BUDDY 1
「はぁ……、しぶといわねー、あいつ」
「セイバーだけで大丈夫か?」
士郎が訊けば、凛は少し不安になったのか、くるりと向きを変えてセイバーに加勢するため、駆けていく。
「は……。あとは、彼女たちに任せておいて大丈夫だろう」
言いながら塀に身体を預け、アーチャーは士郎を手招きした。
「なんだ? どうし、っわ!」
近づいてきた士郎を引き寄せて胸に抱く。
「あわわわわ、アーチャー? ななななに? ど、どうしたんだ?」
「供給だ」
「あ、そ、そっか、供給、そう、だったな」
身を固くしていた士郎はアーチャーの腕の中で力を抜いていく。接触面積を増やすために密着するような格好になっているが、アーチャーに供給以外の目的や衝動などはない。それを知っている士郎も、供給だと言われれば大人しく、されるがままになっている。
「ごめんな、魔力少なくて」
「わかっていたことだ。謝られても返答に困る」
「まあ、そうなんだけど…………。土壇場でさ、魔力不足って、ないだろ普通」
「ああ、あり得んな」
「あーっと、それでさ、今後のことなんだけど、」
「今後がどうした?」
「あの、まだ、俺を鍛えるって話は、そのぅ……」
「なんのためにこんなところで供給していると思っている。家に帰るためだろうが」
「あ……」
「見せてくれるのだろう? 違う先行きを」
「う、えっと、うん……」
「ずいぶんと、自信のない返事だな」
アーチャーが笑い含みで言えば、士郎は辿々しく説明をしてきた。
「きゅ、急に、そういうこと言われたら、誰だって戸惑うはずだ」
「大口を叩いたのは誰だったか……」
「う……、俺です……」
素直に認めた士郎の頭を撫でる。
「あのぅ、子供扱い、やめてもらえませんかね……」
「ガキであることに変わりはないだろう?」
白んでいく空を見上げれば、東の方が赤く染まりはじめている。
「夜が明ける……」
「え?」
士郎が身動いだので腕を緩めてやれば、見上げた空に感嘆の声を漏らしている。
いまだ剣撃の音が止まない柳洞寺の境内で、二人は呑気に空を見上げていた。
「アーチャー。これからも、よろしく」
真っ直ぐにアーチャーを見つめる琥珀色の瞳には、一点の曇りもない。
「ああ、未熟者の先達をかってでると約束したからな」
朝焼けの中、互いに不適な笑みを浮かべ、二人は軽く拳を合わせた。
「とりあえずはマスター、あの盾をどこで習得したのか、聞かせてもらおうか」
「え! あ、う…………」
怒られると思ったのか、士郎は顔を逸らして口籠ってしまった。
「だが、まあ、それはそれとして……」
再び士郎を引き寄せ、背中から抱き込めば、士郎は逃げることなく大人しい。
「家に帰ろう」
「うん。そうだな」
朝を迎えつつある柳洞寺では、王を名乗る者同士の戦いが続いていた。
BUDDY 1 了(2021/7/4)