二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

長き戦いの果てに…(改訂版)【7】

INDEX|9ページ/9ページ|

前のページ
 

作戦前日は最後の打ち合わせが終わった後、緊張をほぐすために、火を囲んでしばらく部下たちと話をしたのを覚えている。故郷の家族の話だとか、帰ったら釣りに行くんだとか、サッカーがやりたいとか、みんなわざとたわいもない話ばかりしていた。
ヨハンとは何の話をしたんだったか──
「俺は……こう…言ったんです」
ヨハンの顔が歪んだ。
ひとつひとつの言葉を発する事自体に苦痛を覚えるように、きつく食いしばった歯の間から、ヨハンは言葉を区切りながら押し出した。時には聞き取るのが難しいほど掠れた声で。
「隊長は国だから、死ななくてうらやましい……って」
「お、前は……何を、言って──」
あの日の出来事が、ルートヴィッヒの中で鮮やかに蘇る。彼の動揺に気づいているのかいないのか、ヨハンはぽつりぽつりと言葉を繋いだ。

あの事件の後、ルートヴィッヒ隊長が苦しんでいるのを間近で見るのは本当に辛かった。
最初の内は、傷が治って身体も回復したのにどうしてだろうと思っていた。
でも、じきに思い出してしまった。そもそも自分があんな事を言ったのがすべての原因だ、だからあんな事態になったのだと。
心の底でそのことをずっと後悔していた。自分の命は隊長に助けてもらったものだから、いつか恩を返さなくてはならない。
ところが、自分のやったことは、あろうことか恩を仇で返す行為だ。正直に話して謝らなくてはならないと思っていたが、怖くて言い出せなかった。
辛かったけど、ずっと隊長の側にいられたし、何より、もう一度あの事を話して嫌われるのが怖かった……

聞き取りにくい掠れた声を、ルートヴィッヒは最後まで辛抱強く聞き取った。
途切れ途切れの言葉をつなぎ合わせてようやく、ここまでしたヨハンの気持ちを理解することができた。
「ごめ…なさい、たい…ちょう、全部…俺の、せい……」
ずっと胸の奥にしまい込んでいた秘密を告白して安心したのか、ヨハンは静かに目を閉じた。かすかに溜め息をもらし、あふれた涙が血の気のない頬に流れ落ちた。きつく寄せられていた眉が緩み、苦悶に歪んでいた顔が穏やかな表情に変わっていく。
「違う……お前のせいじゃない、これは全て俺自身の問題なんだ──」
ルートヴィッヒは言葉を失った。
確かにあの時まで、自分にこんな日が来るとは思ってもみなかった。
重傷を負い、生死の境目をさまよって初めて、たとえ『国』であろうと不死身ではないことを思い知ったのだ。
『国』は滅びるわけではないが、この肉体が死んだら自分=ルートヴィッヒという一人の人間はどうなるのか、身体は復活しても、心は消えて無くなってしまうのではないか。
そう思うと無性に怖くなった。同時に共に戦ってきた部下たち一人ひとりの命と、初めて本気で向き合うことになった。
これまで自分は無数の部下たちを戦場で死なせた。アルノーとテオは自分を助ける為に死んだ。ハンスは己の無能のために死なせた。なのにハンスは自分を恨むどころか、感謝していると、皆のために生きろとまで言ってくれた。
……あれはきっと自分に都合のいい夢を見たに違いないと思い、忘れようと努力した。
しかしどうしても忘れることができなかった。
なぜならハンスはあの時、確かにそこにいて、俺は彼と話したのだ。霊の存在を信じているわけではない。あれを理論的に説明することはたぶんできないだろう。だがあの会合には、実際にこの手で触れたかのような実感があった。夢として否定するのはハンスの存在自体を否定する事であり、ハンスの気持ちを裏切る事にしか思えなかった。
そしてあの時、命がけで俺を助けたヨハンが、今また死の淵に立とうとしている──
それも俺のためにだ!

それまで黙って見ていたフェリシアーノが、とうとう耐えかねて叫んだ。
「どうしたのヨハン、しっかりして!」
何も答えず、身じろぎ一つしないのを見て、必死で肩をつかんで揺さぶった。
「ダメだよ、そんなの!ルートと一緒に帰らなきゃ!何の為にここまで来たんだよ!こんなところで死ぬなんて、絶対に許さないから!」
「待て、フェリシアーノ、落ち着け!」
物思いに沈んでいたルートヴィッヒの目に光が戻った。
「だって──」
「落ち着けと言ってる!お前は戦場で仲間が倒れたとき、動揺して騒げば助かると教えられたか?」
まだ何か言いたげなフェリシアーノを目で黙らせると、ルートヴィッヒは素早くヨハンの脈を取った。まぶたを開いて瞳孔を確かめ、口元に手をやり呼吸を確認する。
「大丈夫、気を失っただけだ。すぐに病院に連れていこう、俺が運ぶ」
そう言ってヨハンを担ぎ上げるとルートヴィッヒは立ち上がった。
「兄さん!」
近くにいたギルベルトに声をかけると、突然の展開に戸惑いながらも、落ち着いた対応がかえって来た。
「お……おう!」
「俺はこいつを連れて先に行くから、ローデリヒとフェリシアーノを頼む」
「分かった、こっちは任せとけ!」
返事を聞くか聞かないうちにルートヴィッヒは駆けだし、あっという間に暗い夜道に消えた。驚き呆れて見送るギルベルトをそのままに、ローデリヒは動揺して泣きじゃくるフェリシアーノに近づいた。
「大丈夫ですか、フェリシアーノ?」
しゃがみこんだ彼に手を差し伸べて、優しく声をかけると、フェリシアーノはその手を取ってようやく立ち上がった。
「俺は、大丈夫だけど…ヨハンが──!」
「大丈夫ですよ、心配は要りません。彼に任せておきなさい。ルートはもう、戻って来たのですから」
しゃくり上げながらフェリシアーノが答えた。
「う……うん、そうだよね、ルートは戻って来たんだよね」