桜の木の下で
「おーい、遊戯も降りてこいよ。そろそろ帰っぞー。・・・花もじゅーぶん堪能したし、カラオケでも行こーぜ!」
「もう。情緒ってもんが足りてないわよ、城之内」
「ま、いーじゃねーか。どうせ元々花より団子タイプだしな、こいつ」
「聞こえてっぞ!人の事言えるのかよ、本田よぉ」
またはじまってしまったいつもの光景に、もう一人の遊戯は小さく笑った。
まったく、ひたってるヒマもないな。
『…だね。行こっか、もう一人のボク』
「そうだな」
答えるなりもう一人の遊戯はトンと枝を蹴った。
あっと思う間もなく、しゃらりと鎖の揺れる音と、軽い足音を立てて地面に降り立つ。
「――――ありがとう、皆。楽しかった」
いつもの不敵なものとは違う、幾分穏やかな笑みを浮かべてもう一人の遊戯が笑う。
皆がもう一人の遊戯からのいきなりの礼に目を丸くする中、城之内だけはすぐにニヤリ、と彼らしい笑みを浮かべてみせる。
「・・・まだまだ、これからだぜ。カラオケ行ったらまた出てこいよな」
「わかってる。じゃ、あとで」
すい、と目を閉じる。パズルが微かな光を弾いたと思った時には、
「…それじゃ、行こうよ」
いつもの遊戯がふわりと笑った。
杏子が持ってきてくれたお弁当箱も使い捨てのものだった為、元々あまり散らかしていたわけではないので、皆で適当にゴミを集めて早々にお片づけも終了。
「・・・来年も、来れたらいいね」
『――――そうだな、こうやってまた皆も一緒に』
他の誰にも聞こえないように、ほんの小さな囁きに、彼は一番欲しかった答えで返してくれた。
「何か言ったかぁ?」
少し前を歩く城之内が振り返る。遊戯はにっこりと笑い返して何でもないよー、独り言!、と
「今度は海馬くんも誘ってみたらどーかなぁって、もう一人のボクと話してただけー」
ある種、バクダンを落とした。
花見と海馬。
ある種衝撃的なものを想像させる一言に、とうの遊戯以外の面々の動きが一斉に固まった。(もう一人の遊戯含む)
「・・・ありえねぇ・・・」
何を考えたのか、かなり引きつった顔で城之内が絞り出すように呟く。その声に呪縛を解かれたかのように次々と皆も頷いた。
「よく思いついたわね、遊戯・・・」
「そもそも、そんな暇はない、とか言われそうだけど。忙しいからね、社長さんは」
「あーでも、もう一人の遊戯くんが言ったら、来てくれるかもよ?」
「だったらだったで即効花見デュエル開催だろ。その場合花見というか・・・」
「「「「「(闘いの)風で花が散りそう」」」」」