aph 『伝説のエリシアン』
4 作戦会議
必勝のための作戦会議。
何事にも、策略と準備というものは必要である。むしろそこで勝負の半分が付いてしまっていると言っても過言ではない。
イギリスは明らかに日本に依存の色を見せていた。
「ヨーロッパなんてのは、昔から顔付き合わせて、同盟だ敵対だ言いながらお互いにうんざりするほど知り尽くしちまったんだよ。」
だから、遠くて、新しくて、珍しい、新鮮な風というのが時に吸いたくなる。マンネリに息が詰まりそうな思いでいるときに全く嗅いだことのない香りを嗅げば、それは大きな気分転換になり、身も心もリフレッシュできたような気がするものだ。
それが決して清涼なわけじゃなくとも。
東洋は東洋で隣近所にうんざりしているわけなので、やはりすべては西欧人の気のせいなのだけれども。
とは言え参加国が西欧に多いことを考えれば、日本式で斬り込むのは悪くはない。だが異文化導入というのは諸刃の剣だ。大成功するか大失敗するかのどちらかになりがちである。
「みなさんの味覚に合わないのではないでしょうかねぇ……」
日本はぽそりとつぶやいてみたけれども、イギリスの心には届かなかったようだ。
はぁ、と溜息をついて、イギリスの期待する「ヨーロッパになくて、珍しいパン」の叩き台を探すため、不承不承、二人で街へ繰り出した。会場となるはずのコンベンションセンターの下見、そして、参考になりそうな様々の種類のパンを買い込んでくるのだ。
菓子パンや総菜パンなどと呼ばれる日本の変わりパンを見ながら、イギリスは珍しく畏まって言った。
「あ、あのな日本。」
「はい、なんでしょう?」
「あの時、当たりが引けてホントに良かったと思ってる。」
「? イギリスさん……、」
「俺はもともと運が悪いことでは誰にも負けない自信があったんだけどな。」
ええわかっています、わかっていますとも。イギリスさんが傍から見ていても不憫になるくらい、運の悪さと間の悪さだけは揺るがぬ世界トップの座にある方だということは……!
――と言いたい気持ちを抑えて日本は首をブンブン縦に振った。もちろん心の中だけで。
「どうしてだかお前と関わることになると運がいいんだよな……」
日本は一瞬もの言いたげに唇を動かしたが、すぐに顔向きを戻すと言葉の代わりに少し困ったように笑った。
作品名:aph 『伝説のエリシアン』 作家名:八橋くるみ