D.C.IIIwith4.W.D.
……俺もああいう魔法をサラッとやるような魔法使いになりたいな。ユーリさんや、愛乃亜みたいに。
「兄さーん」
「有里咲ー」
俺達を呼ぶ声。
先ほど向こう岸にいた二乃と有里栖がいつの間にかこちらへ来ていた。
「お前ら、揃ってどうしたんだ?」
「今日は二乃ちゃんとデートだよー」
「デートって、ただ一緒に遊んでただけじゃないですかー」
ああ、なるほど。それで二人でここにいたわけか。
「それより、今のがおじいちゃんのお知り合いの方ですか?」
「ああ。これから俺達揃って魔法の勉強をさせてもらう人だ」
「おー、言うなれば、師匠ってやつだ。頑張ってね!」
「そうだね。……師匠って呼ぶのは断られちゃったけど」
「……って、有里栖、なんで俺達が魔法の修業を付けてもらう話を知ってるんだ?」
「昨日有里咲に教えてもらったの。もしかしたら暫く会えなくなるかもって」
「ああ、そういう」
流し目で有里咲を見る。
そこには困った笑顔を浮かべる我が恋人がいた。
「あはは。本当に会えなくなるかもって思ったしね……」
「ま、結果的に長いスパンとはいえ、あんまりここを離れることなく面倒を見てもらえることになったわけだし、よかったじゃん」
「そうだね。これから頑張らないと!」
「二人共、もう帰りますよね?そら姉に連絡しないと」
「ああ、そうだな。半分帰らないつもりだったし、ちゃんと帰ってきたって言わないと」
「そうだ、有里栖も一緒にどう?」
「あ、いいの?」
「勿論!むしろそら姉が張り切っちゃいますよ!」
「逢見先輩のお料理おいしいから、楽しみだなぁ。あ、可純さんに連絡しとかないと」
こうして俺達は一路、常坂家へと向かった。
今日の出来事を、そら姉含めた3人から聞かれたのは別の話。
これから、俺達が魔法使いとしてレベルアップする為の修業が待っている。けど、これも二人で"最強の魔法使いコンビになろう"って約束を叶える為だ。
そう考えると苦でもないのかもしれない。
これは、ジジイに感謝だな。
今どこにいるかわかんないけど、絶対に追い付いてやるからな!
◆ ◆ ◆
久し振りのミズの国への渡航から帰ってきた。
俺は戻ってきてすぐ、枯れない桜の根元にいた。
……いや、今は"元"枯れない桜か。
毎年の如く美しい花をつけるこの桜は、今年も例外なく美しく咲き誇っていた。
「……」
深く、深く深呼吸。
この桜は、俺の友人が遺したもの。言わば忘れ形見と言っても差し支えない。
それに、この桜の原型には風見鶏にあったあの桜を使っているともいう。
俺の恋人を看取った、あの桜。
粋な計らいか、それともあの出来事を忘れさせない為か。
今となってはそれを確認する術はない。
「Noblesse oblige……。こんな形で、また果たすことになるとはな」
1時間ほど前に別れた二人の教え子の事を思い出す。
元の孫と、由岐子の孫。
巡り巡って、俺のところへ来た。
それに、一登の(従)妹の若い魔法使い。
……気になることが一つ。
「願いの魔法か」
20年近く前、この枯れない桜が引き起こした一連の事件。
その期間、丁度風見鶏に呼ばれてとある任務をこなしていたから、事後にさくらから事の顛末を聞いた。
……思えば、なんて大事な時に俺は島を離れていたのだろう。
いや、今はいいか。そんなことより。
「元、お前は一登だけじゃなくて、二乃の事も言っていたんじゃないか、あれは」
二乃を視た時に感じた、あの魔力の気配。
アレは並大抵なものじゃないはずだ。
……そもそも彼女はそれを知っているのだろうか。
次に会った時にでも聞いてみよう。
「はぁ……」
恐らく一登に宛てたのであろう、写真の裏のメモ書き。
カガミの国を超えて、俺を頼る。
それはそこはかとなく大変なことのはずだ。
ただ、今それを考えても真相は闇の中。
神のみぞ知る。
いや、元のみぞ知る、と言ったところか。
「まったく、面倒なことを」
これもまた数奇な運命か。
Noblesse oblige。高貴なる者の務め。
だが俺自身は咎人だ。
これは揺るがぬ事実。
けれど、俺の行いが少しでも魔法使いの未来につながるのなら。俺は望んでその役目を、その責務を受け入れよう。
「来月からあいつらに術式魔法を教えるわけだし、しっかり準備しておかないとな」
俺は少し心が躍っていた。
そうか、俺は頼られるのが嬉しいのか。
そうか。
そうか……。
もしかして、俺の天職って、これなのか……?
目を閉じ、深呼吸。
考えるまでもなく、俺の心は決まっていた。
うん、来月からが楽しみだ。
「なーに一人で黄昏てるのかしら、この男は」
不意に若い女の声が聞こえた。
俺はその方向へ顔を向けた。
そこにはゴスロリファッションに身を包み、モノクルをかけた少女がいた。
「もう夜は遅いから、出歩くのは危ないぞ、お嬢さん」
「あんたもこのあたしちゃん様を子供扱いするのね。まったくあの男と同じだわ……」
「子供扱いって、子供だろ」
「……話が通じないのかしら」
……イラッ。
「こんな場所に一人で何の用だ?」
「何の用だ、なんて。あんたの目の前に現れたんだもの、一つしかないでしょう」
「は?」
「あたしちゃん様は、<失った魔術師>に会いに来たのよ、お分かり?」
俺を知っている……?
……ペロキャンを舐めだした。
なんだこいつ。
「ぺろぺろ。うん、あたしもちょっと冷静になってきたわね。流石ペロキャン。ペロキャンに感謝だわ」
「なんだこいつ」
「そういう言葉は胸にしまっておきなさいよ。失礼じゃない」
「おっと、すまない。それで、俺に用ってなんだ?」
「用があるとは言っていないわ。ただ会いに来ただけ」
さくっとペロキャンをどこかに仕舞い、少女は俺に向き直る。
「なんだそれ」
「なんとなく会ってみたかったのよ。大昔から生き続けている魔法使いってね。あら、魔術師だったかしら?」
……イライラッ。
「話はそれだけか?」
「ええ。会っただけでミッションコンプリートよ、今回は寄り道しに来ただけだもの。また会うかもしれないけど」
「どういう意味だ?様々な系統樹の径を超えられるお前なら、いくらでも俺に会えるだろ」
「……まさか、あんた理解してないの?」
「何のことだ?」
「質問に質問で返すってことは、ホントに何も知らないのね」
深い溜息が聞こえる。
本当になんなんだこいつ……。
「まあ、いいわ。教えてあげる」
不敵な笑みを浮かべながら、彼女は言葉を発した。
「あんたはあんた一人しかいないのよ」
「何を当然なことを言う」
「そうじゃなくって。全ての系統樹の径を辿ってみても、ユーリ・スタヴフィードという存在はあんた一人しか存在しないのよ」
その口から発せられた言葉は、俺の理解を超えていた。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr