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長き戦いの果てに…(改訂版)【8】

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18.帰還




すさまじい勢いで山を駆け降りると、ルートヴィッヒは迷わず最寄りの救急病院へヨハンを担ぎ込んだ。
長年の間に身に付いた習慣とは恐ろしいもので、こんな状態で彷徨っている時すらそれを忘れなかった。どこへ行った時でも、新しい土地でまず最初にやることは土地勘を得るために、地形やら地元の施設などを確認し頭に叩き込むことだ。
この地に到着して「兄たち」を探し求める間にも無意識にやっていたことが、こんなところで役に立つとは、皮肉としか言いようがなかった。
「病人だ!すぐに見てやってくれ、頼む!」
受付にいた看護師は汚らしい風体でいきなり飛び込んできたルートヴィッヒをうろん気な目で見たが、患者の容態が急を要するものと判断したらしい。
「患者さんをこちらへ」
用意されたストレッチャーへヨハンを横たえ、受け入れ準備を整える看護師に状況を説明すると、すぐに当番医と思われる人物が現れ、そのまま処置室へ運び込まれた。
「付き添いの方は待合室でお待ちください」
そのひとことであっさり引き離され、不安を覚えたのもつかの間、今度は自分が質問責めにあうことになった。
「ご家族ですか?」
「そうではない、ヨハンは俺の部下だ」
「部下とおっしゃると、あなたは?」
わずかに逡巡した後、ルートヴィッヒは適当な軍籍と偽名を名乗った。
こんなところで本当の身分を明かして騒ぎを起こすわけにはいかない。だが話し方や身降りから軍人であることはすぐにばれてしまうだろうから、民間人のふりをしても仕方がないと判断したのだ。
ベルリンを出てから一週間というもの、着た切り雀で風呂にもろくに入っていない。こんな格好では疑われても仕方がないとは思ったが、根ほり葉ほりしつこく聞かれるのにはさすがに閉口した。
きちんとした病院で処置を受けているのだから、まさか命に関わることはないはずと思ったが、しばらく問答が続くうちに次第にヨハンのことが気になり始めた。
「それで、部下の様子はどうなんだ?」
「あなたは本当に彼の上官ですか?なぜあんな病人を、こんなところまで連れてきたんです?一体何があったんですか」
これでもう何度目か、また同じ質問が繰り返される。
「だからそれはさっきも説明しただろう、ヨハンは体を壊してしばらく療養中だったが、どうしても外に出たいというのでちょっと連れ出したら、急に具合が悪くなったので慌てて連れて来たんだ」
先ほどから何度この話を繰り返したか。
もちろんとっさに考えた作り話だし、重病人を入院していた病院からなぜこんな遠く離れた地まで連れ出したのか、どう考えても苦しい言い訳であることは否めない。そして極め付けはまるで浮浪者のような自分の姿。
そもそもこれでは何を言っても信用されるはずがない。さりとて本物の身分証明書を出すわけにもいかない。だがこのまま警察でも呼ばれる羽目になれば、本当に騒ぎが大きくなってしまう。それだけは何としても避けたかった。
「これには色々訳があるんだ」
「もちろんそうでしょうとも」
ルートヴィッヒは頭を抱えた。ヨハンのことも心配でたまらない。
「なあ頼むからこれだけは教えてくれないか、部下の容態はどうなんだ?命に別状はないのか?」
何度目かの質問をまた繰り返す。
その時、先ほど処置室に付き添っていった看護師が戻ってきた。ルートヴィッヒにちらりと目をくれると、目の前の職員に何事かを耳打ちしてすばやく立ち去る。
「患者さんは無事です。とりあえず命に別状はありません」
職員がそう告げると、ルートヴィッヒはうめくように叫んだ。
「……ああっ、神よ!良かったヨハン、無事か──!」
普段、神など信じてもいなかったが、今日ばかりはその存在に感謝したくなった。
先ほどからずっと怪しんでいた相手も、その様子に少し警戒を解いたのかいくらか表情が和らいだ。
「部下の方が無事で良かったですね」
「ヨハンに会わせてくれ!無事な姿が見たい」
ルートヴィッヒは意気込んだが、職員の言葉は無慈悲に続いた。
「それなんですが隊長さん、ここは病院です。衛生第一なんです。こう申し上げてはなんですが──」
残念ながら相手はまだ警戒を完全に解いた訳ではないらしい。
不審者をへたに刺激してはまずいと思ったのだろう、注意深くごく控えめな表現をとってはいたが、平たく言えば、あまりに汚いのできれいにして出直して来いということだ。
「……分かった、着替えて戻ってくるから部下を頼む。近くのホテルに滞在しているから、何かあればそこへ連絡を」
さりげなく最寄りのホテル名を告げる。名称を知っているだけで、もちろん滞在してはいない。とりあえずこの場を納めるには適当だろうとの判断だった。
「分かりました。何かあればすぐにご連絡しますから、安心してください」
「……ああ、頼む」
ルートヴィッヒは仕方なく病院を後にしたが、行く当てがあるわけではない。
兄たちに会うことしか考えていなかったし、会えばそれで「終わり」なのだと思っていたから先のことなど考えもせず、着の身着のままで飛び出して来た。
実際、この一週間どうしていたのか自分でもよく分からない。ヒッチハイクをしながらここまで来たような気がする。
夜は人目に付かない場所で野宿した。過酷な状況での野営には慣れていたので、何というほどもなかった。食べるものはそこらから自力で調達したり、たまたま道端で知り合った親切な人の助けに預かったりして、しのいでいた。
そんな状態だったのでポケットには小銭しかなく、代わりの服を買うことはもちろん、ホテルに泊まることもできなかった。さて、これからどうしたものか……

「やっぱりここだったか!」
「ルート!」
病院の近くでぼんやり考え込んでいると兄の声がした。
同時に聞こえたのはローデリヒとフェリシアーノの声。
「なぜ、ここが分かった?」
驚いてそう尋ねると、またギルベルトの怒声が飛んだ。
「なんて間抜け面してやがる、この馬鹿が!」
そうだ、ローデリヒたちも来ていたのだった──ようやく今になって自分の置かれている状況を思い出す。ヨハンのことで頭がいっぱいで、そんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。
「心配したんだよ、ルート!慌てて飛び出して行ったからどうしたかと思って」
ヨハンに万が一のことがあった場合を考えて、近くの病院をチェックしていたというギルベルトの判断で、あの後すぐここへ向かったのだと、フェリシアーノが教えてくれた。
「すまないフェリシアーノ、お前にまで心配をかけてしまったな」
ローデリヒはやや興奮気味にまくしたてた。
「やっと、追いつきましたよ!人ひとり抱えているっていうのに、なんて足が早いんですか、あなたは」
ここへ来るまで相当無理をしたらしく、青い顔をして、ぜいぜいと息を切らしている。
「いや、それより……お前こそ大丈夫なのか、ローデリヒ」
「もちろん大丈夫じゃありませんよ、このお馬鹿さんが!何でそんなに心配させるんですか!」
疲れと緊張から思わず声を荒げたものの、ルートヴィッヒの無事な姿を見て気が緩んだらしく、今度は泣き笑いのような表情になった。
「でも、あなたが……無事で本当によかった」
「何もかも迷惑を掛けてしまって、本当に済まない」