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長き戦いの果てに…(改訂版)【7】

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俺は何の為にこれまでお前を育ててきた?お前に替わって消えた兄弟たちは何の為に犠牲になった?何が気に喰わないってんだ、何が悪かったっていうんだ、俺が何をしたっていうんだ、誰でもいい、誰か、教えてくれよ──!

その時。
「……お前は本当にそれでいいのか?」
音もなく白く降り注ぐ月光の下、ゲルマンが再び静かに語り始めた。
ルートヴィッヒは声もなくただ見つめた。ヨハンの身体を借りて、そこにいる自分の祖父を。見開いた青い瞳は、その言葉の意味を捉えかねて揺れていた。
「決めるのはお前だ、好きにすれば良い」
全てが死に絶えたように音のない世界で最後の時を告げる鐘のように、ゲルマンの声だけが陰々と響いた。
「……」
ルートヴィッヒは何か言いたげに口を開いたが、何も言葉が出ないでいた。
「俺の役目は終わりだ」
ゲルマンは唐突にそう告げた。
「ここまで連れてきてやったんだ、ヨハン。後は……好きにするがいい」
黒い瞳から鋭い光が消えた瞬間、フェリシアーノの肩に回した手が急に力を失い、ヨハンはぐったりと膝を折って倒れ込んだ。
フェリシアーノは慌てて弱り切った身体を抱きかかえた。
「大丈夫なの?しっかりして……ヨハン!」
フェリシアーノの腕の中でヨハンは薄く目を開いた。口を開くだけでも辛そうで、掠れた吐息のような声が喉から漏れた。
「えっ、何?ヨハン……聞こえないよ、お願い、もう一回言って」
フェリシアーノは彼の口元に耳を近づけて、何とかその言葉を聞き取ろうとした。
「…ない、と………たい…ちょう……」
ほとんど聞き取れないが、それでも精一杯なのだろう。途切れ途切れの言葉が辛うじてフェリシアーノの耳に届いた。
「ルートに話したいことがあるんだね?分かった、連れていくよ」
フェリシアーノはヨハンを抱き上げて立ち上がった。ゲルマンの去った身体は、フェリシアーノの肩を借りても、もはや立ち上がることすらできなかった。
自分と同じくらいの体格の彼を抱き上げるのは、非力なフェリシアーノにとって楽な事ではなかったが、迷いはなかった。
全員が固唾を飲んで見守る中、フェリシアーノはよろめきながら崖際へ向かっていった。
ギルベルトもローデリヒも、動くことはおろか、声を発することすらできなかった。
ルートヴィッヒも。
辺りを沈黙が押し包む中、フェリシアーノは一歩一歩ゆっくりと、ルートヴィッヒに近づいた。
よたよたとローデリヒの脇を抜けて前に出ると、ルートヴィッヒが叫んだ。
「ま……待て、フェリシアーノ、来るんじゃない!」
「嫌だっ!」
彼の制止に抗うなど普段なら考えられない。だがフェリシアーノは鳶色の瞳に溢れそうな涙を溜めて、真っ直ぐにルートヴィッヒを見返した。
「だって、ヨハンはお前に話したいことがあるって、謝らなきゃいけないって、ずっと言ってたんだ。こんなになって……死ぬかもしれないのに、謝らなきゃって、俺のせいなんだって──」
フェリシアーノは、しゃくりあげながら話し続ける。
「お、俺はっ……お前にも、ヨハンにも……何にもしてやれなくって……だ、だからっ……」
ヨハンの首筋に、涙のしずくが滴り落ちた。
顔はくしゃくしゃでおぼつかない足取りだったが、フェリシアーノは必死でルートヴィッヒのそばに向かって行った。
「……分かった、フェリシアーノ、分かったからそこで待つんだ」
ルートヴィッヒは降参とばかりに両手を広げてみせた。
「今そっちへ行く、危ないからそれ以上近づくんじゃない」
相手が安全な場所まで来たのを確かめると、フェリシアーノは「ほらっ!」とヨハンの身体を押しつけるように渡した。
「ヨハン分かる?……ルートだよ、ようやく会えたよ。俺は、何にも聞かないから…ふたりだけで話して」
ヨハンをしっかりと受け止めたのを確かめると、フェリシアーノは後ずさりした。声が震えて、また涙が零れ落ちる。
「お、お前……何、勝手なこと言って──」
ルートヴィッヒは青ざめた顔で抗議しかけたが、腕の中でヨハンが身じろぎすると、慌ててフェリシアーノを引き留めた。
「待てフェリシアーノ、行くな!」
「えっ、何?」
「ヨハンが、お前に行くなと──」
フェリシアーノには聞き取れなかったが、どうやらヨハンがルートヴィッヒに何か告げたらしい。
「どうして……」
「俺にも分からん!」
怒ったように小さくそう言うと、ルートヴィッヒはその場にヨハンを降ろし、少しでも楽なように座らせてやった。
「……本人が、そう言ってるんだ」
フェリシアーノも屈み込むと、ヨハンの手を取った。
「どうしたのヨハン、何が言いたいの?ルートと話したかったんじゃないの?俺もいていいの?」
「おい待て、フェリシアーノ、そんな質問攻めにするんじゃない」
フェリシアーノが矢継ぎ早にヨハンに問いかけるのを慌てて止めると、ルートヴィッヒは片手で抱きかかえたヨハンに優しく声を掛けた。戦場で傷を負った兵士にそうするように。
「大丈夫だ、安心しろ、俺はここにいるぞ。もう無理に話さなくてもいい」
それでもヨハンは必死に声を出そうとするのを止めなかった。
「分かった、慌てることはない、どうしても話したいならゆっくり話せ」
ルートヴィッヒは掠れた声を聞きとろうと口元にそっと耳を近づけた。
「た…い、ちょう……すみま…せん」
青ざめた頬に涙が流れるのを見て、ルートヴィッヒの顔色が変わった。
「なぜ、お前が俺に謝るんだ」
「フェリ……にも…迷惑…かけた……」
フェリシアーノが鋭いながらも抑えた声で言った。
「ヨハン、おまえは迷惑なんかかけてない、ゲルマンさんがどうしても連れてけっていうから仕方なく連れて来たんだ。本当はこんな状態のお前を、連れて来たくなんかなかったのに──」
フェリシアーノは声を詰まらせた。
「違うんだ…フェリ……元はといえば、全部…俺の、せい……」
「それは……どういうことだ」
「どうして──!」
二人の声が重なった。


ギルベルトとローデリヒのいる場所までは距離があるので、さすがに何も聞こえなかったが、何か起ころうとしているのは二人にも分かった。
全てを拒絶していたルートヴィッヒが、それを忘れたように彼らと向き合っている。これなら連れ戻せるかもしれない──かすかに希望が湧いた。
だが何を話しているのか全く分からない。自分たちにもできることはないのか?
ギルベルトの焦慮を察したのか、ローデリヒが宥めるようにつぶやいた。
「待つしか……ありませんね。彼らを信じて待ちましょう」


 ルートヴィッヒはヨハンに、自分の気持ちを説いて聞かせようとしていた。
「いいかヨハン、これはお前のせいなんかじゃない。全部俺ひとりの問題だ、お前が謝るようなことは何もない」
それを聞いて、ヨハンの目からまた涙が零れ落ちる。
「違う、俺が……あんな事を言わなければ…隊長が……こんな──」
ルートヴィッヒはまたはっとして、ヨハンを見つめた。
「あんな事をって、あの日もお前はそう言っていたな。その後、急に様子がおかしくなったが、それは一体何の事を言ってるんだ」
「それは……」
何かを思い出すように、ヨハンは遠い目になった。
「覚えてますか、隊長……あの…作戦の……前の晩に話したこと」
「あの晩の……話?」