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BUDDY 2

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BUDDY 2


 その日は、仏滅と三りんぼうと大殺界なるものが三つ巴でやってきたような、散々な目に遭う日だったみたいだ。いや、まあ、仏滅以外の意味はよく知らないけれども……、とにかく、幸運というようなものが、みんな俺から逃げていって、何もかもがツいてない日。
 まず、青い全身タイツみたいな不審者に一突きされた。
 ああ、死んだ。
 短かったなぁ、二十年も生きていない。
 夢を叶えられなかったよ、じーさん、ごめん。
 走馬灯なんて見えないまま意識が混濁して……、誰かの声が聞こえたなぁって思いながら、静かに死を受け入れていたのに、なぜか目を開けることができた。
 どうにか家に帰り着いたところで、再び青い不審者に襲われる。
 もう、恐怖でしかない。
 世の中にこんなスリル満点な日を送る人が何人いるだろう。
 そんな疑問を頭の片隅に追いやりながら土蔵に逃げ込み、逃げ場を失い、俺がいったい何をしたんだと、いるかいないかわからない神様を怨んで、そうして――――……。
 その夜、俺は、運命に出会った。



***

 月光の中に佇む人ならざるものは、ただただ美しいモノとして衛宮士郎の目に映っていた。
 男である。青い光の中にいるからか、髪が青白く輝いている。おそらく髪は白いのだろう。そして、鮮烈な赤がその男の大部分を覆っていた。
(きれいだ……)
 その配色にしても、立ち姿にしても、何もかもがしっくりと嵌りきっている。
 美人とか美男子とか、そういう表面的な容姿のことではなく、その存在というものが美しいと士郎は感じた。
「あ、ぅ…………」
 まともな言葉など出ない。
 突然、起こったことに頭がついていかない。
 まごついている間に、青い男に続いて土蔵を出て行こうとする男は振り返った。
 さっさと立てと言われ、ここにいろと言われ、土蔵の戸口の側にしゃがみ込めば、納得したのか男は赤い外套をなびかせながら庭へと出ていく。
 声をかけることすらできず、士郎は伸ばしかけた手を所在なく下ろし、身を隠しつつ頭を出して庭を眺めた。
 そこで繰り広げられるのは戦闘だ。動きが速く、士郎では目で追うのがやっとの二人の男の戦いを固唾を飲んで見守る。赤い槍を躱し、両手に持った双剣で戦う赤い外套の男は、どう贔屓目に見ても劣勢のように思えた。
 彼が斃れれば次は自分だ、と士郎は知らず制服の胸元を握りしめる。じわりと濡れた感触がして胸元を見下ろせば、赤黒いシミがべっとりと付いていた。
「あ……」
 これは、あの赤い槍で貫かれた痕だ。
「俺……」
 なんで生きてるんだろう、と疑問を浮かべたところで、何かが砕ける音が耳をつんざく。はっとして顔を上げれば、赤い外套の男の持つ剣が砕け散ったところだった。
「あ!」
 思わず飛び出ようとしたが、足が止まる。
(ここで、出て行っても、俺には……)
 先ほど釘を刺されたのだ。お前を守りながら戦えない、と。
 確かに、あの青い男に士郎が敵うわけもない。抗うことすらできず一撃で胸を貫かれたのだ、目の前で繰り広げられる戦いの最中に飛び出して行っても、なんの役にも立たない。
(俺には、何も……っ)
 悔しさに胸を焦がし、負けるな、と願いながら一心に赤い外套の男を見つめる。と、男の薄い唇が僅かに動いた。
 “トレース・オン”
 音は拾えなかったが、そう動いたように見えた。
「な……ん、で……」
 その言葉を士郎は知っている。魔術使いを目指す己が、魔術を行使するときに使う電源ボタンのような言葉だ。なぜ、それと同じ言葉を使っているのかと疑問を浮かべ、赤い外套の男が両手に再び剣を握っていることに驚いてしまう。
「魔術で、剣を……?」
 暗器のようにどこかに隠し持っていた様子ではないし、赤い外套の男が持っているのは隠せるような大きさの剣ではない。ならば、先の言葉を発し、魔術を使って剣を生み出した、という結論に至る。
「あいつ、いったい……?」
 赤い外套の男の正体に、ただただ興味がそそられる。だが、それも、追い詰められていく男の姿を目の当たりにしては霧散してしまった。
「ちょ、ちょっと待てよ! お前、俺を殺しに来たんだろ! だったら、こいつは関係ない!」
 なりふりかまわず土蔵を飛び出した士郎は、赤い外套の男の前に立ち塞がって青い男を睨みつける。目を丸くした青い男は、とりあえず槍を持つ腕を下ろした。
「あー……、お前さん、なんも知らねえ感じか……」
 呆れ口調の同情を含んだ顔つきで、青い男はため息をついている。
「知らない、ってのは、そ、そうだけど、でも、こいつは、」
「この、たわけっ!」
「でっ!」
 がつん、と頭に衝撃を受け、士郎は頭を押さえながら怒鳴り声を振り向く。
「な、なんだよ、急に殴るな! しかも、グーでとか、」
「やかましい! 出てくるなと言っただろうが!」
 こめかみに青筋を立てた赤い外套の男に、さらにえらい剣幕で怒鳴られ、しかもその声はよく通り、よく響き、ビリビリと皮膚を震わせてくる。
「だ、だけど、」
「斬り捨てられなかっただけマシと思え! このたわけ!」
 男の剣幕に圧されて言葉に詰まった士郎は、首根っこをひっ掴んだ赤い外套の男に、庭の隅へ投げ捨てられてしまった。
「いってぇ!」
 植え込みが多少のクッションになりはしたが、あちこち打ちつけ、すぐに身体を起こせない。
「てめぇ、なにするんだっ!」
 やっとのことで身体を起こしたものの、すでに戦いを再開している二人に士郎の声など聞こえている様子もない。
 完全に蚊帳の外の士郎は、今度こそ大人しくその行く末を見守ることにした。青い男が負ければ命の危険はないが、あの赤い外套の男が負ければ、己の命はない。どのみち、士郎が割って入ったところでその確率が変わるわけでもなく、今の士郎には何らできることがない。
 だったら、とその戦いをじっくり見ていようと腹を決めた。何しろ、その、人ならざるものたちの戦いは、士郎の目を釘付けにするには余りある。
 そして、何より、赤い外套の男の剣が士郎の胸中をざわつかせ続けていた。
 何本魔術で剣を作っているのか数えきれていないが、何度も何度もその手に現れる白と黒の対の剣が一等美しいものに見えていた。



 聖杯戦争というものがはじまったのだと教えられたのは、あの青い男・ランサーと突然現れた赤い外套の男・アーチャーが戦っているときに割って入ってきた少女たちからだった。
 その少女たちは二人組で、うち一人は金髪碧眼、銀の鎧に目に見えない武器を握っており、アーチャーが常に劣勢で対していたランサーをあっさりと退かせた。戦うことなど似合いそうにない華奢な彼女はセイバーだという。
(セイバー、なんて……。なんだか強そうな名前だな。こんなに可愛いのに……)
 士郎はセイバー、ランサー、アーチャーという呼び名が、クラス名だということを知らない。したがって、そんな感想を呑気に浮かべていた。
「聞いてる? 衛宮くん」
「ぅあ、は、はい!」
 士郎が返事をすると、満足したように一つ頷き、話を続けるもう一人の少女、遠坂凛。
作品名:BUDDY 2 作家名:さやけ