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ボクのポケットにあるから。

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   僕のポケットにあるから。

                       作 タンポポ


       1

『私、松村沙友理はですね、二十七枚目シングルの活動をもちまして、乃木坂46を卒業することになりました』

 不意にニコニコ生放送番組「生のアイドルが好き」にて、松村沙友理本人から告げられたのは、乃木坂46からの卒業という言葉であった。
「嘘だろ? 、まっちゅん!」磯野波平は声を大にして携帯画面へと叫んだ。
「嫌でござる、嫌でござるよー!」姫野あたるは顔を歪めて涙ぐむ。
「しっ!」
 風秋夕(ふあきゆう)は右手の指先を口元に当てて言った。
「待て、続きがある。聞き逃したくない……」
「そうだね」稲見瓶(いなみびん)は頷(うなず)いた。溜息を吐く。
「何てこと……」駅前木葉(えきまえこのは)も口元を手で隠し、そのまま黙っていた。

『今週末に選抜発表があると思うんですけど、二十七枚目シングルをもちまして、乃木坂46を卒業しようかなと思いました。すみません、本当に……』

「嫌でござる……」あたるはめいっぱいに目を瞑(つぶ)った。
「どうしてだよ、まっちゅん!」磯野は叫び声を上げる。
「聞こう、今は」稲見は小さな声でそう言った。
 駅前木葉は過呼吸になりかけていた。
 風秋夕は、黙って真剣に携帯画面の松村沙友理を見つめている……。

『実は結構前なんですけど、卒業していくメンバーが多くなって、自分が見送りたいなと思っていた子がいたので、その子の卒業を見守ってから、自分も卒業できたらいいなと思ったので』

 携帯画面からの音声以外は、何も聞こえない空間だった。
 五人だけが立つ、巨大地下建造物〈リリィ・アース〉の地下二階メインフロア。
 松村沙友理のその声は、弱弱しい物だった。

『残りの時間も、いつも通り皆さんと楽しく、思い出を作っていけたらいいなと思います! 乃木坂46の松村沙友理ももう少しで終わっちゃうんですけど、その日まで、最後までよろしくお願いします』

 やがて、ニコニコ生放送番組の「生のアイドルが好き」が終了すると、風秋夕が最初に声を発声した。
「時間が、ほとんど無いな。きついよ、まちゅ」夕は携帯電話をはるやまのスーツのポケットにしまった。
「言葉もない……」稲見は少々ためらって、そう呟(つぶや)いた。
「考えねえようにしてたんだよっ!」磯野はがっくりと肩を落として言った。「まっちゅんの卒業なんてっ、認めらんねえよっ!」
 駅前木葉は、声を殺して、泣き始めていた。
「歳月(とき)の流れは、教えてくれる……過ぎ去った普通の日々が、かけがえのない足跡と……」あたるは頬に垂れた涙を腕で拭って、続ける。「サヨナラに、強くなれ。この出会いに意味がある……。悲しみの先に続く、僕たちの未来……」
 姫野あたる以外の四人は、その呟きの様な独唱を、黙ったままできいていた。
 始まりはいつだって、そう何かが終わること
 もう一度君を抱きしめて
 守りたかった 愛に代わるもの
 躊躇(ちゅうちょ)してた間に、陽は沈む、切なく
 遠くに見える鉄塔、ぼやけてく、確かな距離
 君が好きだけど
 ちゃんと言わなくちゃいけない
 見つめあった瞳が星空になる
 サヨナラは通過点、これからだって何度もある
 後ろ手でピースしながら、歩き出せるだろう、君らしく……
 サヨナラに強くなれ、この出会いに意味がある
 悲しみの先に続く、僕たちの未来
 始まりはいつだって、何かが終わること
 もう一度君を抱きしめて、本当の気持ち問いかけた
 失いたくない
 守りたかった、愛に代わるもの
「まちゅに、会いたいな」
風秋夕はにこりと微笑んで、その涙を指先で拭った。
 二千二十一年四月十五日、松村沙友理が自身がMCを務めるニコニコ生放送番組「生のアイドルが好き」にて、二千二十一年六月九日発売の二十七枚目シングルの活動をもって乃木坂46から卒業する事を発表したのであった。

       2

「どうだった、まちゅ」夕は真佑に言った。「がんばって笑ってた?」
「え、考えると泣いちゃう」
田村真佑はそう言うと、その表情を悲し気なものに変えた。
「あー、ごめんね、まゆたん」夕は少しだけ焦りながら真佑に言う。「泣かすつもりじゃなかったんだ、ごめーん、あーごめんごめん」
「女泣かせが……」磯野はソファにふんぞり返って言った。
 現在、〈リリィ・アース〉地下二階メインフロア東側のラウンジにて、乃木坂46四期生の田村真佑と賀喜遥香、掛橋沙耶香と金川沙耶、清宮レイと柴田柚菜、北川悠理と早川聖来、遠藤さくらと筒井あやめ、矢久保美緒と弓木奈於、林瑠奈と佐藤璃果、松尾美佑と黒見明香。それと、乃木坂46ファン同盟の風秋夕(ふあきゆう)と稲見瓶(いなみびん)、磯野波平の十九名が四角く囲われているソファ・スペースにて談笑していた。
 五人、五人、五人、四人となって着席している。尚(なお)、四人が着席するソファにいるのは、風秋夕、稲見瓶、磯野波平、遠藤さくら、であった。
 それぞれ、間隔を遮るアクリル・パネルを備え付けていた。
 二千二十一年、春を終えようとする現在、地下二階メインフロアに流れている音楽は、乃木坂46の『アウト・オブ・ザ・ブルー』である。
 皆基本的に食事は済んでいたが、まだちらほらと食べている者も何人かいた。
「まゆたんほら、泣かない。ね?」夕は疑似的な笑顔で真佑に微笑みかける。「まーゆたん、あれ? ほら、泣きやんだ! あらー」
「女泣かせんのうめーんだな」磯野はししっと笑った。
「るせえ」
「いい、大丈夫。奈於のパジャマって、何、それ?」真佑は気持ちを一新させて奈於を指差して言った。「可愛い……」
「ひらひら」柚菜が言った。
「可愛いですか?」奈於は自分のパジャマを見る。「これはー、えっとぉ、何だろ、猫ぉ?」
「猫ー!」と何人かが口をそろえた。
「猫なんだな……」磯野はじっくりと観察しながら言った。
「どう見ても猫ですよ」聖来は楽しそうに言った。
「普段こんなの着ないのねー? だからあ、ちょっと冒険しようかと思って」奈於はわざとらしくはにかんだ。
「奈於ちゃんにとって猫は冒険ってことぉ?」悠理は不思議そうに笑顔で言った。
「ううん、ちと違うけどお……。でも悠理ちゃんが言うならそうしまぁす」奈於はどや顔の笑みを浮かべて悠理に言った。
「くろみんのも可愛い」真佑は完全に立ち直って言った。
「あー可愛い」
「似合うー」
「チェック柄にしましたー」明香は印象的な笑窪(えくぼ)で言った。
「これレイちゃん狙ってたよね?」聖来が言った。
「そうこれレイ着たーい、って思ってた」レイは顕在的な笑顔で言った。「でもレイは、お揃いにするから大丈夫です」
黒見明香は笑顔で返す。「じゃあぜひ後でレイちゃんは写真を撮ってファンの皆さんに見せてあげて下さい」
「もうレイ疲れちゃって寝ちゃうからダメだよ」レイは眠たそうに微笑んだ。
 たった今の可愛らしかった清宮レイを、三人の男子は見逃さなかった。実に胸がときめく瞬間であった。
「璃果ぴょんも可愛い~」真佑はMCのように見えないマイクを回していく。
「似合う~」
「さくらんぼ~」