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長き戦いの果てに…(改訂版)【8】

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ヨハンのことが気になってうわの空で答えていると、フェリシアーノがそれを察したらしい。
「ヨハンは、この病院にいるの?」
「あ、ああ……とりあえず命に別状はないらしいんだが──」
「追い出されたんだろう!」
ギルベルトがきつい目でにらみつける。
「な、何でわかったんだ?」
「そんな格好で警察を呼ばれなかったのが不思議だ。とにかく俺たちが取ってるホテルがある。こいつらと先にそこへ行ってろ」
ギルベルトはそう言って、二人の方へ顎をしゃくった。
「フェリシアーノお前が案内しろ、いいな」
「……う、うん」
有無を言わさぬ口調に、少しおびえたようにフェリシアーノがうなずく。
いつもおしゃべりなギルベルトが奇妙なほど口数が少ないのは、今にも爆発しそうな怒りを押さえている時だと相場が決まっていたから。
「し、しかし……」
「反論は認めん、すぐ行け!俺はヨハンの様子を確かめてくる」
ルートヴィッヒの言葉を鋭く遮ると、ギルベルトはそのまま踵を返して病院へ向かった。
「ま、待ってくれ兄さん──」
追いすがるルートヴィッヒをローデリヒが引きとめた。
「ギルの言う通りですよ、ルート。行きましょう」
「……あ、ああ」
「着替えも用意してありますから」
まだ未練がましく兄の姿を追う彼の手を引いて、ローデリヒは歩き出した。
「さあ早く連れて行って下さい、フェリシアーノ」
「……」
それってそんなに堂々と言うセリフじゃないよね──あっけにとられたフェリシアーノは心の中でツッコミを入れてから、タクシーを拾おうと表通りに向かった。

* * *

ホテルにつくと、いったん別れてそれぞれの部屋に落ち着いた。ルートヴィッヒはローデリヒの部屋へ入り、すぐにシャワーを浴びた。
「着替えはここへ出しておきますから」
ルートヴィッヒの為に用意しておいた衣類一揃いをスーツケースから丁寧に取り出した。
「……何もかも本当に済まない、ローデリヒ」
シャワーカーテンの向こうから、くぐもった声がした。
「水臭いことを言わないでください、ルート」
だって私たちは恋人同士でしょう?──そう言おとしたが、ローデリヒはふとためらい、口ごもった。
行方不明になっていた彼にようやく会えた。彼はあの危機を乗り越えて、ちゃんと戻ってきたのだ。これ以上何の問題がある?何をためらうことがあるのか……
シャワーを浴びている彼に、今すぐすがりついて泣きたいような気持ちだったが、ローデリヒはその一歩が踏み出せないでいた。
──彼をあの崖っぷちから連れ戻したのは誰?ギリギリまで追い詰められていた彼を、こちらの世界へ引き戻したのは?
私は彼の助けにはならなかった……その事を思うと背筋が冷たくなるような不安と、胸が焼けつくような痛みが同時に襲ってきた。
先刻山の中で起こったことをまた思い出す。ここに来るまでの間も心の中で、繰り返しあの光景を再生し続けていた。彼にはギルの声も、自分の叫びも届かなかった。彼の制止を振り切って近づいたのは、ヨハンを抱えたフェリシアーノ。
ヨハンにはゲルマンが乗り移っていたとはいえ、直前には姿を消していたから、実際に死の瀬戸際まで追い込まれていた彼を連れ戻したのはあの二人だ。
……私ではない。
自分には勇気がなかった。自分の言葉は彼には届かなかった。何より彼がそこまで追い詰められていることに気づいてすらいなかった。誰よりも早く気がつくべきだったのに。
そんな自分がどうして今更、恋人だなどと大きな顔をして言えるだろうか──

「──どうしたんだ、ローデリヒ?」
突然声を掛けられ驚いて振り向くと、バスローブを羽織ったルートヴィッヒが子どものように水を滴らせたまま、不安そうに立ち尽くしていた。
「あ……あ、早かったですね、ルート。もうシャワーを浴びたのですか?ちょっと考え事をしていただけです。あなたこそ、そのままじゃ風邪をひきますよ、早く乾かさないと」
ローデリヒは早口でそう答えるとタオルを取り、背の高い彼の頭に乗せて、ごしごしと、やや乱暴に拭いてやった。
……シャワーの後はいつもこう。普段きっちりと後ろに撫でつけている前髪が、濡れて額に垂れ下がった顔は、なぜか子どものように頼りなげに見える……
ぼんやり考え事をしながら手を動かしていると突然彼に抱きすくめられた。力強い腕で、胸にしっかりと引き寄せられて息もできない。
「く、苦しいですよっ!何をするんですかルート、まだ途中ですよ。これじゃ動けない……」
今度はキスの嵐が降って来た。
最初こそ遠慮がちだったものの、じきに飢えたように激しく求めて来た。ローデリヒも始めこそ少し引いたものの、必死で求めてくる彼に押し負けて、すぐに夢中になった。
離れていた時間と切れかけていた絆を取り戻そうと、ふたりは夢中で舌を絡め、貪るように何度も唇を重ねた。
そうやってお互いの肌の温もりを感じ、繋がりを確かめ合う。熱い吐息と、高鳴る鼓動と、触れ合う肌の感触が、生きた身体で再び会うことができたのだと実感させてくれた。
甘くて切ない……そして少し苦いキス。
ようやく唇を離すと、乱れた金髪が貼り付いた額の下から、潤んだ青い瞳がじっとこちらを見つめていた。先ほどまでの情熱とは裏腹に、淡く煙るまつげに縁どられた瞳は幼子のように震えている。
「ローデリヒ……すまない」
ルートヴィッヒはひび割れた唇から言葉を押し出すようにして話し始めた。
「ルート、そんな……お願いです、私になんか謝らないでください。私はあなたの力になれなかった。何の助けにも……」
「違う!頼むからそんなことは言わないでくれ!」
掠れた声。見開いた青い瞳がまた不安に揺れる。ローデリヒを抱きしめる腕に、痛いほどに力が入った。
「……悪いのは、俺だ」
吐息のように囁く。
「お前も、兄さんも、そして俺の為に消えた他の兄さんたちもみんな、俺の為にあんなにまで……」
嗚咽が漏れて声が途切れた。
「俺が……不甲斐ないために」
ぎりっと歯噛みする音。
ローデリヒは今度こそ迷わなかった。自分より大きな身体を、優しく、だが力いっぱい抱きしめた。
「ルート、もういいんです、あなたが生きて帰ってさえくれれば──」
ローデリヒの頬にも、髪にも、肩にも大粒の涙がいくつも滴り落ちた。激しい慟哭を押さえ切れず、ルートヴィッヒはまるで幼な子のように泣きじゃくった。
ローデリヒは黙ってそれを受け止め、安心させるように、そっと背中を撫でながら語りかけた。
「辛かったでしょう、苦しかったのでしょう……分かります、みんなそうやって生きているのですから。泣いたっていいんですよ、ルート。国だって、人だって、辛い時はあるんです」
私も、ギルも、他の兄弟たちもみんなそう。ゲルマンの子だけじゃない、他の国たちだって、黙っているけど本当はみんな──独り言のようにローデリヒは話し続けた。そうやって涙を流す度に人は強くなれるものです──そして最後にこう言った。
「これだけは決して忘れないでくださいルート、あなたのそばにはいつだって私がいます。誰が何と言おうと、この世の終わりまで。私はあなたを愛していますから」