずローデリヒの方を見た。
「俺たちはあいつに、期待し過ぎたのかもしれないな」
「期待しすぎたなんて、そんな──!」
咳き込むように叫ぶローデリヒをゲルマンがたしなめた。
「そうじゃない、落ち着いて話を聞くんだ」
「で、でも……っ」
ローデリヒは被せるように言いかけた言葉を途中で呑み込んで、恐怖と不安に押し潰されそうな自分を辛うじて抑えた。
「すみません、お爺さま……つい」
上り坂の途中でいつの間にか皆の足が止まっていた。
日が落ちて気温は下がってきているのに、急いで歩いて来たせいかじっとりと汗がにじむ。暗い森の中を一陣の風が吹き抜けると、背筋がぞっとして気持ちまで薄ら寒くなる。
ゲルマンの声が闇の中で静かに響いた。
「気にするな、ローデリヒ。お前の気持ちも分からないでもない、だが今は一刻を争う。歩きながら話そう」
四人は再び森の中を歩き始めた。
「長い間一つになれなかった我らの国──ライヒが生まれることは、ずっと悲願だった」
「それは……私にも分かっています」
ローデリヒは複雑な表情になった。
早くから独立の気運の高かったバッシュ、そして『帝国』を作り損ねた私などは、ギルベルトやルートヴィッヒに比べれば、鬼子のようなものだろう。
ルートヴィッヒは生まれた時から光り輝いていた。すばらしい速さで成長して、たちまち歴史を誇る他国にも引けを取らない国として十分に認められるまでになった。
生まれたのが遅かったのだから、国としての洗練の度合いが低いのは仕方がない。そんな荒削りなところも、ローデリヒにとっては大きな魅力の一つだったのは確かだ。
「そんな顔をするな、ローデリヒ」
「お爺さま、私はそんなつもりは」
顔に出したつもりはなかったが、彼のことで頭が一杯だったので、つい出てしまったのかも──ローデリヒは頬が熱くなるのを感じた。
今までそんな風に思った事はないつもりだったが、今は自分でもそう言い切れる自信がなかった。
まさか出来過ぎる彼に、私は嫉妬していたのだろうか?ルートを素直に助けてやれなかったのはもしかしてそのせいでは──
だが今は自分のことにかまけている場合ではないと思いなおし、ローデリヒは迷いを振り払うように続けた。
「私のことなど今はどうでもいいんです、それより彼が今どうしているのか……それに彼を見つけたとしても、お爺さまの口からそんな言葉を聞かされたら、いったいどう思うか──」
ルートヴィッヒはただでさえ追いつめられているのに。
「さっきも言ったがルートヴィッヒを責めているわけではない。むしろ奴が出来過ぎていることに、我らはもっと注意を払うべきだった」
「──悪いのは俺だ」
ゲルマンの言葉を遮るようにギルベルトが言った。
「一番近くにいて何も気づかなかった。この落とし前は、何としても俺がつける」