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長き戦いの果てに…(改訂版)【9】

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20.ヨハン




「……行かなくては」
ルートヴィッヒがつぶやいた。
「ヨハンのことか。そんなに心配か?」
ギルベルトが不思議そうに問う。
「ちゃんとした病院に入れてきたんだろう?」
「もちろんだ。万が一のことを考え、事前に下調べしておいたものだ、間違いはない。しかし……」
ルートヴィッヒは秀麗な顔を曇らせた。
「放っておく訳にはいかない、大切な部下だ。そして何より俺の命の恩人でもある。彼には恩義があるんだ」
「恩義なんて、堅いなお前は」
ギルベルトは笑った。
「行ってやれよ、そこまで言うなら止めやしない」
「ありがとう、兄さん」
急いでドアを開けると危うく誰かにぶつかりそうになった。
「ロディ──」
そう呼びかけたが、揺れる瞳を見て思わず後に続く言葉を飲み込んだ。
いつも優雅で立ち居振る舞いに一部の隙もないローデリヒが、こんな顔をするのは見たことがなかったから。
「お、話し…は、もう終わったのですか?」
普段通りに振る舞おうとしているのだろうが、痛々しいほど動揺が隠し切れていない。
「け、決して、立ち聞きなどしようとしたわけではありませんよ、私はただ──」
今度は早口でまくし立てた。
「……すまなかった、心配をかけたな」
「そんな、心配なんて、私は──」
言葉が途切れ、見つめ合うと、紫の瞳が焦点を失い潤んで揺れた。
「なあお前ら、出るか入るかどっちかにしてくんねーか?開けっ放しじゃ部屋が冷えちまう」
唐突に投げかけられた声に、ローデリヒがかっと頬を染めた。
「に、兄さんすまない、すぐに退散する」
ローデリヒの肩を抱きながら、慌てて廊下へ出る弟を、兄の言葉が追いかけた。
「さっきはああ言ったが、今夜はもう行かない方がいいだろう。こんな時間に慌てて行っても、かえって怪しまれるだけだ。夜が明けたら俺がついて行ってやる」
こういう時に備えて偽造の身分証明書もちゃんと二人分用意してあるしな、ギルベルトはそう言ってニヤリと笑った。
ルートヴィッヒは反論しようとしたが、兄が先回りして口を封じた。
「やっと会えたんだ、ちょっとは落ち着いたらどうだ?……ただし、あまり騒々しいのはお断りだがな」
「に、兄さん!」
今度はルートヴィッヒの頬が火を噴いた。
「じゃなヴェスト、良い夜を」
それ以上しゃべる隙を与えずに、ギルベルトはすました顔でドアを閉めた。


 * * *


ヨハンが病室で目を覚ましたのは翌日の昼過ぎだった。
「気がついたか?」
ルートヴィッヒが枕元から声を掛ける。
「えっ?隊長、どうしてここに……?」
昨夜のことを簡単に説明してやると、ヨハンの顔色が変わった。
「あれは……やっぱり夢じゃなかったんだ。俺は全部話したんですね?」
「ああ、聞いた」
それを聞くと、ヨハンは何か覚悟したような表情になった。
「もう……分かったでしょう、俺は恩を仇で返した恩知らずだ。隊長に合わせる顔などないし、もう部下でいる資格もありません。どんな処分でも──」
「それは違う」
ルートヴィッヒは静かに、きっぱりと答えた。
「違うって何がです?俺はあなたを裏切ったんだ!」
「聞くんだヨハン、お前は裏切ったりしてないし、恩を仇で返してもいない」
興奮してまた叫びだそうとするのを、ルートヴィッヒは目顔で黙らせた。
「俺の目を見るんだヨハン、これが裏切られた男の顔に見えるか?お前に失望したように見えるか?」
「そ、それは──」
ヨハンは目を背けた。
「もう、許してください……俺を…そんな目で見ないで……見下げ果てた奴だとはっきり言ってください!」
ルートヴィッヒが手を伸ばして自分の方へ向けさせると、ヨハンは顔を強ばらせた。
だがヨハンの予想に反してルートヴィッヒの言葉は穏やかなものだった。
「ヨハン……そして、俺の為に死んだアルノーにテオ、お前たち3人があの戦場から救ってくれなければ、俺はもうこの場にはいなかっただろう」
正確には『今の俺』がと言うべきだろうな、と付け加える。
ルートヴィッヒが何を言おうとしているのか、ヨハンには分からなかった。だがこれから語られることがなんであろうと逃げることは許されない、自分には全ての言葉をを受け止める義務がある。
そう思い、黙って上官の目を見つめ、次の言葉を待ち受けた。
「……確かに、俺は国だから本当の意味では死なない。お前のいうこともあながち間違っているとも言えん──だがな」
ルートヴィッヒは探るようにヨハンの目をのぞき込んだ。
「そんな風に何もかもひとりで背負い込もうとするな。あれはお前の責任なんかじゃない、そもそもは俺の見識不足から来たことだ」
ルートヴィッヒは小さくため息を吐いた。
「俺には、人を見る目がなかった。まさかあいつが……」
 作戦が失敗した原因は作戦自体が漏れていた為、つまり部隊の中に情報を流した者がいたと言うことだ。それは分かっていた。だがそれが誰だったのかがずっと分からなかった。まさか裏切者は仲間内に──
「分かったんですか、裏切者の名が!そいつは誰なんです、教えてください、隊長!」
ヨハンの剣幕に、ルートヴィッヒは遅まきながら自分が口を滑らせたことに気が付いた。ここで言うべきではなかったと思ったが、今更隠し立てしてもヨハンは納得しないだろう。
「裏切者は……エンリコだった」
エンリコは戦友だった。死んだハンス達と共にチームを組んで、何年も共に戦ってきた。共に死地をくぐり抜けたことも一度や二度じゃない。仲間思いのいいヤツで、真面目で嘘のつけないヤツ。そんな彼を疑う者など誰一人としていなかった、自分も含めて。
「嘘だっ!いくら隊長の言葉でも信じられません、そんな……なんであいつが……」
ヨハンは上官の前であることも忘れ、反射的に叫んだ。
受け入れられなかった。エンリコも死んだのだ、あの作戦に参加して、ハンスたちと共にあの場所で。なのにどうしてそんなことが、そんな馬鹿な!
隊長の目を何度も見た。これは嘘だ、悪い冗談だと言って欲しかった。だが自分でも、もう分かっていた。隊長は嘘など言わない。真実は、受け入れるしかない。
衝撃の次には激しい怒りが沸き上がった。なぜなんだ、なぜヤツは俺たちを裏切った?あの時のことはもう二度と思い出したくないと思ったが、どんなに忘れたくても忘れられなかった。
それが本当なら死ぬまで、いや死んでもあいつを許すことはできないだろう。あいつは仲間の仮面を被った悪魔だった。
「あいつを……エンリコを責めるな」
「いくら隊長の言葉でも、それだけは承伏できません!」
ルートヴィッヒの表情が歪んだ。
「お前の気持ちは分かる。誰がなんと言おうと、作戦の失敗はヤツが情報を漏らしたことが原因だ。そのために多くの仲間が死んだ。理由はどうあれ許されることじゃない。だが聞くんだヨハン、それには訳があった」
「訳……?」
今し方、耳にした言葉が信じられず、目の前にいるのが誰かも忘れ、ヨハンはかっとなって叫んだ。
「何が訳だ!裏切り者に言い訳なんか──」
興奮で声がかすれて途切れた。あいつは仲間を裏切った。生死を共にした戦友も、祖国も売り渡し、殺した。ハンスも、アルノーも、テオも!他の仲間もみなヤツに殺された!
「落ち着け、ヨハン!」