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長き戦いの果てに…(改訂版)【1】※年齢制限なしver

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 手術は無事に終わったが、いまだに昏睡状態が続いていた。軍医は手を尽くしたと告げた。後は彼自身の力を信じるしかないと。
 ヨハンはそれを聞いた瞬間、瀕死の重病人が横たわる病室であることも忘れて取り乱し泣き叫んだ。
「隊長ごめんよ!──俺もう二度とあんなこと言わないから、戻ってきてください!」
 軍医が静かにするよう厳しく叱責したが聞き入れる気配がないため、仲間はヨハンを絞めあげて部屋から引きずり出すしかなかった。
彼の動揺は明らかに普通ではなかったが、周囲の者たちは無理もないと考えた。
 天涯孤独だったヨハンにとって、ルートヴィッヒは単に隊長というだけではない、兄とも父とも慕う存在だった。
まだ少年と言ってもいい年齢だったヨハンは頼れる身内ひとりなく、他に生きる術がなかったため軍に入る道を選んだ。国の為に戦うなどという意識も別になく、食べものと寝るところさえあれば何でも良かった。軍隊なら手っ取り早くそれを手に入れられたからだ。そして入隊してすぐにたまたま配属されたのがルートヴィッヒの率いる部隊だった。
ヨハンは特別なところなどない地味でありふれた少年兵の一人に過ぎなかった。休暇が取れても街へ繰り出すでもなく宿舎にじっとしているあたりは変わり者に見えたかもしれない。だがそんなヨハンにルートヴィッヒは当初から何くれとなく目をかけていた。本人はそれをずっと不思議に思っていたが、家族も帰る家もないことを知って気に掛けてくれたと知ったのはずいぶん後のことだった。
一般に、国の化身であり、戦いの鬼とも呼ばれ勇名を馳せるルートヴィッヒの下で戦えるのは大変名誉な事とされたが、当初ヨハンにはあまりピンと来なかった。単にその厳しさを恐いと思ったり、「これが国家様とかいう存在か」と漠然と思ったりするだけだったが、彼の人となりを知ってからヨハンは変わった。
 若さに似合わず「ケンカなんて下らない、ガキのすることだ」といつも口にしていたが、ことルートヴィッヒの名誉に係わることだと話は変わった。
「隊長は男なのに周囲に女の影ひとつ見当たらないのはおかしい」ぐらいは気にも留めなかったが、「ヨハンは隊長の愛人だ」という噂が流れたときは一瞬も迷わなかった。すぐに噂の出所を突き止めて、しかも徹底的に黙らせた。入隊したばかりの頃には小柄なヨハンをなめて掛かる相手も少なくなかったが、その一件で喧嘩慣れしていることが広まったのか、よからぬ噂を立てる者はいなくなった。

騒ぎを起こして一度は病室から引きずり出されたヨハンだったが、落ち着きを取り戻したところでようやく病室へ戻ることを許された。
すると今度は飼い主を慕って離れない犬のように片時もそばを離れようとしなくなった。眠りもせず、食べもせずにずっと側に付いていようとするので、また無理やりに引き離さなくてはならなかった。まるでそうしなければ彼が二度と戻ってこないと思い詰めているように。


 ルートヴィッヒが意識を取り戻したのは三日目の事だった。
「隊長、気が付いたんですか!」
 最初は何が起こったのか全く分からなかった。体が重くて全く動かない。
「ここは……どこだ?…俺、は……」
 たったそれだけの言葉を紡ぎ出すことすら大変な努力を必要とした。
 目もかすんでよく見えないが、誰かが泣いているのに気がついた。頬に熱い涙が一粒落ちてきたのだ。
「誰だ?……何を…泣いてる……」
「隊長!よかった、もうだめかと思いましたよ、ほんとに」
 しゃくり上げるので最後の方はよく聞きとれなかったが、また涙が落ちてきた。
「その、声は……ヨハン…か……」
「もうちょっとで死ぬとこだったんですよ、分かりますか俺のこと?」
 ──死?…俺が?…死ぬところだった?
 混乱した脳内に意識を失う直前の記憶が爆発した。頭が割れるように痛む。そうだあの時──
「ハンス、ハンスは──どうした……!」
 掠れた声を出すと必死で起き上がろうともがくので、ヨハンはひどく慌てた。
 だがいくらもがいたところで、今のルートヴィッヒにはベッドの上に起き上がるだけの力さえなく、弱々しく叫ぶことしかできなかった。
「ハンス!ハーンス……」
 必死で叫んだつもりだったが、実際は弱々しく掠れたささやき声が漏れただけだった。
「隊長、落着いてください!……ハンスは…もう…」
 また頬の上に涙が滴り落ちてきた。ヨハンが自分の手を握り締めている。ルートヴィッヒは死神の冷たい指が頬に触れるのを感じた。これまで一度も死を意識したことなどなかった。国が滅びない限り自分に死はありえない。自分には関係ないと思っていたのに──
 部下を死なせたことへの自責。自分だけが生きて戻った後ろめたさ。あの日の記憶が恐怖と後悔をともなって殺到する。どこにも逃げ場がない。このまま二度と目覚めなければ良かったのに。