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BUDDY 1

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 苛烈になってくる攻撃に対応するだけで精一杯のアーチャーに、超速で弾き出された槍が見えた。が、目で追えたというだけで、すでにその時点で防ぐ手立てはない。そのまま、貫かれるのを覚悟して、士郎を突き飛ばそうと腕を緩めた。が、
「アーチャー!」
「なっ!」
 あろうことか、士郎が前に身を乗り出して、左手を突き出している。
「何をしている、士――」
「熾天覆う七つの円環《ロー・アイアス》!」
 瞬時に四つの花弁のような桃色の光が、花開くように目の前に現れる。
(いつの間に……?)
 アーチャーには疑問でしかない。確かに自身が使う魔術ではあるが、それを士郎にレクチャーした覚えはないし、見せたこともないのだ。いまだ夫婦剣の投影しかできない士郎に、突然こんな技を披露されては驚くほかない。
 だが、今は詳しく話を訊いている場合ではない。
 アーチャーが最強の盾と誇る熾天覆う七つの円環《ロー・アイアス》も未熟者の士郎にかかれば、やはりそれなりでしかなかった。技術も魔力も事足りていない状態で展開した盾は、早くも突破されそうになっている。
 槍の切っ先が徐々に近づいてくるのを見据え、アーチャーも手を伸ばす。
 士郎を左腕で抱え直し、突き出されたその左腕に合わせるように右腕を突き出した。
「集中しろ。魔術回路に魔力を流すんだ」
 こく、と頷く士郎は盾を維持することに集中している。そうしてアーチャーは、士郎の盾を補強するように、自身の盾を重ねていく。
 崩れ落ちそうであった花弁は勢いを取り戻し、七片の花弁が開き、七重の盾が槍を押し返していく。
 キンッ!
 甲高い音を立てて槍は跳ね返り、ギルガメッシュの頬を掠めて飛んでいった。
 ふ、と息を吐き、安堵する。そうして、士郎にどういうことなのか、とアーチャーは訊こうとした。
「おのれ、贋作者《フェイカー》……っ」
 苦虫を噛みしめたような顔でこちらを睨めつけるギルガメッシュは、自身の宝具を中空から取り出そうとしている。
(あれは……っ!)
 アーチャーがたじろいだ瞬間、左腕に重みが加わった。見れば、士郎が力尽きたようにぐったりとしている。
「士郎!」
 呼んだ途端に盛大な魔力を感じて顔を上げれば、乖離剣を手にしたギルガメッシュが口角を上げていた。
「っくそ!」
 悪態をついたが、後手に回ったことは明らかだ。あの剣を出される前にギルガメッシュを倒し切らなければならなかった。だが、士郎に気を取られ、出遅れてしまった。
 口惜しさで頭が沸騰しそうになる中、対処法を探る。こちらに向けて放たれるあの剣を受け止めなければ、士郎を生き残らせる術はない。
 再び右腕を突き出し、魔力を溜めていく。
「ロー・アイ…………っ……」
 ぷすん、とガス欠のように、手応えが失われる。花弁になりかけた光も消えていく。
「魔力、が…………」
 次いで剣の荒野もが収束していき、柳洞寺の境内へと景色が変わった。
「あ、ぁー……チャー、わる、い……」
 気を失ったのではなかったのか、士郎は魔力の切れたことを謝ってくる。
「…………お前のせいではない。倒しきれなかった私の実力不足だろう」
 素直に非を認めたアーチャーは士郎を地に下ろし、がくん、と膝を折った士郎の、力の入らない身体を支えながら座らせ、赤い布を取り出して士郎の頭から被せた。
「アーチャー?」
 すでに宝具を放つだけの状態のギルガメッシュは勝ち誇った顔で嗤っている。今のアーチャーにあの剣撃を受け止める力はない。どうにかして士郎をこの場から離脱させる方法を探しているが、ここにある山門や土塀であの剣の威力を防げるとは思えない。
 万事窮すの状態で一歩も動けないアーチャーは、呆けたように見上げてくる士郎の傍に片膝をつく。
「こんなもので守り切れるかどうかは、わからないがな……」
 赤い布の上から士郎の頭を撫で、アーチャーは士郎を背後に庇うようにギルガメッシュに向き直った。
「覚悟はできているようだな?」
 笑い含みで吐かれた声に、口惜しさはもうなかった。
 この一撃を防いだところで、士郎を守り通せるかどうかなどわからない。おそらく、一撃で自身は消し飛び、その後のことは知りようのないことだ。
 アーチャーは、ただ願うばかりだ。幸運を引き寄せ、どうにか逃げ延びてくれと。
(まあ、そんな望みなど、万に一つも叶うわけがないだろうがな……)
 アーチャーの願いは悉く叶うことがなかった。人であったときも守護者であったときも。それでも願ってしまうのは、この衛宮士郎をまだまだ導きたいと思っているからなのだろう。
(未練がましい……)
 小さく自嘲をこぼし、なけなしの魔力で夫婦剣を投影し、ギルガメッシュを見据える。
「フン。浅ましく逃げ回ることもなく、剣を構え真っ向から我が宝具を受けようというその気概だけは認めてやろう。死して拝せよ、エヌマ・エ――」
「エ、ク、ス、」
 眩い光が上手側から前庭を照らし出す。
「なに?」
「カリバーッ!」
 振り向いたギルガメッシュの姿は一瞬で光に包まれ、見えなくなった。
「な……」
 驚いたのも束の間、アーチャーは士郎を抱え上げて山門の方へ飛び込む。いや、飛び込んだというよりも、吹っ飛ばされたというのが正解だろう。浮いた身体は皆目自由にならず、かろうじて士郎を胸に抱えて衝突しようとする塀に背を向けることができただけだ。
「っ、」
 山門脇の重厚な塀に、しこたま背中を打ちつけ、息が詰まる。
「ぅ、ぐ……」
「アーチャー、大丈夫か?」
 赤い布が心配げに蠢いて訊いてくる。
「お……、お前は、問題、ない、か」
 声を詰まらせながら訊けば、
「あ、うん。おかげさまで」
 赤い布からもぞもぞと顔を出した士郎は、乗り上がってしまっているアーチャーの上から退く。
「まったく、セイバーも無茶をする……」
「はは、そうだな。……でも、助かったな」
「ああ」
 安堵の息を吐いて、アーチャーは塀に身体を預けた。
「だ、大丈夫か? ど、どこか、ケガとか、」
「問題ない。疲れただけだ」
「そ、そっか……」
 ほっとした様子の士郎の背後から呼び声が聞こえてくる。
「衛宮くーん、アーチャー、生きてるー?」
 境内の脇道からこちらへ駆けてくる凛は、それなりにボロボロな様子だが、大きなケガはしていない。どちらかといえば、士郎とアーチャーの方が、五体は満足にあるものの疲労困憊状態だ。
「は…………、魔術師の、格の違い、だな……」
「む……」
 揶揄をこぼしたアーチャーに、士郎は子供のようにむくれている。
「くはっ、ガキめ」
 ぴん、とアーチャーが指で額を弾いてやると、士郎はもっと幼い顔で不貞腐れている。
「フ、だが、まあ、よくやった」
 いまだふくれっ面の士郎の頭に手を乗せて、がしがしと荒く撫でていれば、
「あら、あんたたちって、よく見れば、兄弟みたいね」
 凛が小首を傾げてそんなことを言う。常にオールバックに撫でつけられているアーチャーの髪が、今は乱れて下りてしまっているからだろう。
「やめてくれ。縁起でもない」
「なんだよ、縁起悪いって!」
 突っかかる士郎を適当にいなしていれば、半壊、いや、七割は倒壊した本堂の脇から激しい剣撃の音が聞こえてきた。
作品名:BUDDY 1 作家名:さやけ