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Quantum 第二部

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4.Embrace




味方であれば、敵を追い詰めるであろうと頼もしくも思う。が、敵対関係となった場合、はっきりいって彼らは迷惑以外の何者でもないなと冷や汗を掻く。うっかり気を抜けば、即座にやられる。
 
 ―――しかし、私としたことが下手を仕出かしたものだ。

 考えなしの行動の結果、面倒な事態にシャカは陥っていたのだった。当然と言えば当然の結果なのだが。

「―――我ら二人を相手にそろそろ限界だろう。無駄に苦痛を味わう必要もない。大人しく降参し……」
「ちょ、話聞けって!おい、うわ!」

 ふたたび放たれた黄金の小宇宙二つ。寸でのところでシャカはかわしつつ、踊るように小宇宙を込めた棍棒で迎撃する。誰が大人しく聞いてなどいられるか。いい加減面倒である。

「なんて……気の短い奴!」

 五月蠅い。私は決して気が短い訳ではないのだ。ただ、執拗に食い下がるおまえたちが少々鬱陶しいだけだ、と云いたい言葉を飲み込んでクッと口端をシャカは軽く歪ませる。
 まったく、本当に今までどこに隠れていたのやら。出てこなくてもいい時に限ってタイミングよく射手座の兄が現れ、なおかつ弟のアイオリアまでシャカの放った小宇宙に呼び寄せられたのだった。
 同時に来る可能性をまったく考えていなかったのは馬鹿だとしかいいようのないことである。ここにサガまで参戦していたら、それこそゾッとしない。

 シャカは自身に対して苛々は募る一方だし、普段のシャカならばそれほど苦心はしないだろうが、得意とする奥義の一つも使えない今の状況ではいささか分が悪いことも腹立たしい。
 一人でも厄介なのに力押しでくるこの二人を相手にするのはかなり厳しいものがある。息つく間もなく繰り出される攻撃に真剣にまずいな――と奥歯を噛み締めたその時。

「っ!?」
「なんだっ!?」
「避けろ、アイオリアっ」

 誰もいないはずの背後からぐっと腕を掴まれた。
 そして、激しい小宇宙が発せられ、シャカを通り過ぎてアイオロス、アイオリアに向かって行ったのを認識した。それと同時にぽっかりと口を開けた真闇の奈落へとシャカは堕ちていくような感覚に包まれる。言い知れぬ感覚――恐怖に身体が芯から冷えていきそうになった時、ふわりと背後から抱きしめられたのだ。

「な……っ」

 思わず声を上げかけた時、そっと温かな手が口を塞ぐ。記憶にある香り。そしてくすぐるような低い声が耳元を掠める。

「―――静かに。彼らをやり過ごす。そのまま……そう、私に合わせてくれ。近くの島に飛ぶ」

 緩やかに拡がり、シャカをまるごと包み込む様な小宇宙。優しげに伸ばされた掌に重ね合わせるようにシャカを導いて―――同調。あまりの心地よさと駆けあがるような快感に囚われそうになり、小さく震える。

「くぅ……っ……」

 思わず喉から声が漏れ出てしまい、顔は火照るが、幸い仮面を着けていたことと、相手には背を向けた形であったため、バレることはないはず―――。

「フッ」

 うぅ……バレてる。決して雁字搦めではないのにシャカに回された腕はいまだ解けない。先程までの緊張と興奮もあってか、ひどく鼓動がうるさくて堪らない。そう、これは先程の戦闘のせいだ。決して背後にいる男を意識してのことではない……はず。
 息を潜めるようにすればするほど、鼓動がうるさく、そして覆う体温に眩みそうになる。体調が著しく悪い。こんな具合でサガと対等に渡り合うなどできはしないと、この腕を振り払い、早々に退散して仕切り直すべきだと脳内で警鐘が鳴る。

『離……してもらえないだろうか』

 一応、下手に出てみるが。フッと鼻で笑われるだけだった。ううっ。最大のピンチである。

「やっと、捕まえたのだ。そう簡単に……離したりはしない」

 耳朶を舐めるように響く声にぞくぞくと背を震わせながら、身動ぎできない状態から抜け出そうと試みるがうまくいかなかった。長い時空を超える様な感覚の中で、黄金聖衣さえも突き抜けて確かに伝わってくるのはサガの熱い鼓動。

「ああ、なるほど……シュラが云っていた通りだな。甘い香りがする」

 サガらしからぬ甘い囁きに戸惑うことしかシャカはできなかった。トンと足元に軽い衝撃を受ける。ようやく移動先に到着したのを感じつつも、いつまでたっても同じ姿勢のままから抜け出せないでいた。
 これはつまりサガに捕縛されたということで、ゲーム終了ということなのだろうか?そんなことをシャカは考えていたのだが、その一方でサガは全く変わりなくシャカを捕まえたまま……というより、抱きしめられているといったほうがいい状態である。
 あ~……とか、う~……とか内心では冷や汗ダラダラなシャカをどこか機嫌良さげにも思えるサガがスンスンとシャカの耳元近くで匂いを嗅ぎまくっているのがどうにも腑に落ちないでいた。甘い香りがするってなんだ!?と疑問符ばかりを浮かばせていたところ、不意に「ぺろり」とされた。

「っ!」

思わず声が漏れそうになったが何とか耐えた。耳朶を一瞬舐められた気がする。だが気のせいだ、絶対気のせいだ。サガがそんなことをするはずがない。果物でも菓子でもないし、どんなに香りが甘くてもわたしは食べものではないのだから。食べられるなんてことはないはずだ。

『その……本当に……逃げたりはしない。離して欲しい……』
「………」

 おい、無視するな!たっぷりの沈黙。本気で食って掛かりそうになった時、ようやく腕が解かれた。離れていく体温にほんの少し残念がっている気持ちを見つけて、そんな馬鹿なことはないと思いを振り払うようにシャカは飛び退いた。
 ようやく対峙することのできたサガは少し下げた視線で静かに見守るような、それでいて熱く熔かす様な眼差しでシャカを見ていた。
 ひゅっと息を呑む。何か話しかけなければとシャカは思うが、それを絡みつくようなサガの視線が阻んでいた。一枚一枚、布を剥ぎ取られていくような錯覚に陥る。いや、実際それに近い小宇宙の波動を放っているのだろう。

『―――無礼に過ぎる』

 ようやくサガに念話で告げると目元をサガは細めた。悪戯がばれたか、とでも云わんばかりで益々シャカは面白くない。

「戦う者の肉体ではないようだ。けれどもそれを補って余りある力。それは我らの小宇宙と同等のもののようだな。そして性質の悪いことにひどく魅力的で心惹かれるものらしい」

 前半の言葉にムッとしたシャカだが、後半は疑問符が浮かぶ。

『それで?私をこのようなところに連れてきてどうしたいのか』
「十分に、納得のいくまで話がしたくてね、試しの君と。異質でありながら、同質のようにも思えるあなたの力。正義を試すと仰っていたが、我らの仲間を打ち崩して得られた答えはどうであったのだろうかとね。ああ、大丈夫。しっかり結界は張ってあるから、彼らにはここにいることはわからないだろう。ただし……」
『ただし?』
「シャカには見つかるかもしれないが」

 すっと視線を遠くに泳がせたサガにどきりと鼓動が跳ねる。今、サガはシャカのことを考えたのだろうかと思うと、不思議な気持ちになり、ふるりと小さくシャカは震えるのだった。



作品名:Quantum 第二部 作家名:千珠