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BUDDY 2

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 彼女は士郎の通う穂群原学園では優等生で、手の届かないマドンナ的存在、男子生徒の憧れの的、という噂や評価を聞いたことがある。
 士郎はそういう噂話に疎いため、詳しいことは知らないが、彼女が同級生で学園内では有名人であるということと、確かにかわいいということ、そして、士郎の友人である生徒会長とは反りが合わないということだけは知っていた。
 そんな美少女たちが自分の家に居ると思うと一般的男子高校生の士郎は落ち着かない。その上に、深夜に自宅の居間で同級生とその従者だという少女、加えて士郎の従者だといういかつい男と四人で面付き合わせ、聖杯戦争というものの説明を受け、何が何やらの士郎は、その話についていくことだけでも一苦労だった。
 そんな士郎のことなどおかまいなしに、いかつい男、アーチャーは勝手に話を進めていく。少し前までその身を覆っていた赤い外套と黒い装甲姿ではなく、今は上下黒のシャツとスラックスというラフな格好だ。その姿だけを見ていると、サーヴァントなどというものではなく、近所のお兄さんのように見える。
(だからって、俺はこんな、他人の家で家主を無視するような奴と知り合いじゃない!)
 いちいちアーチャーの表情や言い方が鼻について、士郎はムカムカしながら居間での話し合いに参加している。だというのにアーチャーは、あろうことか勝手に台所に入り、勝手にお茶を淹れ、勝手に少女たちをもてなすのだ。
 だが、士郎とて黙って好きにさせはしない。ここは士郎の自宅。そして台所は自分の城とでもいうべき場所だ。勝手をされては困る。というより、勝手をするなと阻止して何が悪いというのか。士郎が当然の権利を主張しようとするも、アーチャーの手際はよく、士郎が手を出す隙がなく、結局、士郎はアーチャーの後ろを文句を言いながらついて回っているだけだった。
 アーチャーがお茶を出したところで話し合いが再開し、不貞腐れた士郎はアーチャーの話を聞くとはなしに聞いている。
「我々は、聖杯戦争には参加しない」
 そう口火を切ったアーチャーに、少女たちは目を白黒させていた。
「私には他に目的がある」
 続けられたアーチャーの言葉に、今度は士郎が目を白黒させる番だった。
 “このマスターを鍛え直そうと思っている”
 そんな勝手極まりないことを己を示して言い放たれ、即座に不平を露わにして腰を浮かせた士郎だが、黙っていろと一蹴され、話は勝手に進んでいった。
(なんなんだこいつ、なんなんだこいつ、なんなんだこいつっ!)
 頭の中で“なんなんだこいつ”という文字の羅列がびっしりとひしめく。だというのに、文句も言えないまま居間での話し合いは終わってしまい、士郎の言葉も存在自体も徹底的に無視され尽くした。
 凛とセイバーを離れの洋間へ案内して戻ってきたアーチャーをじっと睨み、それでも極力怒りを抑えて口を開く。いくらなんでも、ほんの数時間前に会ったばかりの者に対して怒鳴ったりはしない、と必死に大人の対応を試みている。
「なあ、俺は放置なのか?」
「お前に意見する資格などない」
「て、てめえ…………」
 このアーチャーというサーヴァントは譲歩に譲歩を重ねていた士郎の神経を一瞬で逆撫でしてくる。それに勢い込みかけた士郎を押さえ込んだのは、“まともに戦えるくらいの魔力を流してみろ”というキツい一言だった。
(そう……、だよな……)
 聖杯戦争に喚ばれたからには、戦うことが当たり前のサーヴァントに、“戦わない”という選択をさせたのは士郎である。
 己の魔力が少ないせいで、しかも、どうにかこうにか繋がっているようなか細い契約では、戦い云々の前に現界すらギリギリのところだというのだから申し開きようもない。
(本当なら、遠坂とセイバーみたいに……)
 青い男、ランサーだというサーヴァントを撃退したセイバーは、それはそれは強かった。そんな姿を見てしまった士郎には、マスターである者を守ることで精一杯だったアーチャーの口惜しさを感じてしまう。
 言い返すこともできず、また、そんな気も失せ、肩を落とした士郎は、いろいろと確認しようと思っていたことをすべて引っ込め、ただ一つ訊かなければならなかったことだけを口にする。
「あのさ、十年前にも聖杯戦争があったって、言ったよな? もしかして、その……、十年前にあった火災って、何か関係がある……のか?」
 少し驚いた顔でアーチャーは肯定した。ある程度予想をしていた士郎だったが、血の気が引いてしまう。
「だ、だったら、また、あんなことが起きたら、」
「起きはしない」
 はっきりと否定したアーチャーは、凛とセイバーについて説明をしてくれた。
 聖杯戦争において最強のクラスだと言われるのがセイバーであり、しかもそのマスターは魔術師としてもトップクラスである遠坂凛だと。
 この二人がタッグを組めば最強だとアーチャーは言い切る。なぜそんな見てきたことのように言えるのか、と訊けば、“お前は足元にも及ばない”とけなされ、明日から鍛えるからしっかり寝ろ、と言われ、居間から追い出されてしまった。
「家主は俺だぞ……」
 強く言えないところが情けないが、これ以上食い下がっても厭味を言われて腹を立てるだけになるとわかっている。
「はあ……、さっさと寝よう……」
 深夜を過ぎているのもあるが、想像もしなかったような出来事が目白押しで起こっては疲れるものだ。風呂に入り、日課の筋トレをして、士郎は眠りについた。



 翌朝、凛とセイバーに朝食を用意し、彼女たちを見送ったアーチャーに、学校へ行こうとした士郎は玄関から引きずられ、居間へ放り込まれた。
 後ろ手に障子を閉めたアーチャーは高い身長のせいか、浅黒い肌のせいか、それとも不機嫌だからか、目元から上あたりに暗い靄がかかっているように見えて恐ろしい。
「な、なんだよ……、そ、そんな怖い顔したって、お、俺は、」
 しどろもどろで強がったが、アーチャーはそれに何も反応せず、
「理由《ワケ》を話す。おとなしく座れ」
 まるで得体の知れない殺し屋のように恐ろしい印象とは違い、抑揚はないが静かに言われたので、仕方なく士郎は胡座をかいて話を聞く姿勢になった。士郎が座卓の前に座ると、アーチャーは座卓を挟んで正面に正座する。アーチャーの姿勢を正した姿に士郎もつられて正座に座り直した。
「昨夜、凛とセイバーには言わなかったことがある」
 そう口火を切ったアーチャーの話は、すぐには信じられることではなかった。
 口を挟むなと言われた手前黙って聞いていたが、半ばパニックを起こしかけていて、脳がうまく働かない。
 冬木の聖杯戦争を三度経験している。三度とも違う結果になっていったので、今回も同じ事態になることはないという推測。そして、アーチャーが何者であるか。
 一番の驚きは最後の内容だ。
 喉がカラカラに乾いているのに、何度も何度を生唾を飲み、どうにかして理解しようと試みているが、士郎は、なかなかアーチャーの言葉を飲み込めない。
「アンタ、俺なのか…………?」
 質問というよりも、ただの呟きのようではあるが、アーチャーは苦笑交じりに答えてくれた。正確に言えば違うモノであり、派生が同じであるだけだ、と。
作品名:BUDDY 2 作家名:さやけ