桜の木の下で
『・・・・・・ひどいな、皆・・・』
声まで揃えられての一言に、もう一人の遊戯としては苦笑を返すしかない。・・・不本意だが、自分でも想像の範囲内のビジョンだったので。
だがこうも太鼓判を押されると、片方にカウントされている身としては、心情的にはかなり複雑だ。
「あーやめやめ、妙なもん想像しちまったぜ」
「でも結構乗ってくれるかもしれないよ」
『桜か・・・似合わない事もなくはないかもしれない気がしないでもないが・・・黙ってれば』
「回りくどいよ、もう一人のボク・・・」
しかもそれ全然フォローになってないから。
本人がいないのを良い事に、それぞれ好き勝手喋りながら元来た道を辿る。
『花より団子、のタイプでもないからな』
「花より団子よりデュエル、でしょ」
『やはりそこに戻ってくるのか・・・』
「でもキミだって挑まれたら受けちゃうでしょ」
『オレはTPOって奴を弁えたいんだけどな。・・・説得には応じないだろうし、デッキ置いてこいと言って納得する相手じゃない。そうなる可能性は高いな』
「そーだよねー・・・」
その場合、社長さんではなく、自分のデッキを置いてくればいいという選択肢を思いつかない辺り、遊戯ももう一人の遊戯もさほどレベルは変わらないかもしれない。
だが口には出さなかったので誰もツッコンではくれなかった。
「――――その場合、モクバに先に声掛けりゃいーんじゃねぇの?」
「搦め手だね。そっちからなら素直に・・・いってくれるかな?」
本田の最も建設的な意見に御伽も笑いながら頷いた。
「いーじゃない。ダメモトでも聞いてみたいな、お花見行こう、って」
遊戯はとてもご機嫌だった。たぶん、もう一人の遊戯もそうなんだろう。
相手があの海馬でも頓着しない2人の遊戯の事だ。もしかしたら本当に引きずり出してきてしまうかもしれない、とその場の全員が思った。
・・・想像出来ない分、見てみたい気はする。海馬と花見。怖いもの見たさの心境で。
「ま、取りあえずそれは今度な」
「今度、ね」
「そーそー、次来りゃいいさ。花は毎年咲くんだし」
そっと、隣にいるもう一人の自分と目を合わせる。
自分はどんな表情をしていたんだろう。彼は、ふ、と優しく目元を緩ませた。
『また来よう、相棒。――――皆と一緒に』
全員参加がお望みなら、賭けでも何でもして社長さんをのせてやるさ。――――そう、不敵に笑って。
「・・・うん」
きっと、ね。
「おーい、遊戯ィ早く来いよー!」
城之内たちが呼んでいる。
帰りのバスが近いらしい。
「今行くよ、待ってー!」
桜の木の下で、他愛もない約束をまた一つ。