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長き戦いの果てに…(改訂版)【9】

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どす黒い炎が燃え上がり、身も心も周囲を取り巻く世界も何もかもが、どろりとした闇に包まれる。あいつを今すぐこの手で締め殺してやりたい!そうしなければ死んだ仲間たちだって浮かばれないだろう。
だがヤツはあの戦場で死んだ。もはや仇を討つこともできない。何もできないなら、この身などいっそ焼き尽くされて消えて無くなればいい──
「大丈夫か、しっかりしろ!」
ルートヴィッヒの声も届かず、ヨハンの意識は闇に飲み込まれた。

 * * *

気がつくと、枕元にはいつの間にかギルベルトが立っていた。
「た…大佐、何で…ここに?」
素朴な疑問を口にすると、ギルベルトはにやりと笑った。
「もちろんあのバカの代わりにだ」
「バカって……」
「お前を興奮させて、部屋を追い出された馬鹿のことさ」
先ほどの記憶がじわりとよみがえる。
ヨハンが青ざめるのを見て、ギルベルトがまた笑った。
「おいおいヨハン、そんな顔するんじゃねぇ、悪いのはあいつだ」
見舞いに来て病人を興奮させてどうすんだよ、全く。そう付け加えた。
「ちょっとばかり説教垂れてやったら、しょぼくれてたがな。後でまた連れてきてやるよ」
だがな、少しだけ俺の話につき合え。
そう言うと笑っていた赤い瞳が真剣な色に変わった。
「もう分かってるだろう、エンリコのことだ」
「それは──」
「本当はお前がもっと落ち着いてから話すつもりだった。なのにあのバカが口を滑らせちまった」
ヨハンは不吉な予感に顔を引きつらせた。
「あいつはおまえの前でエンリコをかばったんだろう、バカなヤツだ」
ギルベルトはわずかに目を細めた。
「許せと言われて、はいそうですかと許せるもんじゃねえ、当然だ。理由はどうあれ、やったことは裏切り行為以外の何ものでもないからな」
「じゃあ、なぜ──」
「そこだ」
ギルベルトは鋭く遮った。
「俺はエンリコを許せとは言わない……だが、弟のことは許してやって欲しい」
ヨハンの表情が歪んだ。
「自分が……隊長を許すなんて……そんな……」
さっきはつい興奮して立場もわきまえずに叫んでしまったが後悔していること、元々自分にそんな権利はないと分かっていると、ヨハンはつっかえつっかえ、そう答えた。
「お前は優しいな、ヨハン。それによくわきまえてる。道理であいつが手放したがらないわけだ。まあ今回のことは、お前にはとんだ災難だったがな」
ギルベルトは薄く笑った。
「災難だなんて!隊長は俺の恩人です、何度も何度も助けてもらったんだ、隊長のためなら俺はなんだって──」
ギルベルトは叫びたてる口をそっと唇でふさいだ。
「……なっ、何を」
ヨハンは目を白黒して、頬を赤らめた。
「よくしゃべる口だと思ってな、少し落ち着け」
「あ……は、はい」
お説教されるのかと思ってしばらく黙っていたが、ギルベルトはこちらを見るばかりで何も言わない。
ついに我慢ができなくなり、ヨハンは身じろぎすると自分から口を開いた。
「あの……俺の顔に、何かついてますか?」
ギルベルトは一瞬ぽかんとした後、爆笑した。
腹を抱え、涙を流さんばかりの笑いっぷりに、ヨハンはむっとした。いくら上官でもひどすぎる、そう思って真顔で聞いた。
「何が……そんなにおかしいんですか」
「お、お前…そりゃあ……!」
まだ笑いが収まらないらしく、ギルベルトは何度か引き笑いしながら答えた。
「お前があんまりかわいいからさ」
「お、俺は、男ですよ……」
小声で抗議したものの、ヨハンの瞳がまるで年頃の少女のように潤んで揺れているのをギルベルトは見逃さなかった。
「だからお前はかわいいんっていうんだよ!」
そう言ってギルベルトはまたキスしてやった。
ようやく唇が離れると、ヨハンはどうしていいか分からず赤い顔をして目をそらし黙り込んだ。
しばらくの間、にやにやしながら純情男子の表情を楽しんでいたギルベルトだったが、再び表情を引き締めた。
「こっからは真剣な話だ。いいか、辛い話になるがよく聞け」
そう前置きする。
「エンリコが裏切ったのは、金で寝返ったわけじゃない。ヤツは追いつめられていたんだ。脅されていた」
「脅されたって、命を狙われていたってことですか?」
「家族だ。妹を人質に取られていた」
ヨハンの中に衝撃が走った。
「嘘だ、そんな話!第一、あいつに家族なんて──」
そうだ、聞いてない。そんな話は一度も。
エンリコは俺と同じ天涯孤独な身の上のはず。そんなはずはない。俺たちはみんな何でも話し合ったんだ。そんな話は誰からも聞いたことがない。何で今頃になって突然そんな話になる?
ヨハンの頭の中を無数の疑問符が駆け巡ったが、ギルベルトの話は何事もなかったかのように淡々と続く。
「信じられない気持ちは分かる。あいつには家族はいないことになっていたし、本人もずっとそう信じてたろう。まさか今になって『腹違いの妹が敵国にいる。それを人質に取った』なんて突飛すぎるよな」
「そんなの本当かどうか──」
「ああ、分からないよな、会ったこともねえのに。だが、ヤツはそれを信じた。どうやってそこまで信じさせたのかはもう永久に分からねぇがな」
部屋に落ちていた焼け残りのメモの切れ端から、情報を流したのがエンリコと特定された。ギルベルトが事件直後から極秘で調査をさせていたが、情報を流した相手が中々つかめなかった。
「ヤツもあの戦場で死んだしな。あるいは口封じで一緒に始末されたのか」
「そんな……馬鹿な……」
「気持ちは分かるが、事実は事実だ。敵は巧妙にエンリコを取り込み、誰にも尻尾をつかませなかった。ヤツも誰にも気付かれずに情報を流し続けた。エンリコは堅いヤツだったから、誰ひとり疑うやつはいなかった。ルートヴィッヒも含めてな」
ギルベルトは言葉を切り、じっとヨハンを見つめた。
「上官として部下の裏切りを見抜けなかったのは手落ちだ。もちろん個人的には、あいつ一人だけを責めることはできないとは思うがな……」
ヨハンは言葉もなくギルベルトを見た。
「本来は俺から話すようなことじゃなかったな」
俺も甘いな、そう呟くとギルベルトはヨハンに背を向けた。
「後は直接あいつに聞け」
いつの間に来たのか、ルートヴィッヒが部屋の入り口に立っていた。
「お前の出番だぞ、ヴェスト」
励ますようにギルベルトが弟の肩を叩くと、歩み去る兄の後ろ姿を見送って、ルートヴィッヒが病室に入った。
「具合はどうだ、ヨハン?」
「隊長!」
ヨハンはルートヴィッヒに気づくと一瞬目を輝かせたが、すぐに叱られた犬のように目を伏せた。
「さっきはすみません、俺は……生意気な口をききました」
「謝るのは俺の方だ、ヨハン」
「違います!悪いのは俺です、立場もわきまえずにあんな──」
「いいんだ、その事はもう気にするな、お前の気持ちは分かる。配慮が足らなかった。俺は……」
ルートヴィッヒは言い淀んだ。
「お前のことも、エンリコのことも、何ひとつ分かってやれなかった。部下の問題にも気付いてやれないとは、指揮官として失格だ」
慌てて反論しようとするヨハンを押し留め、ルートヴィッヒは話を続けた。
「兄さんからもう聞いたと思うが」
そう前置きすると、先ほどの話の続きが始まった。