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ポケットの中の夏。

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ポケットの中の夏。

                    作 タンポポ

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 二千二十一年七月四日、その日の零(れい)時に更新された乃木坂46公式ブログにて、大園桃子が、二千二十一年九月四日をもって、乃木坂46を卒業する事を発表した。
 港区の何処かの高級住宅街に秘密裏に存在する、地下巨大建造物〈リリィ・アース〉。風秋夕(ふあきゆう)と稲見瓶(いなみびん)、そして磯野波平(いそのなみへい)は、乃木坂46の一期生齋藤飛鳥と、同じく一期生の樋口日奈と、三期生の大園桃子と、四期生の柴田柚菜と同じく四期生の矢久保美緒と黒見明香と、現在地下二十二階の施設〈プール〉に遊びに訪れていた。
 尚(なお)、女子達は水着の上にTシャツと短パンを着用している。男子達は長めのハーフパンツタイプの海水パンツを穿(は)いていた。
「ぷはあ! おーい、桃ちゃんこっち来いってよ~!」磯野は水面から顔を出して桃子に腕を振った。「浮き輪使えば怖くねーってえーっ!」
大園桃子はにやけながら答える。「行かないってえ」
大園桃子はプールを眺めながら、プールサイド・チェアに座っていた。丸い円状のテーブルにはドリンクとかき氷が置いてあった。
もう片方のプールサイド・チェアには、齋藤飛鳥が横になっている。
「ふう、飛鳥ちゃん、泳がない?」夕は髪をかき上げながら、プールサイドで飛鳥を見上げる。「せっかく、奇跡的に気が向いたんだから」
「涼みに来たの、泳ぎに来たわけじゃないし」飛鳥はドリンクを手に取りながら言った。
「水着着てるのに?」夕は残念そうに言う。
「これは、何かハプニング的な事が起こった時に、濡れないようにですよ」飛鳥はドリンクを飲んで、またプールサイド・チェアにもたれかかり、サングラスをした。
 一方、こちらでは樋口日奈と柴田柚菜と矢久保美緒と黒見明香と稲見瓶がビーチボールを使ってプールで遊んでいる。
「はーい行くよイナッチ!」日奈はビーチボールを叩いて稲見に飛ばした。
「行くよ、くろみん」稲見はビーチボールを明香に飛ばす。
「行きます! あ」明香は美緒にビーチボールを飛ばし損ねた。「ごめんなさーい、へへ」
「くろみんバッテン一個だ~」美緒はビーチボールを取りながら笑った。「ゆんちゃん行くよ~!」
「アタック!」柚菜は強くビーチボールを日奈の方へと飛ばした。「あごめんなさい!」
 ビーチボールは大園桃子達のいるプールサイドに転がっていった。
 現在二十二階の〈プール〉には、乃木坂46の『ひと夏の長さより…』が流れている。
「あはは、やんちゃ」桃子はビーチボールを手に取って、笑顔でプールの日奈に返した。
「桃ちゃんもやらない?」日奈は甘い笑顔で誘う。遠くにいた磯野が誘惑されていた。
「やりません」桃子はけけっと笑った。
「飛鳥は~?」日奈は飛鳥に言う。
「やんなーい」飛鳥は寝たままで答えた。
「つーまんないの」日奈はそう言って、また稲見達の待つ元のポジションへと戻っていった。
「桃子ちゃ~ん」夕は低いテンションで桃子に言う。「与田ちゃんとカメ探した時みたいにさー、泳ごうよ、とまでは言わないよじゃあ。水に浸かっちゃいなよ。気持ちいいよ」
「見てるだけで充分」桃子は笑顔で夕に返した。「てか、何で桃子ここに来たんだろう」
「海が見たいって言うからさ、誘ったんだよ」夕のテンションは低かった。
「あそっか」桃子はまた笑顔になる。「だからプール見たから、もう大丈夫」
「えー」
「なあ、飛鳥っちゃん、てばよお!」磯野はプールサイドで大声をはった。
「う、る、っさい、なー」飛鳥は上半身を起こして、磯野を見る。「何よ?」
「そのまんまドボンすりゃいいじゃんかー」磯野は眉(まゆ)を顰(ひそ)めて飛鳥に言った。「ひなちま達だってTシャツのままだぜ?」
「はいはいドボンしたい時はドボンしますから」飛鳥はまた寝る。
「どうするよ、夕」磯野は夕に言う。「美女が二人も、引けねえよなあ?」
「引きたくないけど」夕は肩を上げ下げして、鼻を鳴らして笑った。「こりゃ難しいんじゃない? 乃木坂ザ、頑固ナンバー1と、ナンバー2だよ」
「どっちが1よ」
「いや知らないけどな」夕は日奈達の方を見て言う。「人の苦労も知らないで、イナッチの奴……。普通について来やがって」
「だぜ。誘ったのは俺達だってえのによお」磯野もそちら側を睨んで言った。「なーに乃木坂とビーチボール遊びしてやがんだあの無表情は……、きったねえ奴だな、友情とかねえのかよ」
「桃子ちゃんと飛鳥ちゃん誘い続けてて、完全にタイミング逃したな」夕は腕を組んだ。
「どうするよ、夕、お前なんか考えろよ」
「お前も考えろよ!」
「うーるっせえなー!」飛鳥は笑いながら言った。「全っ部、聞こえてんですよ、あなた達」
「あら」夕は苦笑する。
「だって、飛鳥ちゃん来てくんねーからさあ」磯野はすねる。
「あっちでやって下さい」飛鳥はそう言って、またプールサイド・チェアに横になった。
「桃子ちゃん」夕は日奈達を眺めていた桃子に言った。
「はぁい?」桃子は夕に振り返る。「何?」
「去年のクリスマス・イヴに、王様ゲームやったじゃんか?」夕は言う。
「ああー、はい」桃子は笑顔で頷いた。
「あの時、波平に退場くらった俺に、夕君いた方がいい、て言ってくれたじゃん?」
「ああー、はぁい。言ったかも、ね」桃子は笑う。
「すっげえ嬉しかった」夕はとびっきりの笑顔で桃子に言った。「結局、退場しちゃったけど、桃子ちゃんの尊い優しさが特別なギフトだから」
「あーあれはぁ、ただ単に波平君が暴れた時に、夕君がいないとどうなっちゃうのかなあて思っただけで」桃子はけけっと笑った。「野放しの波平君が怖かっただけ」
「どういう意味よ、桃ちゃん……」磯野は顔をしかめて桃子を見る。「キングコングじゃねえんだぜ? 俺」
「そっか、じゃあ」夕は桃子に微笑んだ。「一緒に遊ぼう。プール入ろうぜ」
「いやあ、何がそっかなの?」桃子は眼を見開いて夕に言った。「遊ばないし」
「ちっと考えた方がいいぜ、夕」磯野は顔をしかめて言った。
「どうすっかなー……。上がるふりして、手ぇ掴んでそのままドボン、てのは危ないからなぁ……」
「ジャンケンとかしてくんねえかな?」
「いやーこの空気だときついだろぉ……」
「うーるっせえわ!」飛鳥は笑いながら、上半身を起き上がらせて二人に言った。「だっから、全部聞こえてんだよ、あっちでやれっての!」
「スパルター」夕は眼を白黒させて言った。
「鬼教官」磯野は眉を顰めて言った。
「かってに言ってろ……」飛鳥はまたプールサイド・チェアに寝そべる。「おら、行け、向こう」
「はーい。ってもなぁ」夕は躊躇(ちゅうちょ)して磯野に耳打ちする。「今更さわやかに、俺達も入れて~なんて、言えるか?」
「お前言えよ」磯野は呟く。
「あ、ずーりーなてめえ」夕は顔を驚かせた。
「勢いだ、勢い!」磯野はその先を指差す。「行くぞおら!」
「よし!」
 風秋夕と磯野波平は潜水した。水中を潜りながら、樋口日奈達の元へと近づいていく。
「行くよ~、イナッチ~わあ!」日奈は驚愕する。
「ぷはっ!」
「ぶはあ!」
作品名:ポケットの中の夏。 作家名:タンポポ