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涼の初夢

「涼さん、キレイですね、その振袖姿！」愛ちゃんがいつも以上にはしゃぐ。
「うん。緑系の着物が似合う女の人って、貴重？」絵理ちゃんも、今日は気分がいいみたい。
「ありがとう。愛ちゃんもすごく華やかだし、絵理ちゃんも今どきどこを探してもいないくらいの着物美人だよ。」

僕らは、８７６プロの企画で三人揃って初詣に来ている。
愛ちゃんの着物はお母さんのお下がりらしいけど、お下がりとは思えないくらい派手なピンク系の着物で、でも太陽のような愛ちゃんにはぴったりはまっている。
絵理ちゃんの着物は尾崎さんの見立てらしい。ちょっと地味だけど、絵理ちゃんのスリムなボディラインに清流が流れるような彩りの着物は、絵理ちゃんの清楚な魅力を抜群に引き立てていた。
僕のは、さすがに親には頼めないから、まなみさんを引っ張り回してあっちやこっちのレンタル着物店を回る羽目になったけど。
試着のとき、いちいち「歌舞伎役者さんですか？」みたいに聞かれるのはちょっと恥ずかしかったなぁ…。
知名度がそれほどないから、出来たことなんだけどね。って、納得してちゃダメなんだけどなぁ。

ともかく、石川社長のアイデアで行われた、ファンクラブイベントとしての８７６プロ所属アイドル３人とそのファンが一緒に初詣をする企画は大成功のようだ。
ファンのみんなも、絶対に写真集やDVDでは見られない僕たち三人が揃った着物姿に、顔がニヤケっぱなしだなぁ。
特に女の子のファンですら、絵理ちゃんの着物姿には息を呑んでいたくらいで。ファンの心をガッチリ掴んだ素晴らしいファンサービスだ。
僕のファンはいまだにほとんどが男の子なのはフクザツな気分だけど、まぁ、凄く喜んでくれているからいいとしなきゃ。

それにしても、何よりありがたいのは、着物姿だと露出度も少ないこと。
普段のお仕事だと、衣裳がスカートでも社長は「あなたの魅力はキビキビしたダンスなのだから、もっと激しく動きなさい！」と言って、下着や余計なものまで見えることなんて少しも心配してくれない。
僕自身も、歌が始まるとついそういうことを忘れちゃってダンスに没頭しちゃうから、何度も録り直しになったりしたこともあったなぁ。
とにかく、今日はおしとやかに、しずしずと歩けばいいんだから楽だ。和装だと胸パッドも要らないしね。