ロストマン
学校の屋上。
たぶん、もう一人のボクが一番好きだった場所。
・・・これ、夏に入る手前の頃だったかな。
皆で、遊びに行こうって。旅行の計画を立てようって屋上でお昼ご飯を食べてた時かな。
――――そうだ。この時は、珍しくボクら以外に誰もいなくて、折角だからもう一人のボクと途中で交替したんだ。
杏子。
城之内くん。
本田くん。
獏良くん。
御伽くん。
いつもみたいにゲームの話とか、バイト先の話とか、ネットの話とか、好きな事を話しながら、皆と。
途中から城之内くんと本田くんがいつもみたいにじゃれ合って、皆も、ボクも、止めないで笑ってた。
いつの間に撮ってたんだろう。
誰も気付いてないみたいで、誰もカメラの方を向いていなかった。ボクも気付かなかった。
だけど確かに、ここに残った一つの写真。
・・・皆笑ってる。
今すぐ動き出して、その時の声まで聞こえてきそうなくらいにキラキラしてる。
キラキラしてる。
彼は、どんな気持ちで、これを。
「・・・ッ」
呼吸をしようとして、息が詰まった。
目の奥がじわりと熱くて、胸のどこかが痛いような気がする。
でもきっと痛いのは身体じゃない。…いや、痛いわけじゃないかもしれない。
どうしよう。何かが、溢れそうだ。
歪んだ景色が大きく揺らいだ。
――――それでも
これはあまり「自分」のことを話してくれなかった彼がくれた、声のない声。言葉にならない言葉。
こんな風に残してくれた、忘れ物。
・・・きっとボクにもナイショだった、彼の宝物。
全部、
何一つ零さずに、持って行くよ。
どうか、もう少し待って。
キミがくれたものすべてを集めてちゃんと歩くから。
キミが選んだように、前へ進めるから。
だからその時は、一緒に行こう。
ボク達の距離がどれだけ遠くても、カケラだけは離さずに。
キミがいなくなったこの世界で、ボクたちは今を生きていく。