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aph 『伝説のエリシアン』

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2 フランス



――と、ここまでが、冒頭の出来事への前哨戦である。

単独でもぶっちぎりに優位なはずの、誰が見ても優勝候補であるはずのフランスが、こともあろうかコラボ部門の参加に於いて、日本をそのパートナーに選ぼうと口説き落としに来たのだ。

「フランス! ってめ、なにしに来やがった!!」
「何しにって、そりゃもちろん日本と組むためさ」
「お前はシングルでどうせ優勝決まってるようなもんだろ!コラボ相手くらい誰を選んだって勝てるんだから遠慮しろ!」
「やーだね。お兄さんはね、確実に勝ちたいの。それに日本は独自の感性の持ち主だからね、俺たちとちょっと味覚が違うけど、西洋のセンスと上手く合わせられたら全く新たな芸術が生まれるかもしれないってわけ。わかる?芸術だよ芸術。どうにか不味くない程度のものを作れればとかいう低レベルな目標に日本を付き合わせるなんてお前責任感じないの?」
「うっせぇ!誰が低レベルだ!日本は俺と組むって今同意したばっかりなんだよ!一歩遅かったな」

どうしてだ、またこの感覚。どうも前にもあったような気がする。
イギリスの胸に浮かない雲が重くたちこめる。日本に連携を申し込もうとするときというのはいつも、一歩遅くなったら組むことができなくなる、というそんな状況にあった。だから日本の所に来るときは寄り道をしない。行くと決めたら即座に飛んでくる。急ぐのは日本の家が距離的に遠いからというのもあるが、なぜか他の誰かと競合することになることがほとんどだからだ。
それはロシアとであったり、ドイツとであったり。また最近ではほとんど……

イギリスは眉間にしわを寄せ、少々不機嫌になって首を振った。自らの考えを振り払おうと思ってのことだが、そう簡単に去ってはくれない懸念がこめかみに靄のごとくまとわりつく。
想定していたライバルは、フランスではなくて、アメリカだったのだが――。
 まあいい。今は目の前のフランスに日本を奪われないようにしなくては。

 フランスの口射砲。
「俺と何年付き合ってるんだよ!イギリスの考えはお見通しだよ?オマエなら絶対日本と組もうとすると思ったし。邪魔できれば勝ったも同然だろ?どうよ当たってるだろ?」
「くそっっ初めから俺つぶし狙いかよ!」
「ははははは当たり前だろ!俺はね、お前さえ負かせれば満足なの。他の奴に負けてもお前にだけは勝たれたくないの!」
「ちきしょう腐れワイン野郎が……」

完全に置いてきぼりをくらった日本がおろおろしている。と、家の中で電話が鳴った。
「あ、すみません、お二方、とりあえずこんなところではなんですから、座敷のほうへ上がっていただいて……少しだけ待っていていただけますか」

果たして、電話は中国からだった。
「ニーハオ!日本、素晴らしいニュースある。お前はパン大会でこの我と組めることになったあるよ!光栄に思うといいある。」

この、西のアメリカとも呼べる自信過剰の自称兄は、日本に断られるなどとはもちろん全く想定していないか、あるいはそのような物言いで断れないように威圧しているようだった。

「日本、よろこばしいあるね?マスコミに一面記事で書かせるよろし」
「あの、大変嬉しいお申し出なんですが……」
「良かったある!きっと嬉しがると思ったある」
「いえ、その、今この場ではお受けできない事情が」

彼の場合、日本の才能がどうとか、味覚がどうとか、そんなことはまったく関係なく、ただ自分の作業を手伝わせる助手にしたいのだろう。でなければ、逆に全部日本に作らせてラクをしたいかのどちらかであることは明白だ。が、しかし。


「……すみません、皆さん、く、くじ引きで。」

Noと言えない日本、健在であった。