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【FGO】カルデアのお正月

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「ここは……? 今日は……、いつだ?」
 召喚に応えたエミヤは、開口一番そう聞いた。
「エミヤさん、初めまして。ここは人理継続保障機関フィニス・カルデアです。そして、カルデアが採用する標準時で本日は一月一日です」
「お正月、だね」
 マシュの的確な説明に、藤丸立香が付け加えた。
「正月……。君は……日本人なのか?」
 立香の言葉にエミヤは一瞬驚いて、そしてひどく懐かしそうな顔をした。

「ここは、人理焼却から人類を救う機関だと言わなかったか? マスター」
 自己紹介の後、施設を案内がてら食堂へ向かった。一歩中へ入った途端、エミヤが動きを止めてそう聞いてくる。その問い質すような調子に怒りが含まれていて、思わずマシュと一緒に背筋が伸びた。
 食堂では、非番の所員とサーヴァントたちがあちこちの席で酔いつぶれている。
「え……っと。大晦日で……、カウントダウンで……」
 立香はエミヤの勢いに圧されて、おかしな片言で言い訳をした。
 昨晩は日付が変わる前から大晦日のカウントダウンパーティなるものが催されていた。と言っても大したものはなくて、スナックと缶詰の肴に、大量の酒。開催直後から乱れると言うレベルでは語れない惨状が展開された。主に所員たちの騒ぎようは酷かった。積もりに積もった日頃の鬱憤が大爆発したらしい。飲めや歌えや、早速回らなくなった呂律で気炎をぶち上げる者、泣きながら酒をひたすら呷る者……。酒が好物だと公言して憚らないサーヴァント達も、引くレベルだ。
 その結果が、今目にしている状態だ。
 酒瓶やらコップ、スナックの袋、缶詰が机や床に散乱している。酒と色んな匂いが食堂に充満していた。
 酒の飲めない立香は、あっという間に酔っぱらった所員やサーヴァントたちに次々と酒を勧められて、断るのも一苦労だった。未だ正気を保った人たちに逃して貰って、マシュや早々に飽きたらしいサーヴァントや所員たちと共に自室に引き上げたから、ここまで酷いことになっているとは思わなかった。
「ふぅむ。人理の修復は斯様にストレスが溜まる、と言うことか」
「結構ブラックだからねぇ……」
 立香はすまなそうに言う。
「エミヤにも結構無茶を言うことになると思うよ。特異点は何時観測されるかわからないし、みんなの強化もしなきゃならないから、それこそ周回にはイヤってほど行くことになると思うし」
 エミヤはじっと立香を値踏みするようにねめつける。
「それでも人理を修復すると?」
「この世界が絶対良いとも、間違ってないとも言えないけど。それでもこれまでの積み重ねがあって、この世界で生きてきた人がいるから」
 立香の言葉にエミヤが一つ溜め息を吐いて、食堂の中に踏み込む。
「君たちも手伝ってくれ」
 ゴミ袋を探し出して、立香たちにも寄越す。
「さすがにもうお開きだろう? 片づけて、酔いの覚めるようなものでも作ろう」
 冷ややかで一線を置いていた第一印象から、少し砕けた雰囲気が覗く。絆レベル、まだ上げてないはずだけど。そんなことを思いながら、立香とマシュで手分けして缶やら瓶やらを回収していく。その物音に、何人か眠そうに瞼を持ち上げた。
 ひとしきり片づけたところで、エミヤがおもむろに大きな鍋をコンロにかけ始める。しばらくすると、出汁のいい匂いがしてきた。
「ああ、いい匂い」
 思わず懐かしくなってそう呟いた。ここへ来る前は平凡な学生だった。昔母が作ってくれたみそ汁もこんな香りがしていた。
「和食で使う出汁の匂い、でしたか」
 マシュがくんくん、と匂いを嗅いでそう言った。
「エミヤは何を作ってるの?」
「豆腐粥だ。あれだけ酔いつぶれてるんだ、あっさりした味の方がみんな食べやすいだろう」
「豆腐粥?」
 マシュも立香も聞いたことがなくて、首を傾げる。
「まぁ、豆腐粥なんてたいそうな名前をつけているが、要は豆腐の入ったお粥だよ」
 そう答えたエミヤは軽装になった上に、どこで見つけてきたのか、胸当て付きのエプロンまでして、もう長くここの食堂を使い慣れているかのように堂に入っている。
「君たちは普通に腹が減ってるだろう? 後で別のものを作るから待っててくれ」
 エミヤは心なしか楽しそうにそう言った。
「うん、楽しみにしてる」
「はい、豆腐粥も美味しそうですが、とても楽しみです」
 マシュと顔を見合わせて、にっこりと笑いあっていると、ゾンビのような唸り声をあげて所員が一人フラフラとカウンターへ歩いてきた。
「おはよう。随分飲んだみたいだね?」
「ああ……。いつ寝たんだか覚えてない……」
 立香の問いに、男性職員はぐったりした口調で答えた。
「とりあえず水を飲みたまえ」
 エミヤがグラスに水を注いで出す。よく気が付くなぁ。
「エミヤって、料理とか人の面倒を見るのとかって慣れてるね?」
 何気なくそう言った言葉に、エミヤがほんの僅かピリッとした空気を醸し出す。ありゃ、触れちゃいけないところだったかな?
「まぁ、基本何でも屋みたいなものだったからな。大抵のことなら出来るようになっただけのことだ」
「……そっか」
 ちょっとだけ下がった心の壁のようなものが、ピシャン、と閉まった気がする。うん、先は長そうだ。



 サーヴァントも所員も、心を失った者かゾンビめいて起き上がってきては、洋の東西を問わずエミヤの豆腐粥を一口啜り込んでは、安堵の溜め息を洩らす。酒の席での醜態はそこそこ見慣れたと思っていたが、酒を飲みすぎるとこんなことになるのか、と改めて思う。お酒って怖い。そして粥を食べては溜め息を吐くのを繰り返していく内に、皆生気を取り戻していくのが不思議だ。
「さぁ、君たちにはこっちだ」
 立ち上がれない者たちへ粥や水、お茶などを配膳していると、エミヤがそう言って立香たちへお椀を差し出してきた。
「あ、これって、お雑煮?」
 出汁で作った醤油ベースの澄まし汁に、餅、鶏肉、三つ葉、そして柚子が浮かんでいた。関東風のシンプルなお雑煮である。
「味噌ベースとか、具沢山とかリクエストがあれば、次回言ってくれ。材料次第で応えよう」
 エミヤが笑う。料理ホントに好きなんだなぁ……。そして、さっきよりは機嫌が直ったらしく、立香はほっと小さくため息を吐いた。
「いただきます」
 食堂の一角に腰を下ろすと、マシュと二人で早速食べ始める。昆布と鰹出汁に塩と醤油の絶妙な塩梅。柚子の風味で上品に仕上げられた澄まし汁が体に沁みるようだ。良い加減に色のついた餅の香ばしさと相まって、ほっとしてしまう。
「とても美味しいです」
「うん、とても美味しい」
 そうか、正月か。以前過ごした正月が遠い昔のように感じる。カルデアに来て、まだそれほど時間が経っていないはずなのに。
「先ほどエミヤ先輩が、味噌ベースとか具沢山と仰ってましたが、お雑煮にはバリエーションがあるのですか?」
「ああ。日本の各地でいろんなお雑煮があるよ。日本列島の真ん中から、東から北にかけてが醤油ベースに四角い餅、西から南が味噌味で丸い餅だったかな? しかも家庭それぞれでも違うから、どれが絶対ってのがないのが面白いよね」
 立香の説明に、マシュが感心したように目を丸くする。
「どれも食べてみたいです」
「だね!」
作品名:【FGO】カルデアのお正月 作家名:せんり